ラマダンや時間制限食の運動パフォーマンスへの影響を文献レビューで読み解く
イスラム教国のラマダン期間中は、断続的な絶飲食を繰り返す。また、近年、体重管理法の一つとして、摂食量は制限せずに摂食する時間を制限する「時間制限食」が行われるようになってきた。
ところで、イスラム教徒のスポーツアスリートはラマダンによるパフォーマンスへの影響を受けないのだろうか? また、除脂肪体重を落とさずに減量するため時間制限食を実践するアスリートもみられるが、その際のパフォーマンスへの影響も気になるところだ。このような疑問に答えるシステマティックレビューの結果が報告された。
解析対象報告の特徴
著者らは、1980~2019年12月までに公開された、ラマダンによる断続的断食(Intermittent fasting;IF)、時間制限食(time restricted feeding;TRF)に関する論文から、18歳以上の成人を対象に介入または観察研究を行った報告を対象とする文献的検討を行った。PubMed、Web of Science、Sport Discusという3つのデータベースから、ヒットした7,789件の論文を3名の著者がそれぞれ独立してスクリーニングし、最終的に28件の論文を解析対象とした。
28件中、半数の14件は対照群を置かない非対照試験だった。15件はラマダン中に実施され、23件は実験室、6件は体育施設または合宿施設で実施されたものだった。研究対象者数は8~85人に分布したが、多くの研究(18件)は10~20人だった。
14件は健康で中等度に活動的な人、6件は非活動的な人を対象としており、他の10件は訓練を受けた男性アスリート(サッカー選手、陸上競技またはレジスタンストレーニングを受けた男性)を対象とする研究だった。3件の研究には女性も含まれていた 。
主な結果
筋力の変化
12件の研究で、IFと筋力の関連が報告されていた。推定結果をプールしたメタ回析では、ラマダンIF前後での変化は対照群と有意差がなかった。
有酸素能力の変化
有酸素能力を評価した15件の研究の36%で変化が認められた。すべてのIF前後のデータをメタ解析した結果、VO2maxに対するIFの影響は有意でなかった。
ただし、IFを実施した群と対照群の事後データを比較した結果からは、有意な負の標準化平均差(Standardized mean difference;SMD)が認められた(SMD=-1.045,p<0.001)。また、ラマダンIF研究のみで解析した結果も同様に有意だった(SMD=-2.204,p<0.001)。
反対にTRF研究のみで検討すると(SMD=1.315,p=0.001)と、VO2maxと有意な正のSMDが認められた。
嫌気性パフォーマンスの変化
嫌気性パフォーマンスの変化は7件の研究で検討されており、そのうちの1件のみがウインゲートテストでの最大速度に対するIFの負の有意な影響を報告し、その他の研究は非有意だった。
体組成の変化
体組成は21件と、多くの研究で頻繁に検討されていた。ただし、その多くは統計的に有意でなかった。
推定結果をプールしたメタ回析から、IFによる脂肪量または体重に対する有意な負の影響が認められ(SMD=-0.435,p=0.023)、ラマダンIFのみの解析でも有意だったが(SMD=-0.638,p=0.04)、その一方でTRFのみの解析では非有意だった(SMD=-0.152,p=0.359)。
ラマダンIFとTRFの相違のメカニズム
以上をまとめると、まず、ラマダンIFによってVO2maxは大幅に低下した。著者らはそのメカニズムを、ラマダンに伴う脱水が血液量、最大心拍出量、筋グリコーゲン貯蔵を減少させたためと考察している。ただし、既報によると、ラマダンによる有酸素能力の統計的に有意な低下はラマダンIFの初期段階でのみ確認され、ラマダンの後半には低下が少ないという。
一方、ラマダンIFとは対照的に、TRFではVO2maxにプラスの影響が認められた。これについて著者らは、交感神経刺激による心拍出量の増加、筋肉の酸化能の亢進などの影響を考察している。
加えてTRF後のVO2maxの改善には、体組成の正の適応が部分的に関与していると考えられる。TRFは除脂肪体重のわずかな増加をもたらすとの報告もある。さらに、空腹時に運動をすると、サーチュイン1(SIRT1)とリン酸化AMP活性化蛋白質キナーゼ(AMPK)の発現が増加して、ミトコンドリア生合成の調節に影響を及ぼす。
著者らはこれらのメカニズムが、VO2max向上のためのTRFとラマダンIFの影響の相違となって現れるのではないかとしている。
文献情報
原題のタイトルは、「Effects of Intermittent Fasting on Specific Exercise Performance Outcomes: A Systematic Review Including Meta-Analysis」。〔Nutrients. 2020 May 12;12(5)〕
原文はこちら(MDPI)