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生涯にわたる健康的な食生活のために必要な、大学生の口腔保健上の課題が明らかに

国内の大学生の口腔衛生に対する認識とその関連因子が報告された。中部大学大学院生命健康科学研究科(予防医学研究グループ)の山本司氏、伊藤守弘氏らによる、解析対象5,000人以上に及ぶ大規模な調査の結果であり、「Healthcare」に論文が掲載された。

生涯にわたる健康的な食生活のために必要な、大学生の口腔保健上の課題が明らかに

高校卒業後は、75歳になるまで歯科健診を受ける機会がなくなる

近年、全身の健康とQOLの維持のために「歯」が大切であることが、広く認識されるようになった。成人後に歯を失う主要な原因である歯周病が、糖尿病や心血管疾患のリスクと関連があること、高齢者ではオーラルフレイルから低栄養、誤嚥性肺炎のリスクが上昇することなどが明らかにされ、栄養スタッフにも口腔衛生への積極的な関与が求められるようになってきている。

一方、身体疾患に関しては、成人後にも職場健診や住民健診、特定健診など、切れ目なくスクリーニングを受ける機会があるのに対して、口腔疾患に関しては、学校歯科健診の対象である高校を卒業すると、後期高齢者歯科健診の対象となる75歳になるまで、公的な健診を受ける機会がなくなる。つまり、口腔衛生は数十年間にわたり個人の認識にゆだねられていて、認識が低い場合には人生の早期に歯を失い、全身の健康状態やQOLの低下につながりやすくなる懸念がある。

よって、学校歯科健診が終了後の初期、つまり大学に在学中に口腔衛生に関する認識を高めておくことが、生涯にわたり歯を保持し健康とQOLを維持するために重要と考えられる。しかしこれまでのところ、国内の大学生の口腔衛生の認識は十分調査されていない。今回報告された研究は、このような背景のもと実施された。

5,000人以上の学部生に横断的な調査を実施

この研究は、愛知県の私立大学(学部生1万574人)で行われた。年度初めの健診を受診した9,392人のうち研究参加に同意し有効回答が得られたのは5,651人(60.2%)だった。

調査はGoogleフォームを用いて行われ、口腔の状態(良好か不良か、および、齲歯、歯周病、口臭、歯肉出血の有無など)、口腔衛生に関する認識(歯磨き用具の選択に配慮しているか、喫煙が歯周病のリスク因子であることや8020運動を知っているかなど)、口腔衛生に関する行動(歯磨きの頻度、洗口液や歯間ブラシ・デンタルフロスの使用、歯科受診状況など)について、匿名で回答してもらった。

口腔の状態が良好な学生と不良な学生で、口腔衛生関連の認識と行動に有意差

大学院生を除外し5,482人を解析対象とした。おもな特徴は、年齢19.32±1.26歳、男子67.4%であり、喫煙歴を有する学生が7.0%で、13.1%の学生は大学スポーツに参加していた。大半(84.3%)は家族と同居していた。

口腔の状態:4人中1人が「不良」

口腔の状態は、4人中3人(75.9%)が「良好」、4人中1人(24.1%)が「不良」と回答した。

両群を比較した場合、年齢、性別や学年の分布、家族との同居、喫煙歴、運動系(体育会系)部活への所属などに有意差はなかった。それに対して、口腔の状態が不良と回答した群では、齲歯、歯周病、口臭、歯肉出血があるとする割合が有意に高かった。反対に、全般的な健康状態が良好、生活が満足とする割合は、口腔の状態が良好と回答した群で有意に高かった。

口腔衛生に関する認識:口腔状態が良好な学生は歯磨きを重要視している

歯周病を生活習慣病と認識している割合は77.9%、8020運動を認識している割合は59.2%であり、8020運動を認識している人の割合は、口腔の状態が良好と回答した群で有意に高かった。一方で、歯周病を生活習慣病と認識しているかどうかについては、有意差はなかった。

一方、喫煙が歯周病のリスク因子であるとの認識は78.5%、歯磨きの際に齲歯や歯周病を意識している割合は63.0%、歯磨き用具の選択を意識している割合は31.3%であり、これらについては口腔の状態が良好と回答した群のほうが有意に高かった。反対に、歯科治療の費用の不安(36.4%)や歯科治療の痛みの不安(18.2%)がある割合は、口腔の状態が不良と回答した群のほうが有意に高かった。

口腔衛生に関する行動:口腔状態が良好な学生は、実際に歯を守る行動をとっている

歯磨きの頻度は1日2回が最多(63.2%)であり、16.5%が洗口液を使用、15.6%が歯間ブラシ・デンタルフロスを使用だった。また、かかりつけ歯科医のいる割合は55.4%であり、28.1%が定期的に歯科健診を受診していた。

これらのうち、歯磨き頻度1日1回以下の人は、口腔の状態が不良と回答した群が有意に高かった。反対に、洗口液の使用者、定期的な歯科受診者の割合に関しては、口腔の状態が良好と回答した群が有意に高かった。

口腔状態が良好であることに関連のある因子が明らかに

これらのデータを基に、口腔状態が良好であることを従属変数、その他の把握された因子を独立変数とするロジスティック回帰分析が行われた。その結果、口腔状態良好に独立した関連が認められた、正の関連因子(オッズ比〈95%信頼区間〉)は以下のとおり。

口腔状態関連では、齲歯がないこと(6.253〈4.952~7.897〉)、歯周病がないこと(4.476〈3.083~6.497〉)、歯肉出血がないこと(1.834〈1.588~2.117〉)、口臭がないこと(1.829〈1.584~2.111〉)。

行動関連では、歯磨きの頻度(1日1回以下を基準として3回以上は1.745〈1.386~2.195〉、2回は1.604〈1.336~1.924〉)、歯磨き用具の選択に配慮していること(1.466〈1.230~1.746〉)、歯磨きの際に齲歯や歯周病に注意すること(1.378〈1.181~1.608〉)、朝食摂取頻度が週5日以上であること(1.261〈1.091~1.458〉)、洗口液の使用(1.255〈1.022~1.540〉)、定期的な歯科受診(1.235〈1.049~1.455〉)。

このほかに、全般的な健康状態が良好なこと(2.493〈2.011~3.092〉)や、現在の生活に満足していること(1.251〈1.073~1.459〉)も有意な正の関連がみられた。

一方、歯科治療中の痛みの不安(0.572〈0.482〜0.679〉)、歯科治療の費用の不安(0.769〈0.664〜0.890〉)、および、口腔衛生に関する指導を受けた経験(0.812〈0.698〜0.945〉)は負の関連因子として抽出された。

著者らは「本研究により、国内の大学生が自己認識する口腔衛生の状態とその関連因子が包括的に明らかにされた」と総括している。とくに、幼少期から続けられていた歯科検診が実施されなくなる移行期の大学生に焦点をあてた、大規模な調査の結果であることの意義を強調。「予防医学や公衆衛生の領域において、効果的な健康増進戦略を策定するための重要なエビデンスとなり得る」と述べている。

一方で、横断研究であること、口腔状態の主観的な評価に基づく解析であることなどの留意点をあげ、「縦断研究や介入研究の実施が求められる」と付け加えている。

文献情報

原題のタイトルは、「Investigation of Oral Health Awareness and Associated Factors Among Japanese University Students: Analyzing Behaviors Influencing Lifelong Oral Health Promotion」。〔Healthcare (Basel, Switzerland). 2025 June 7;13(12): 1370〕
原文はこちら(MDPI)

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