思春期アスリートへの新型コロナの影響 パンデミック初期からの1年でどこまで回復したか?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックによる思春期アスリートのメンタルヘルス、身体活動、QOLへの影響を、計1万7,000人以上を対象に検討した結果が報告された。2020年春というパンデミック直後とその1年後の比較で、メンタルヘルスなどは有意に改善しているものの、依然としてパンデミック前よりも悪化した状態にあるという。
1万7,000人を超えるサンプル数で思春期アスリートへの影響を検討
COVID-19パンデミックがアスリートのメンタルヘルスや身体活動、QOLに多大な影響を及ぼしたことは、多くの研究報告から明らかにされている。ただ、それらの研究は検討対象数が必ずしも十分とは言えず、また多くは断面的な解析にとどまっており、パンデミックの影響の程度を時間軸で比較していない。
それに対して今回紹介する論文の研究は、パンデミック初期の2020年春とその1年後の2021年春に調査を行い、計1万7,000人を超えるサンプルサイズという大規模な検討を行っている点が特徴の一つ。2020年春は、ほぼ全ての組織化されたスポーツ活動が世界的に中止された時期であり、2021年春はパンデミック前の状態への回復が模索され始めた時期にあたり、組織化されたスポーツ活動も再開され始めていた。
調査対象と調査の方法
この研究の対象は、13~19歳のアスリートで、匿名のオンライン調査として実施された。全米の高等学校の管理者に在籍生徒への回答協力を依頼するとともに、ソーシャルメディアへの投稿を通じて協力を呼び掛けた。解析対象数は、2020年が1万3,002人、2021年が4,419人であり、年齢は同順に16.3±1.2歳、16.1±1.3歳、性別(男性)の割合は47.0%、47.9%だった。
メンタルヘルスなどの評価指標は以下のとおり。
- 全般性不安障害スケール(The 7-item Generalized Anxiety Disorder;GAD-7)
- 0~21点にスコア化し、スコアが高いほど不安レベルが高いと判定される。0~4点は不安なし、5~9点は軽度の不安、10~14点は中等度の不安、15点以上は重度の不安と定義。
- 患者健康度調査票(9-item Patient Health Questionnaire;PHQ-9)
- 0~27点にスコア化し、スコアが高いほどうつレベルが高いと判定される。0~4点はうつなし、5~9点は軽度のうつ、10~14は中等度のうつ、15~19点は重度に近い中等度のうつ、20点以上は重度のうつと定義。
- 小児のQOL評価指標(Pediatric Quality of Life Inventory;PedsQL)
- 0~100点にスコア化し、スコアが高いほどQOLが高いと判定される。
- 小児の身体活動簡易評価指標(Hospital for Special Surgery Pediatric Functional Activity Brief Scale;HSS-PFABS)
- 0~30点にスコア化し、スコアが高いほど身体活動レベルが高いと判定される。
いまだパンデミック前よりもメンタルへの負担が強い状態にある
不安レベル(GAD-7)の変化
不安レベルの指標であるGAD-7の平均スコアは、2020年が7.0、2021年が4.9で、1年間で有意に低下していた(p<0.001)。スコア別(重症度カテゴリー別)にみても、不安なしの割合が同順に40.5%から57.9%に増加した一方、軽度は30.1%が25.0%、中等度は16.9%が10.5%、重度は12.5%が6.6%にそれぞれ減少していた。
うつレベル(PHQ-9)の変化
不安うつレベルの指標であるGAD-7の平均スコアは、2020年が7.6、2021年が4.6で、1年間で有意に低下していた(p<0.001)。重症度カテゴリー別にみても、うつなしの割合が同順に38.4%から62.1%に増加した一方、軽度は29.4%が22.6%、中等度は16.7%が8.8%、重度に近い中等度は9.7%が4.3%、重度は5.8%が2.3%にそれぞれ減少していた。
QOL(PedsQL)の変化
QOLの指標であるPedsQLの総合平均スコアは、2020年が79.6、2021年が84.7で有意に改善していた。また、下位尺度の身体的スコアと心理社会的スコアについても、それぞれ84.7が88.3、76.8が82.7へと有意に改善していた(いずれもp<0.001)。
身体活動(HSS-PFABS)の変化
身体活動の指標であるHSS-PFABSのスコアは、2020年が13.8、2021年が22.7で有意に改善していた(p<0.001)。以上の結果を基に、著者らは以下のような考察を述べている。
まず、パンデミック当初に思春期アスリートのメンタルヘルスは大きく悪化し、QOLが大きく低下していたが、1年間で大幅に改善していた。ただし、それでも思春期アスリートの5人に1人が臨床的に有意なレベルの不安を抱えていた。
パンデミック以前に今回の調査と同様の規模で実施された調査はないために比較は困難ではあるが、米国のある州で実施されていた思春期アスリート対象調査では、中等度以上のうつの有病率は10%未満であると報告されている。それに対して今回の2021年調査では、2020年より減ったとはいえ上記のように、10%を大きく上回っていた。つまり、パンデミックの影響はなお続いている。
結論には、「COVID-19パンデミックが思春期アスリートのメンタルヘルスと幸福に及ぼす影響は、今後も重要な考慮事項であり続けることが示唆される」と述べられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Impact of COVID-19 on the physical activity, quality of life and mental health of adolescent athletes: a 2-year evaluation of over 17 000 athletes」。〔Br J Sports Med. 2022 Nov 24;bjsports-2022-105812〕
原文はこちら(BMJ Publishing Group Ltd & British Association of Sport and Exercise Medicine)