早期HFpEFの栄養障害が予後悪化に関連 管理栄養士の早期介入が改善のカギ
早期HFpEF患者の約37%が栄養障害のリスクを有しており、そのリスクのある患者は全死亡や心不全関連イベントのリスクが約3倍高いことを示唆する報告が、「Korean Circulation Journal」に掲載された。群馬大学大学院医学系研究科循環器内科学の小保方優氏らの研究によるもので、同氏らは「心不全患者の栄養障害のスクリーニングと、管理栄養士による介入の必要性が浮き彫りになった」と述べている。
HFpEFにおける栄養障害の有病率や予後との関連を探る研究
心不全はかつて、心臓の収縮能(左室駆出率〈ejection fraction;EF〉)が低下した状態と捉えられていたが、EF低下がないか軽度であって拡張能が低下している場合にも症状が現れることが明らかになり、現在そのような状態は「左室駆出率の保たれた心不全(heart failure with preserved ejection fraction;HFpEF)」として位置付けられている。HFpEFは進行性であり、早期に診断し介入する必要があるが、左室駆出率が低下した心不全(heart failure with reduced ejection fraction;HFrEF)に比べ、病態や治療に関する知見がまだ十分でない。
一方、HFpEFには栄養障害が伴いやすく、その存在が予後と関連しているとする報告がある。ただし、早期のHFpEFにおける栄養障害の有病率や臨床的意義は明らかでないことから、小保方氏らはその実態を探る研究を行った。
横断的解析で有病率などを検討し、縦断的解析で予後との関連を検討
群馬大学医学部附属病院にて2019年9月~2024年7月に、労作性呼吸困難のため運動負荷心エコー検査を受けた連続981例のデータを利用。HFpEFの診断基準を満たし、心不全症状を有しており、過去に心不全入院の記録がない患者を「早期HFpEF」(米国心臓協会/心臓病学会の分類におけるステージC)と定義すると、341人が該当した。なお、20歳未満、過去にEF50%未満の記録のある患者などは除外されている。
この患者群のデータを用いて、ベースラインにおける栄養障害の有病率、栄養障害の有無と運動耐容能との関連などを横断的に解析。また一定期間の追跡が可能だった患者を対象として、栄養障害の有無と予後との関連を縦断的に解析した。
横断的解析:HFpEF患者の栄養障害の有病率は36.6%
栄養状態の評価には高齢者栄養評価指標(Geriatric Nutritional Risk Index;GNRI)を用いて、98点以下の場合を栄養障害のリスクありとすると36.6%が該当した。
栄養障害のリスクの有無で2群に分けて比較すると、年齢や性別の分布に有意差はなかったが、栄養障害あり群はBMIやヘモグロビン、アルブミン、総コレステロール(TC)が有意に低く、心不全の重症度のマーカー(BNP、NT-proBNP)や炎症反応のマーカー(CRP)、および併存症としてCOPDを有する割合が有意に高かった。
栄養障害のある患者は運動耐容能が低く、末梢での酸素利用能が低下している
341人のうち296人(87%)は、安静時と運動負荷時の心エコー検査と呼気ガス分析が行われていた。
安静時検査からは心臓の構造や機能に顕著な違いは認められなかった。
一方、運動負荷時の検査からは、栄養障害を有する群は運動耐容能(Peak VO2)が低く(11.9±3.5 vs 10.7±3.5mL/kg/分、p=0.001)、心拍出量や末梢組織での酸素利用能(動静脈酸素含量差〈arteriovenous O2 content difference;AVO2〉)、ミトコンドリアの酸化的リン酸化能(mitochondrial oxidative phosphorylation capacity;Vmax)が有意に低いという差異が認められた。
縦断的解析:栄養障害のあるHFpEF患者は全死亡・心不全イベントのハザード比が3.07
追跡データを得られた患者は282人(83%)だった。中央値435日(四分位範囲265~766)で、52件の複合アウトカム(全死亡、心不全入院、予定外受診での利尿薬静脈投与、利尿薬の増量)が発生していた。
栄養障害を有する患者のイベントリスクは、交絡因子未調整モデルでハザード比(HR)3.07(95%CI;1.73~5.44)と有意に高く、年齢や横断研究で有意差の認められた前述の因子(BNP、CRP、TC、COPDなど)を調整したモデルでも有意性が維持されていた。
HFpEF患者の栄養状態の評価と栄養スタッフによる早期介入が望まれる
著者らは、本研究が三次医療機関の患者データを用いた後方視的研究であることから、他の医療環境での実態とは異なる可能性があること、因果関係の検討が制限されることなどを限界点として挙げている。
そのうえで、早期HFpEFの約37%に栄養障害のリスクが認められ、予後とも有意に関連していたという結果を基に、「たとえ早期のHFpEFであってもGNRI等を用いて栄養障害のスクリーニングを実施し、管理栄養士による専門的な介入を行うことの臨床的意義が示された」と総括している。また、栄養障害のリスクが運動負荷時の末梢での酸素利用能低下と関連していたことから、「横断研究のためメカニズムの考察は困難ではあるが」と断りつつ、「栄養障害を伴うHFpEF患者は骨格筋の減少、酸素拡散障害、ミトコンドリア機能障害、呼吸器筋の減少などによって運動耐容能が低下している可能性がある。栄養介入はそれらの改善を通じて、HFpEF患者の運動耐容能を向上させ得るのではないか」と付け加えている。
文献情報
原題のタイトルは、「Prevalence, Pathophysiology, and Prognostic Importance of Malnutrition Risk in Early-Stage Patients With Heart Failure and Preserved Ejection Fraction」。〔Korean Circ J. 2025 May 2〕
原文はこちら(Korean Society of Cardiology)