カカオの成分「ココアフラバノール」が運動中の疲労による判断力低下を抑制する可能性 早稲田大学・立命館大学
カカオの成分であるココアフラバノールを利用したサプリメントが、運動中の判断力を向上するとする研究結果が報告された。早稲田大学と立命館大学の研究グループによる研究成果であり、「Psychopharmacology」に論文が掲載され、プレスリリースが発表された。著者らは、この成分を用いたサプリメントの摂取によって、「競技中の素早い判断が可能となり勝負の明暗を分けるかもしれない」としている。
運動中の判断力を向上させるサプリの探索
中強度程度の有酸素性運動中、認知機能は向上することが知られている。しかしながら、考え事をし続けながら有酸素性運動を行うと、認知疲労が生じ、認知機能は低下する。
このことは、状況判断を要するスポーツにおいて、運動誘発性の疲労だけでなく、認知疲労も競技パフォーマンスを左右する要因であることを意味している。しかしながら、認知疲労下での運動中の判断力を向上させるサプリメント(栄養素)は明らかにされていなかった。
高用量ココアフラバノールで認知疲労下での有酸素性運動中の判断力が向上
本研究では、安静時の精神的疲労感を軽減させる作用のあるココアフラバノール※1に着目。認知疲労下での有酸素性運動前に高用量のココアフラバノールを摂取しておくと、精神的疲労感が軽減し、低下するはずの認知機能が改善するのではないかと考えた。
そこで二重盲検法※2で、高用量のココアフラバノールが入ったカプセル2錠を摂取する条件と、低用量のココアフラバノールが入った2錠のカプセルを摂取する条件を設定し、無作為化クロスオーバー試験で比較検証した。
具体的には2錠のカプセルを摂取した1時間後に認知疲労下での運動中の判断力(速度と精度)を測定。サッカーを想定し、50分間かけて認知疲労を誘引するプロトコルを設定した。そのほかに、心拍数や血圧、血液バイオマーカー(脳のエネルギー基質である血糖値と乳酸値、脱水の指標である血漿量、酸化ストレスマーカーのチオバルビツール酸反応性物質※3、神経細胞の成長を促す脳由来神経栄養因子)、気分(精神的疲労感、主観的集中力、意欲、不快感、イラつき、覚醒度)を評価した。
※1 フラバノール:抗酸化作用のある栄養素。ポリフェノールの一種。
※2 二重盲検法:研究を実施する者側も、被験者側も、実施している条件(サプリメント)がどの条件であるのかわからない状態で行う実験方法。
※3 チオバルビツール酸反応性物質:TBARSとも呼ばれる。生体内の酸化ストレス(エネルギー代謝亢進による副産物)の増加に伴う、脂質過酸化の測定方法。過剰な酸化ストレスは、生体(細胞)を傷つけると考えられており、脳もその対象の例外ではない。
結果として、高用量ココアフラバノールを摂取すると、認知疲労下での有酸素性運動中の判断力が向上した(図1)。なお、精神的疲労感など、そのほかに測定したデータは高用量ココアフラバノール摂取の影響を受けなかった。
図1 認知疲労下での有酸素性運動中の判断力に対する高用量ココアフラバノールの効果
血管機能の改善や認知症予防効果にも期待
本研究では、高用量ココアフラバノールの単回摂取の効果について検証を行い、競技中に認知疲労が生じ得るスポーツにおいて、その判断力の向上効果を明らかにした。つまり、競技力向上のために高用量ココアフラバノールが有益であることを提供したエビデンスと言える。
今回使用したサプリメントの効果は、カカオの木の実の種子から抽出された天然素材であるフラバノール摂取によってもたらされたもので、ドーピングの対象にはならない。類似の食品には、カテキン(緑茶)やりんご、ウコン(クルクミン)、赤ワイン(レスベラトロール)が挙げられるが、カカオが最も効率的にフラバノールを摂取できる。また、このフラバノールを習慣的に摂取することで、血管機能などを中心とした健康増進効果があることも認められている。
さらに、プロサッカー選手は認知症になりやすいというデータもあるが、今後、競技前に摂取する高用量のフラバノールの短期的な効果だけでなく、長期的な認知症予防効果などがあるのか明らかになれば、より有益なサプリメントとして認知される可能性がある。
メカニズムの特定と、精神的疲労感をも軽減し得るアプローチの探索が必要
一方、本研究では高用量のココアフラバノールを摂取しても、運動時の精神的疲労感を軽減させる作用は認められなかった。精神的疲労感は、とくに日々のトレーニングにおいて重要な要素であり、今後は精神的疲労感を軽減させるためにはどのようなアプローチが必要かも考えていく必要がある。
また、高用量のココアフラバノール摂取によって認知疲労下での運動中の判断力が向上した機序について、今後さらなる検証が必要。
研究者のコメント
2022年サッカーワールドカップで日本代表が強豪スペインを相手に勝利したことは記憶に新しい。この重要な試合で、三笘薫選手の“1.88mm”が演出した2得点目のシーンからわかるように、サッカーなどの競技スポーツにおいて、判断力はパフォーマンスを左右する非常に重要な要素。本研究は状況判断を常に必要とするスポーツにて生じ得る認知疲労に対するアプローチを行ったが、この視点での研究はこれまでになかった。本研究成果を受け、今後、関連する研究成果が増えることで、競技力のさらなる向上に貢献することが期待される。
プレスリリース
文献情報
原題のタイトルは、「A single intake of flavanol-rich cocoa improves inhibitory executive process under cognitive fatigue during aerobic exercise in men: a randomized, double-blind, placebo-controlled crossover trial」。〔Psychopharmacology (Berl). 2025 Jun 10. doi: 10.1007/s00213-025-06826-7〕
原文はこちら(Springer Nature)