クレアチンが運動による筋損傷からの回復を促進、女性には「むくみ」を抑制する可能性も
運動誘発性筋損傷に対するクレアチン一水和物(CrM)の効果を、性別や年齢の違いに留意しながら検討した、対プラセボ二重盲検比較試験の結果が「Nutrients」に掲載された。慶應義塾大学体育研究所の山口翔大氏、稲見崇孝氏(同大学院健康マネジメント研究科)らの研究によるもので、CrMの筋損傷抑制・回復促進効果が確認されるとともに、とくに女性では運動後の浮腫も有意に抑制されたという。
クレアチン一水和物(CrM)の回復促進作用を、若年男性以外も含めて検討
クレアチン一水和物(creatine monohydrate;CrM)は、筋肥大や筋力増大を促すエルゴジェニックエイドとして広く利用されている。また、運動誘発性筋損傷(exercise-induced muscle damage;EIMD)の回復促進作用も有しており、山口氏・稲見氏らの先行研究でもその作用が示されている。
EIMDでは筋力低下、関節可動域の低下、筋硬直、遅発性筋肉痛などが生じ、トレーニングの量や質を低下させる。質の高いトレーニングの継続とパフォーマンスの維持のため、EIMDからの迅速な回復が重要となる。
CrMによるEIMDからの回復促進作用は、これまで主に若年男性を対象とする研究で示されてきており、女性、および、より広い年齢層での知見は少ない。EIMDの病態に性ホルモンが関与することが報告されていること、および加齢とともにEIMD後の回復が遅延しやすくなることも知られていることから、若年男性以外での研究が望まれる。
これらを背景とし山口氏・稲見氏らは、幅広い対象でCrMのEIMD回復促進作用を検討した。
研究の対象と方法について
事前の統計学的検討から、このトピックの検証に必要な研究参加者数は36人以上と計算され、脱落を見込み60人を対象とした。研究参加の組み入れ基準として、減量中でないこと、疾患や傷害を有していたり服薬治療中でないこと、喫煙者・習慣的飲酒者でないこと、サプリメントを摂取していないこと、習慣的なトレーニングを半年以上続けていないことなどが設定されていた。
年齢と最大収縮筋力(maximal voluntary contraction;MVC)の分布が偏らないように留意したうえで、CrM群とプラセボ(セルロース)群のいずれかに無作為化した。用量は1日あたり3gとし28日間連続摂取し、運動負荷を行った後にも5日間摂取して、計33日間の摂取とした。
28日間の介入後に、MVCの50%の重量のダンベルで肘関節に負荷をかけ、5秒間で90°から180°に伸展するという遠心性の運動を10回、5セット実施。介入前と運動負荷直後、48時間後、96時間後に、MVC、肘関節可動域、上腕周囲長、筋硬直(上腕二頭筋のせん断弾性率〈shear modulus;SM〉、およびビジュアルアナログスケール(VAS)による主観的な筋肉痛と筋疲労の程度などを評価した。
個人的な理由による離脱や研究プロトコルからの脱落により20人が除外され、解析対象は40人(各群20人)となった。ベースラインにおいて、上記の指標はすべて有意差がなかった。なお、CrM群は年齢25.1±7.1歳、女性10人、プラセボ群は26.8±8.4歳、女性11人だった。
CrMはEIMDを抑制し、女性ではむくみも抑制される
クレアチン一水和物(CrM)は運動誘発性筋損傷(EIMD)を抑制し回復を促進する
結果について、まず、CrM群とプラセボ群とを比較した結果をみると、複数の評価指標から、CrM群ではEIMDの影響が少なく、かつ回復が促進されることが明らかになった。
例えば最大収縮筋力(MVC)は運動直後(p=0.036)および48時間後(p=0.047)に有意差が認められ、CrM群で高かった。筋疲労や筋肉痛は、運動直後、48時間後、96時間後の時点で有意差があり、CrM群で低値だった。筋硬直(上腕二頭筋のSM)は96時間後に有意差が観察され、CrM群が低値だった。
女性ではさらにCrMによる浮腫(むくみ)の抑制作用も認められる
次に、本研究の主題である性別を考慮した比較を行った。すると、プラセボ群ではすべての評価指標について、男性と女性による有意な差異は観察されなかった。対照的にCrM群では男性よりも女性において、EIMD抑制作用がより強いことを示唆する結果が示された。とくに、運動直後には複数の評価指標で有意差が観察された。
例えば、上腕周囲長(負荷前からの変化率)は女性のほうが低値であり(p=0.002)、筋硬直(上腕二頭筋のSM)も同様に女性のCrM群が低値だった(p=0.037)。さらに、浮腫(むくみ)を示唆する全身水分量(p=0.019)や細胞内水分量(p=0.015)についても、運動直後の値に性別間の有意差が認められ、女性のCrM群が低値だった。
より個別化されたCrM摂取プロトコルの確立へ
本研究によって、CrMの習慣的な摂取によりEIMDが抑制され回復も速まることが示された。とくに女性においては、運動後の浮腫抑制作用が強く認められ、CrMに性特異的作用が存在する可能性が考えられた。著者らは、「CrMサプリメントのEIMD回復促進作用を、スポーツパフォーマンスの維持や効率的なリハビリテーション戦略の一部として効果的である可能性を示唆している。今後の研究では、個人の体組成とホルモン状態を考慮したCrM摂取プロトコルの最適化、および長期的な影響の検討が望まれる」と総括している。
なお、女性において浮腫抑制作用が強くみられたことに関しては、先行研究に基づき、「エストロゲンの抗炎症作用や細胞膜安定化作用とCrMの作用が相加的に働き、炎症性サイトカインの放出や血管透過性の亢進が抑制されるという機序が考えられる」との考察が述べられている。
文献情報
原題のタイトルは、「The Effects of Creatine Monohydrate Supplementation on Recovery from Eccentric Exercise-Induced Muscle Damage: A Double-Blind, Randomized, Placebo-Controlled Trial Considering Sex and Age Differences」。〔Nutrients. 2025 May 23;17(11):1772〕
原文はこちら(MDPI)