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新型コロナの影響で、高齢者の移動動作能力は通常の1年と比べて3倍以上低下していた

2022年12月05日

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに伴う外出制限などの影響で、高齢者の移動動作能力が、通常の1年の3倍以上のスピードで低下したとするデータが報告された。筑波大学の研究グループの研究の成果であり、「日本老年医学会雑誌」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースが掲載された。

新型コロナの影響で、高齢者の移動動作能力が通常の1年と比べて3倍以上低下していた

研究の概要:コロナ以前から継続的に行われた研究で得られた知見

新型コロナウイルスのパンデミック下で、⾼齢者は、外出⾃粛による⾝体活動量の減少、下肢機能の低下、フレイル(虚弱)の進行など、健康に大きな影響を受けたことが報告されている。しかし、それらはアンケート調査による⾼齢者の主観に基づく評価であったため、具体的な機能低下の実態は、⼗分にわかっていなかった。そこで研究グループでは、COVID-19流行前から毎年実施している体⼒測定のデータ(茨城県笠間市在住の男性107⼈、⼥性133⼈、平均年齢73.2歳)を⽤いて、2016年からパンデミック下の2020年にかけて、⾼齢者の各種体⼒の推移を調べた。

その結果、複合的な移動動作能⼒を評価する「Timed Up & Go」という体⼒テストの成績が、通常の1年間では平均して男性で0.05%、⼥性で0.12%遅くなる(機能が低下する)ことに対して、パンデミック下の2019~20年の1年間では、男性で0.7%(+0.42秒)、⼥性で0.36%(+0.22秒)遅くなることがわかった。すなわち、パンデミック下では、通常の1年間の加齢変化よりも、移動動作能⼒が3倍以上低下したことになる。

ほかにも、男⼥ともに5m通常歩行時間(歩行能⼒)や⻑座体前屈(柔軟性)で同様の顕著な体⼒低下がみられ、さらに⼥性においては、握⼒(上肢筋⼒)や48本ペグ移動(⼿指巧緻性)でも顕著な低下が確認された。本研究により、今後のウィズコロナ時代に向けて、体⼒の維持・向上を意図した介護予防プログラムを優先的に行うことの必要性が⽰唆された。

研究の背景:パンデミックによる高齢者の身体機能への影響の実態を探る

世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の流行を「パンデミック」と宣⾔してから丸2年が経過し、これからのウィズコロナ時代における⽇常⽣活の在り⽅について、さまざまな議論がかわされている。パンデミック下において⾼齢者は、外出⾃粛による⾝体活動量の減少、下肢機能の低下、フレイル(虚弱)の進行など、健康や暮らしに大きな影響を受けたことが報告されている。

しかし、それらの多くは、アンケート調査による⾼齢者の主観に基づく評価であったため、具体的な機能低下の内容や程度については、⼗分に分かっていなかった。そこで本研究では、体⼒テストによる客観的な評価と、COVID-19流行前からの追跡を行うことで、パンデミック下では通常の加齢変化よりも機能低下がどの程度⽣じているのか、また、機能低下の内容に男⼥で違いがあるのかを調べた。

研究内容と成果:移動能力は通常の3倍、柔軟性は5倍の速度で低下

本研究は、茨城県笠間市で実施している「かさま⻑寿健診」(2009年に開始された、⾼齢者の健康、体⼒、⾝体活動に着⽬した中規模集団の追跡調査)に参加した地域在住⾼齢者(男性107⼈、⼥性133⼈、平均年齢73.2歳)を対象とし、2016〜20年の4年間のデータを解析した。これにより、パンデミック下では、通常の1年間で生じる加齢変化と⽐較して、体⼒(⾝体機能)が顕著に低下していることが確認された。

男⼥ともに顕著に悪化が確認された体⼒テストは、Timed Up & Go※1(複合的移動動作能⼒)、5m通常歩行時間(歩行能⼒)、⻑座体前屈(柔軟性)だった(図1)。

