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ビタミンD不足が骨格筋内の脂肪蓄積を促進? ビタミンDの骨格筋に対する新たな作用の発見 東京大学

ビタミンDの骨格筋に対する新たな作用が報告された。ビタミンDが間葉系前駆細胞の脂肪細胞への分化を抑制することが明らかにされ、ビタミンDの欠乏によって骨格筋内に脂肪が蓄積することが実証されたという。国立長寿医療研究センターや名古屋大学などからなる研究グループの研究であり、「Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle」に論文が掲載されるとともに、同センターのサイトにニュースリリースが掲載された。

ビタミンD不足が骨格筋内の脂肪蓄積を促進? ビタミンDの骨格筋に対する新たな作用の発見 東京大学

研究の概要:サルコペニアの成因におけるビタミンD欠乏の意義とは?

この研究は、国立長寿医療研究センター、名古屋大学、東京大学、松本歯科大学、医療創生大学、九州大学の共同研究として行われた。ビタミンDが、骨格筋内に蓄積する脂肪組織の起源である間葉系前駆細胞(MPs)の脂肪細胞への分化を抑制することや、ビタミンD欠乏が骨格筋内の脂肪蓄積を促進する可能性があることなどを、遺伝子組換えマウスや培養細胞などを用いて明らかにした。

高齢者の骨格筋で観察され筋肉の質の低下(筋質低下)を導く異所性脂肪(IMAT)形成にビタミンDが関与する可能性を示したはじめての報告。筋質低下は高齢者疾患であるサルコペニア(骨格筋減弱症)との関連性が指摘されていることから、本研究の成果は、サルコペニアの病態生理解明や新しい予防・治療法の開発につながると期待される。

研究の背景:骨格筋内脂肪蓄積(IMAT)はなぜ生じるのか?

加齢に伴う骨格筋減弱症であるサルコペニアは、超高齢社会を迎えた我が国において喫緊の対策課題。しかし、サルコペニアの詳しい病態生理は明らかになっておらず、予防や治療の標的となる分子も同定されていない。

高齢者の骨格筋では、健康な若者にはない異所性の脂肪蓄積がみられる(図1)。この骨格筋内脂肪蓄積(IMAT)※1は、筋質低下を引き起こすことから、近年サルコペニアとのかかわりが指摘されている。すなわち、IMATの形成機構が明らかになれば、サルコペニアの病態生理解明や新しい予防・治療法の開発に結び付く。

※1 IMAT:Intramuscular Adipose Tissueの略語。高齢者や筋原性・神経原性疾患患者の骨格筋内には霜降り肉のように脂肪組織が異所性に蓄積することがあり、筋質低下と深いかかわりがあるとされている。

図1 高齢者の骨格筋内の脂肪組織(IMAT)

高齢者の骨格筋内の脂肪組織(IMAT)
高齢者の骨格筋内には脂肪組織(IMAT)が蓄積し(左図の黒矢印)、その割合は加齢に伴って増加する(右図)。
(出典:国立長寿医療研究センター)

研究の内容

研究グループは、筋細胞とそれ以外の骨格筋構成細胞とでビタミンD受容体(VDR)の発現を比較し、IMATの起源である間葉系前駆細胞(Mesenchymal Progenitor Cells:MPs)※2において、VDRが高発現していることを見い出した(図2)。このことは、非筋細胞であるMPsがビタミンDの新しい標的細胞であることを示唆している。

※2 間葉系前駆細胞(MPs):Fibro/Adipogenic Progenitor(FAP)とも呼ばれ、筋線維間の隙間(間質)に存在しPDGFRaなどの細胞表面マーカーを発現している単核の細胞。ふだんは支持細胞として骨格筋の恒常性維持に寄与するが、特殊な条件下では脂肪細胞や骨細胞などに分化する多分化能を有している。近年、高齢者の骨格筋に出現する異所性の脂肪組織(IMAT)の起源であることが示されているものの、生体内における脂肪分化の制御機構は明らかになっていない。

図2 マウス骨格筋から単離した筋細胞と間葉系前駆細胞のビタミンD受容体

マウス骨格筋から単離した筋細胞と間葉系前駆細胞のビタミンD受容体
間葉系前駆細胞(MP)では、高いビタミンD受容体(VDR)の発現が認められる。
(出典:国立長寿医療研究センター)

