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クレアチン摂取で筋損傷の回復が有意に促進、試合が続く時の対策に有望か プラセボ対照RCT

クレアチンを連続摂取していると、運動誘発性筋損傷からの回復が促進されることを示すデータが報告された。プラセボ対照RCTの結果であり、上腕のダンベル運動後、最大168時間後にも筋力を含む間接マーカーに有意差が観察されたという。慶應義塾大学体育研究所の山口翔大氏、稲見崇孝氏らの研究によるもので、「Nutrients」に論文が掲載された。

クレアチン摂取で筋損傷の回復が有意に促進、試合が続く時の対策に有望か プラセボ対照RCT

クレアチンの回復促進効果のエビデンスを補強する研究

高強度運動による筋肉への負荷によって、一時的な筋力や関節可動域の低下、筋の硬さの増加、遅発性筋肉痛といった、運動誘発性筋損傷(exercise-induced muscle damage;EIMD)の症状が現れる。EIMD症状の発現中はパフォーマンスが低下しトレーニング負荷の調整も必要となるため、できるだけ短期間でEIMDを回復することが、効果的なトレーニングの継続と競技成績の向上に欠かせない。

一方、クレアチンには筋力増強に関する豊富なエビデンスがあって、多くのアスリートがエルゴジェニックエイドとして利用しており、さらに回復促進にも有用とする複数の研究報告がみられる。ただし、筋力増強への影響を検討した研究に比べると、回復に関する研究は、サンプルサイズやデザインなどの点で信頼性が十分とは言えない面がある。そこで山口氏らは、統計学的に堅牢なサンプルサイズを設定したうえで、エビデンスレベルの高い研究デザインとされるプラセボ対照の二重盲検無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)を行い、有用性を検証した。

クレアチンまたはプラセボで28日間介入後に筋力や筋損傷の程度を評価

先行研究に基づき、対プラセボでクレアチンの回復に関する有意差の検討に最適なサンプル数は、各群10人と計算された。年齢や性別、人種による影響を抑えるため、21~36歳の日本人男性を条件として、36人をスクリーニング対象とした。このうち4人は研究開始前に辞退。残り32人を、最大筋力と年齢の分布に偏りがないように調整したうえで無作為に二分し、1群にクレアチン3g/日、他の1群にプラセボ(セルロース)3g/日を支給し、28日間連続摂取してもらった。クレアチンとプラセボは外観からは区別できないよう処理した。解析対象は、喫煙者や習慣的飲酒者などを除外後に各群10人、計20人となった。

介入前のベースライン時点において、年齢(両群ともに平均23歳)、体重、体脂肪率、肘関節可動域、肘関節最大収縮筋力(maximal voluntary contraction;MVC)、上腕周囲長、筋の硬さ(上腕二頭筋のせん断弾性率〈shear modulus;SM〉および生化学マーカー(尿中タイチンNフラグメント〈urinary titin N fragment;UTF〉)、ビジュアルアナログスケール(VAS)による主観的な筋肉痛と筋疲労の程度などに、有意差はなかった。

28日間の介入後、MVCの50%の重量のダンベルで負荷をかけ、5秒間で90°から180°に伸展するという遠心性の運動を10回、5セット実施し、その直前と直後、1、2、4、48、72、96、168時間後に、上記の指標を測定した。なお、これらはすべて左腕で行った。

では、各指標への影響をみていこう。

肘関節可動域

肘関節可動域は、運動後24時間の時点で有意差がみられ、クレアチン群のほうが高値だった。

筋力(MVC)

肘関節最大屈曲筋力(MVC)は、運動直後、48、96、168時間の時点で有意差がみられ、いずれもクレアチン群のほうが高値だった。

上腕周囲長

上腕周囲長は、両群ともに運動負荷により増大した。運動直後24時間時点までは、群間に有意差がなかったが、48~168時間ではプラセボ群のほうが高値であり、炎症等の遷延が示唆された。

せん断弾性率(SM)

上腕二頭筋のせん断弾性率(SM)は、運動後96、168時間の時点で有意差がみられ、いずれもプラセボ群のほうが高値だった。

主観的な筋疲労

VASによる筋疲労の程度は、運動直後と168時間の時点で有意差がみられ、いずれもプラセボ群のほうが高値だった。

このほかの評価指標である、尿中タイチンNフラグメント(UTF)、およびVASによる筋肉痛の程度には、有意差が観察されなかった。

試合が立て込んでいるときには、事前にクレアチンを摂取しておくと良いのではないか

著者らは本研究の対象が男性のみであり、女性の月経周期による影響などを別途検討する必要があるといった限界点を述べたうえで、「クレアチンを事前に一定期間摂取しておくことによって、EIMDからの回復を明らかに促進させる可能性があることを示唆した。この改善は、主観的評価よりも、最大筋力(MVC)やせん断弾性率(SM)などの客観的評価した指標において、とくに顕著だった。この知見は、連続的に競技に参加するアスリートにとって重要と言える」と結論づけている。

なお、EIMDのマーカーとされる尿中タイチンNフラグメント(UTF)は群間差が非有意だったことに関連して、以下のような考察が述べられている。マウスを用いた先行研究では、クレアチンによってEIMDの抑制が確認されているが、その際にUTFの上昇は抑制されないというデータが報告されており、クレアチンキナーゼ(creatine kinase;CK)の血液中への逸脱とUTFの尿中への排泄はメカニズムが異なる可能性があるという。よって、クレアチンはタイチンの分解には大きな影響を与えることなく、EIMDからの回復を促進するのではないかとのことだ。

なお、本研究は大正製薬株式会社との共同研究として実施され、研究資金の一部を同社が提供した。ただし、同社はデータ解析等には関与していない。

文献情報

原題のタイトルは、「The Effect of Prior Creatine Intake for 28 Days on Accelerated Recovery from Exercise-Induced Muscle Damage: A Double-Blind, Randomized, Placebo-Controlled Trial」。〔Nutrients. 2024 Mar 20;16(6):896〕
原文はこちら(MDPI)

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