さまざまな食材の「混合食」は、栄養バランスが良いだけでなく地球環境にも優しい 東京大学が研究発表
さまざまな食材を含む混合食が、栄養ニーズを満たしつつ、かつ環境への影響を低減するという、より持続可能な料理であることが明らかになった。東京大学大学院工学系研究科などの研究チームの研究によるもので、米国科学振興協会(AAAS)発行の「Science Advances」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースが掲載された。
発表のポイント:持続可能な食生活の形成に向けて
この研究では、料理レベルでの持続可能な食生活を探求するために、新たに混合整数計画モデルを構築した。構築されたモデルを用いて、料理ごとの栄養価、価格、およびカーボンフットプリントを定量化して評価した結果、混合食が栄養ニーズを満たしつつ環境への影響を低減する、より持続可能な料理であることが明らかにされた。この結果は、食品システムの変革を推進し、より持続可能な食生活の形成を促すことへの貢献が期待される。
研究の概要:料理の栄養化、価格、環境負荷を同時に評価
東京大学大学院工学系研究科と同大学未来ビジョン研究センターの研究チームは、食生活の環境および健康への影響を探求し、混合食※1が栄養ニーズを満たしつつもカーボンフットプリント※2を低減させることを明らかにした。本研究では、料理ごとの価格と栄養価を考慮するとともに、産業連関分析※3を通じてカーボンフットプリントを評価した。
その結果、牛肉を中心とした料理が最もカーボンフットプリントが高く、豚肉や野菜ベースの料理は低いことや、カーボンフットプリント全体に対して調理による直接的なCO2排出の影響は小さく、CO2の主な排出源は原材料の生産過程にあることが明らかになった。また、カーボンフットプリントの高い料理は高価であり、低いものは比較的安価であることもわかった。
本研究成果は、持続可能な食政策の立案に寄与し、健康を確保しながらカーボンフットプリントを削減する指針を提供する。この方法論は世界各国での研究に適用可能で、食の選択が環境と健康に与える影響についてのより深い理解への貢献が期待される(図1)。
図1 料理ごとの栄養、価格、およびカーボンフットプリントの間のトレードオフ
発表内容:カーボンフットプリントは料理のタイプによって異なる
これまでのところ、食品システムの持続可能性に関する先行研究が不足しており、とくに現代社会において、世界人口の増加と都市化の加速によって食品需要が増大し、持続可能な食生活選択にトレードオフが生じていることの理解が重要となっている。国連食糧農業機関(FAO)は、2050年までに世界人口が91億人に達し、食品生産を70%増加させる必要があると予測している。
本研究チームは、料理レベルでの持続可能性分析に着想を得て、経済学と数学を用いたモデリングのアプローチを導入し、健康、環境、経済という三つの側面から、45種類の料理に関する持続可能な食生活スキームを探求した。具体的には味の素株式会社のレシピデータベースを基に選ばれた料理について、カーボンフットプリントを定量化し、栄養価と価格を評価した。さらに、16の食生活シナリオ※4を提示し、異なる料理の組み合わせでカーボンフットプリントを最小限に抑えつつ、個々の栄養ニーズを満たす混合整数計画モデルを構築した。
研究結果からは、とくに牛肉を含む料理が高いカーボンフットプリントをもち、豚肉と野菜ベースの料理が比較的低いカーボンフットプリントをもつことが示された(図2)。
図2 主要な料理のカーボンフットプリントの分布
調理過程での直接排出は全体のカーボンフットプリントに対して比較的小さく、料理のタイプによって異なることが明らかになった。また、栄養評価からは、肉ベースの料理が一般的に高いコレステロール量をもつ一方で、異なるタイプの料理間では特定の栄養素において顕著な違いがあることが確認された。そのため、いろいろなタイプの料理を食べたほうが、栄養バランスが良くなることがわかった。
今回の研究成果から、持続可能な食生活選択に関する新たな知見が確認された。今後、持続可能な食品システムへの移行という社会への波及効果と、持続可能性研究の発展に寄与することが期待される。
プレスリリース
混合食は栄養とカーボンフットプリントのバランスを良くする―広範な食品群ではなく個別の料理を対象とした 食の健康・環境影響についての新しい分析―(東京大学工学部・同大学院工学系研究科)
文献情報
原題のタイトルは、「Mixed diets can meet nutrient requirements with lower carbon footprints」。〔Sci Adv. 2024 Apr 12;10(15):eadh1077〕
原文はこちら(American Association for the Advancement of Science)