新型コロナ感染前と感染後で、アスリートのパフォーマンスと食生活はどのように変化するか
アスリートが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患した場合、罹患時の病状が軽症であっても、罹患後のスポーツパフォーマンスに有意に低下しているとするデータが、ポーランドから報告された。持久系アスリートを対象とした研究で、最大酸素摂取量や最大心拍数などの低下が認められたという。ただし、比較対照群が設定されていないため、この変化がCOVID-19の罹患によるものか、またはパンデミックによりトレーニングが制限された影響なのかは判断できない。
軽症COVID-19で後遺症なしでもパフォーマンスに影響する?
COVID-19パンデミックが世界中の人々の生活を一変させ、アスリートを含む市民の健康状態に多大な影響を及ぼしたことについては、多数の報告がなされている。また、アスリートのパフォーマンスという点では、当然ながら本人がCOVID-19に罹患した場合、その影響が懸念される。とくに「long COVID」などと呼ばれる後遺症を発症した場合、パフォーマンスのダメージはかなり大きいと想定される。
ただし、アスリートは一般に若年であることが多く、一般市民より健康状態が良いことが多い。そのためCOVID-19の罹患時にも重症化するリスクは低い可能性があり、軽症のCOVID-19であれば罹患による影響は相対的に少ないとも考えられる。とはいえ、COVID-19に罹患後のアスリートのパフォーマンスの変化は、詳しく検討されていない。
COVID-19罹患前後の心肺運動負荷試験(CPET)のデータを比較
今回紹介する論文は、ポーランドのアスリートのうち、COVID-19罹患前に心肺運動負荷試験(cardiopulmonary exercise testing;CPET)が行われていて、その後、COVID-19に罹患し、罹患後にもCPETが行われ、COVID-19罹患前後でのパフォーマンスの比較が可能であったアスリートのデータを比較するという手法で行われた。CPETは2021年6月~2022年12月に実施されていた。
研究対象はプロまたはアマチュアの持久系アスリート。適格条件は、COVID-19罹患前3年以内に行われたCPETのデータがあり、COVID-19に感染し(PCR検査または抗体検査で陽性判定を受け)、COVID-19急性期は軽症であって(入院治療を要さず)、罹患後にlong COVIDの症状がみられず、再度のCPET施行時点でPCR検査が陰性であること。除外条件として、呼吸器疾患(COPDまたは管理不良の気管支喘息)、Hb10g/dL未満の貧血が設定されていた。
研究参加者の特徴
上記の基準を満たす49人のデータが解析された。
主なベースラインデータは、年齢が39.9±7.8歳で男性が87.8%であり、BMI24.0±2.5、体脂肪率17.1±4.7%。
行っている競技は40.8%が陸上長距離、28.6%は自転車競技、他の30.6%はトライアスロン、サッカー、格闘技など。トレーニング歴は、1~2年が8.2%、3~5年28.6%、6~10年38.8%、10年以上21.3%。
健康状態の自己評価は、0~5点のリッカートスコアで、COVID-19罹患前4.8±0.5、罹患後は4.1±0.5だった。20.4%のアスリートは、COVID-19罹患時に14日以上、症状が遷延したことを報告し、また46.9%が罹患により競技への参加を棄権していた。
CPETは、トレッドミルまたは自転車エルゴメーターを用いて行われ、62.8%はトレッドミル、37.7%は自転車エルゴメーターで測定されていた。COVID-19感染前後で施行された心肺運動負荷試験(CPET)の施行間隔は591.7±282.2日で、COVID-19罹患前のCPETからPCR検査陰性(感染の終了)までの間隔は436.4±290.4日、PCR検査陰性から罹患後のCPETまでの間隔は155.3±82.52日だった。
COVID-19罹患後の酸素摂取量や心拍数が有意に低値
COVID-19の罹患前後で心肺運動負荷試験(CPET)のさまざまな指標に、有意差が認められた。例えば酸素摂取量(VO2)は、最大値(VO2max)、無酸素性代謝閾値(anaerobics threshold;AT)レベル(VO2at)、呼吸性代償開始点(respiratory compensation point;RCP)レベル(VO2rcp)のいずれも、COVID-19罹患後の値のほうが有意に低値だった。詳細は以下の通り。
Vo2maxはCOVID-19罹患前が47.8±8.0mL/kg/分、COVID-19罹患後が45.0±7.1mL/kg/分、VO2atは同順に35.0±6.5mL/kg/分、罹患後が32.4±6.0mL/kg/分、VO2rcpは43.9±7.4mL/kg/分、40.5±6.7mL/kg/分(いずれもp<0.001)。
また、心拍数については最大心拍数の変化は有意でなかったものの、無酸素性代謝閾値(AT)レベル(HRat)、呼吸性代償開始点(RCP)レベル(HRrcp)の心拍数は、以下に示すようにCOVID-19罹患後の値のほうが有意に低値だった。HRatは罹患前が145.1±10.9bpm、141.1±10.1bpm(p=0.001)、HRrcpは同順に168.8±9.2bpm、165.1±9.8bpm(p<0.001)
食習慣とCPETパラメーターとの関連
この研究では、食事摂取頻度調査も行われた。それによると、アスリートはCOVID-19パンデミック中に、水ではなく加糖飲料やフルーツジュースを飲んだり、加工肉の摂取頻度が高くなる傾向が認められた。
また、食事摂取頻度調査と心肺運動負荷試験(CPET)で得られた結果の関連も検討されている。その結果、パンデミック中の加工肉の摂取頻度が高いアスリートほど、最高乳酸値や最大心拍数が高くなるといった有意な関連が認められた。
以上より論文の結論では、「持久系アスリートは、COVID-19罹患後にスポーツを再開するに際して、特別な専門的ケアを必要とする。とくに、トレーニング負荷と栄養状態を慎重に調整する必要がある。栄養士は、パンデミック中のアスリートの食習慣の変化とその影響を検討すべき」と述べられている。
文献情報
原題のタイトルは、「The Influence of Nutrition and Physical Activity on Exercise Performance after Mild COVID-19 Infection in Endurance Athletes-CESAR Study」。〔Nutrients. 2022 Dec 18;14(24):5381〕
原文はこちら(MDPI)