次に、マウス骨格筋から単離したMPsを用いて脂肪分化に対するビタミンDの作用を検討した。その結果、ビタミンDが転写因子Runx1の発現制御を介してMPsの脂肪細胞への分化を抑制することがわかった(図3)。

これらの結果は、ビタミンDが従来から標的とされてきた筋細胞(筋線維)※3だけでなく別の骨格筋構成細胞にも作用し、その働きの一つがMPsの脂肪細胞分化の抑制であることを示している。

※3 詳細:血中ビタミンD量の低下や筋内ビタミンDシグナル伝達の低下が筋力低下を導き、将来的なサルコペニア発症を誘発する可能性について基礎研究と疫学研究から報告

図3 間葉系前駆細胞の脂肪細胞分化はビタミンDで阻害される

間葉系前駆細胞の脂肪細胞分化はビタミンDで阻害される
マウス骨格筋から単離したMPsを脂肪分化誘導条件で培養する際にビタミンDを添加すると、脂肪細胞(PPARγ陽性、Oil-Red O陽性)の数が減少する。このことは、ビタミンDがMPsの脂肪分化を抑制する働きを有することを示している。
(出典:国立長寿医療研究センター)

さらに研究グループは、(1)ビタミンD欠乏飼料を与えた野生型マウス、および、(2)MP特異的にVDRを欠損したコンディショナルノックアウトマウス※4という2種類の動物モデルを用いて、ビタミンD欠乏やMPにおけるビタミンDシグナルの阻害がIMAT形成に関与する可能性について検証した。その結果、ビタミンD欠乏飼料を与えた老齢マウスと、腱切除により筋萎縮を誘導したMP特異的VDR欠損マウスにおいてIMAT形成が確認された(図4)。

これらの結果は、ビタミンD欠乏やビタミンDシグナル阻害が骨格筋内の脂肪蓄積に関与することを強く示唆している。

※4 コンディショナルノックアウトマウス:標的とする遺伝子を特定の細胞で特定の時期に欠損あるいは発現するようにした遺伝子組換えマウスのこと。本研究では、ビタミンD受容体遺伝子(Vdr)を成体の間葉系前駆細胞でのみ欠損させたVdrMPcKOマウスを新たに作出して実験に用いた。

図4 ビタミンD欠乏食を与えたマウスの骨格筋には脂肪蓄積が見られる

ビタミンD欠乏食を与えたマウスの骨格筋には脂肪蓄積が見られる
ビタミンD欠乏食を3カ月間与えた老齢マウスの骨格筋(上図)と、筋委縮を誘導したMP特異的VDR欠損マウスの骨格筋にIMATが形成された(下図)。Perilipinは脂肪で発現しているタンパク質(赤色)。
(出典:国立長寿医療研究センター)

研究成果の意義:サルコペニアの予防や治療につながる知見

IMATの形成は筋質低下を導く極めて重要な要因であり、その機構解明はサルコペニアに対する予防法や治療法の開発に結びつく。今回、研究グループは、培養細胞と動物モデルを用いた検証からIMAT形成におけるビタミンDの重要性とその作用機序の一端を明らかにした。高齢者においてビタミンDが不足しがちになることは広く知られており、本研究により、高齢者のIMAT形成やサルコペニア発症にビタミンD不足が深く関与する可能性が示された(図5)。

図5 ビタミンDが減少した高齢者ではサルコペニア発症リスクが高い可能性

ビタミンDが減少した高齢者ではサルコペニア発症リスクが高い可能性
ビタミンDが減少した高齢者では、MPsが脂肪細胞へと分化しやすい体内環境となり、IMAT形成(筋質低下)とサルコペニア発症リスクが高まっている可能性がある。
(出典:国立長寿医療研究センター)

研究グループでは、「今後、ヒトでの詳細な検証が必要だが、本研究の成果は骨格筋恒常性維持におけるビタミンDの新たな一面を提示しており、サルコペニアの予防法や治療法の開発に向けた重要な知見となることが期待される」としている。

関連情報

ビタミンDの骨格筋に対する新たな作用を発見―ビタミンD欠乏が骨格筋内の脂肪蓄積を促進する可能性―(国立長寿医療研究センター)

文献情報

原題のタイトルは、「Lack of vitamin D signalling in mesenchymal progenitors causes fatty infiltration in muscle」。〔J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2024 Mar 27〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)

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