米国NCAAアスリートのオメガ3系脂肪酸摂取不足が明らかに 魚介類の摂取頻度が有意に関連
全米大学体育協会(National Collegiate Athletic Association;NCAA)所属アスリートのオメガ3系脂肪酸摂取不足の実態が明らかになった。心血管疾患の発症リスクが「低」と判定されるカテゴリーの該当者率は、0%だったという。
オメガ3系脂肪酸とスポーツの関連性、および摂取推奨量
オメガ3(n-3)系多価不飽和脂肪酸(Omega-3 polyunsaturated fatty acids;ω-3FA)であるエイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid;EPA)とドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid;DHA)は、心血管系に対する重要な生理的役割を果たすことが知られているが、そればかりでなく、神経や骨格筋への作用ももつ。アスリートの運動誘発性酸化ストレス、筋肉痛、有酸素運動能、嫌気性持久能力、脳震盪、外傷性脳損傷などのリスクとの関連も報告されており、アメリカンフットボール選手を対象とした検討で脳神経保護作用が認められたとの報告もある。
ヒトはオメガ3系脂肪酸の合成能力がないため、必須脂肪酸としてEPAとDHAを外因的に摂取しなければならない。魚介類はオメガ3系脂肪酸の豊富な供給源だが、その含有量は魚の種類によって最大10倍程度の差異があり、また魚介類の過剰摂取には水銀曝露の懸念を伴う。
現在、アスリートに対するオメガ3系脂肪酸摂取量のコンセンサスは得られていないが、米国の栄養と食事のアカデミー(旧・米国栄養士会)は、1日500mgのEPA・DHAの摂取を推奨している。また全米医学アカデミー(旧・米国医学研究所)は、EPAやDHAの前駆物質にあたるα-リノレン酸(Alpha-linolenic acid;ALA)を、成人男性は1日1.6g、成人女性は1.1g摂取することを推奨している。
NCAAの規則変更
一方、NCAAは2019年以前、オメガ3系脂肪酸サプリメントを「許可されない」カテゴリーに分類し、使用には医師の指示が必要としていた。しかし2019年に規則変更がありアスリート自身が利用できるようになったことで、オメガ3系脂肪酸サプリメントへの関心が高まった。
このような背景をもとに、本論文の著者らは、学生アスリートを対象に行った、オメガ3系脂肪酸摂取量および体内のオメガ3系脂肪酸を表すオメガ3指数(Omega-3 index;O3i)のデータを解析・検討した。
オメガ3指数とは
オメガ3指数は、赤血球膜中のEPAとDHAの合計を総赤血球脂肪酸に占める割合で表した指標。生物学的変動性が少なく、直近のオメガ3系脂肪酸摂取量に影響されないという特徴がある。心血管疾患予防の観点からは、オメガ3指数が4%未満は高リスク、4~8%は中程度リスクであり、8%以上の場合に低リスクとされている。
NCAAディビジョン I アスリートで調査
この調査は、2018~2019年度に実施された。調査対象となったのはNCAAディビジョン I アスリート。スポーツ施設内へのポスター掲示や電子メールなどでの参加協力の呼びかけに応じた、9団体からの1,562人に食事調査を行い、さらに301人には採血によりオメガ3指数を測定した。このうちアンケートの回答に不足があった者を除き、最終的に食事調査は1,528人(男性51.0%)、オメガ3指数は298人(同54.6%)のデータを解析対象とした。
これらの解析対象者の競技種目は、体操、陸上競技、水泳・ダイビング、クロスカントリー、サッカー、バスケットボール、バレーボール、野球、ソフトボール、ゴルフなどだった。
食事調査でのオメガ3系脂肪酸摂取状況
食事アンケート調査の結果、「毎週2匹以上の魚料理を消費する」という推奨事項を満たしていたのは601人(39%)だった。EPA、DHAの供給源としての魚の種類としては、サーモンとエビが多く、回答者の半数以上が挙げた。一方、αリノレン酸(alpha-linolenic acid;ALA)の供給源としては、キャノーラ油(85%)、クルミ(53.9%)、チア種子(43.6%)、亜麻油(34.9%)、タラ肝油(3.3%)などが挙がった。
性別で検討すると、男性は女性より、はるかに多くのEPA(53.4 vs 40.4mg/日,p=0.0042)とDHA(106.4 vs 83.9mg/日,p=0.0091)を摂取していた。その一方、αリノレン酸は女性のほうが多く摂取していた(530.4 vs 626.6mg/日,p=0.0281)。
栄養と食事のアカデミーの推奨(1日500mgのEPA・DHA)を満たしているのは91人(6%)、全米医学アカデミーの推奨(1日にαリノレン酸を男性は1.6g、女性は1.1g)を満たしているのは62人(4%)に過ぎなかった。
競技種目による摂取量に有意差はなかった。
オメガ3系脂肪酸サプリメントの使用状況
229人(15%)がオメガ3系脂肪酸サプリメントを使用していた。153人(10%)はアスリート自身で購入し、76人(5%)は所属する団体の医師が発行した処方箋によってサプリメントを入手していた。
血液検査の結果
オメガ3指数(O3i)は、2.25~7.23%の間に分布した。
114人(38%)は心血管疾患のリスクが「高」、184人(62%)は「中」であり、リスク「低」は0人(0%)だった。
性別や年齢、学年、競技種目、所属施設による差は認められなかった。
魚介類の摂取頻度がオメガ3指数と有意に関連
性別や年齢、学年、競技種目、所属施設で調整のうえ、魚介類の摂取頻度とオメガ3指数の関連を検討すると、魚介類の摂取量が1サービング多いごとにオメガ3指数が0.27ポイント上昇するという有意な相関が認められた(r2=0.3701,p<0.01)。
アスリートのオメガ3系脂肪酸改善へ
本検討の限界点として著者らは、解析対象アスリートの競技種目に偏りがあったこと、ディビジョンIIやIIIのアスリートの検討ができていないことなどを挙げている。
そのうえで、「オメガ3系脂肪酸サプリメント摂取に関する2019年のNCAA規則変更前における、NCAAディビジョン I アスリートのオメガ3系脂肪酸の状態が最適なものではなかったことが確認された。これらの結果は、アスリートのオメガ3系脂肪酸の状態を改善するという栄養介入の必要性を示している。また、今後の栄養介入の効果を測定する際のベースラインデータとしても使用可能である」とまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「Dietary and Biological Assessment of the Omega-3 Status of Collegiate Athletes: A Cross-Sectional Analysis」。〔PLoS One. 2020 Apr 29;15(4):e0228834〕
原文はこちら(PLOS)