※1 Timed Up & Go:  歩行能⼒や動的バランス、敏捷性など、複合的な移動動作能⼒の総合的評価指標。椅⼦に腰かけた状態から合図とともに立ち上がり、3m前⽅のコーンを回って再び椅⼦に腰かけるまでの動作を最⼤速度で行う。この評価は、⾼齢者の⽇常⽣活機能(下肢の筋⼒、バランス、歩行能⼒、易転倒性)との関連性が高いことが⽰されており、医療現場だけでなく、介護現場での評価としても利⽤されている。

図1 男⼥ともに顕著な低下が確認された体⼒テストの結果

男⼥ともに顕著な低下が確認された体⼒テストの結果

⻘線:男性。⾚線:⼥性。グレーの線:2016~20年にかけての加齢変化の推移。⿊の線:パンデミック下の体⼒変化
(出典:筑波大学)

Timed Up & Goでは、体⼒テストの記録が通常の加齢変化の1年間で、平均して男性で+0.03秒、⼥性で+0.07秒遅くなる(機能が低下する)のに対して、パンデミック下の2019~20年の1年間では、男性で+0.42秒、⼥性で+0.22秒遅くなっていた。

5m通常歩行時間は、通常の1年間では、男性で−0.04秒、⼥性で−0.01秒と、男⼥ともに通常の加齢変化では機能が維持されていたが、パンデミック下の1年間では、男性で+0.19秒、⼥性で+0.15秒遅くなっていた。

⻑座体前屈でも、通常では、男性で+0.33cm、⼥性で+0.84cmと維持されていたが、パンデミック下では、男性で−2.89cm、⼥性で−4.37cmと、柔軟性の低下がみられた。

すなわち、パンデミック下では、通常の1年間の加齢変化よりも、移動動作能⼒が3倍以上、柔軟性は5倍以上低下したことになる。

さらに、⼥性においては、握⼒(上肢筋⼒)は3倍、48本ペグ移動※2(⼿指巧緻性)では4倍、通常の1年と⽐べてパンデミック下で顕著な悪化が確認された(図2)。

※2 48本ペグ移動:

上肢機能の総合的評価指標。ペグを左右それぞれの⼿に⼀本ずつ持ち、⼿前の盤の⽳に最⼤努⼒で素早く移すように指⽰し、48本のペグをすべて移し終わるまでに要した時間を記録する。⼿腕作業検査とも呼ばれ、リハビリテーション分野で⽤いられている。

図2 ⼥性のみで顕著な低下が確認された体⼒テストの結果

⼥性のみで顕著な低下が確認された体⼒テストの結果

⻘線:男性。⾚線:⼥性。グレーの線:2016~20年にかけての加齢変化の推移。⿊の線:パンデミック下の体⼒変化
(出典:筑波大学)

以上の結果から、男⼥ともに移動動作能⼒や柔軟性が低下していることに加えて、⼥性では上肢筋⼒や⼿指巧緻動作が低下していることが明らかになった。これらは、パンデミック下のような⽇常活動が制約される環境においては、男⼥ともに複合的移動動作能⼒、柔軟性の維持・向上を意図した介護予防プログラムを優先的に行うことの必要性を⽰唆している。さらに、⼥性に関しては、上肢筋⼒や⼿指巧緻動作への働きかけも必要と考えられる。

研究グループでは、「本研究では、地域在住⾼齢者の⾝体機能を体⼒テストにより客観的かつ縦断的に評価し、COVID-19パンデミック下での影響を明らかにした。ただし、集団の平均的な体⼒の推移を観察したにとどまり、個⼈ごとの影響の受けやすさなどは検証していない。今後は、対象者の質問紙調査データを照らし合わせて、⾝体機能低下が顕著であった⼈の特徴や背景要因を把握し、⾼齢者の体⼒向上への具体的なアプローチ法の⽴案を⽬指す」と、今後の展開を語っている。

プレスリリース

コロナ禍で高齢者の移動動作能力が通常の1年の3倍以上低下(筑波大学)

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