思春期アスリートの試合中の水分補給は、必要な量を具体的に示して摂取を促すべき
スペインの思春期サッカー選手の競技中の水分摂取量を検討した研究結果が報告された。研究者らはその結果に基づき、未成年アスリートでは水分摂取を本人の判断による自由摂取ではなく、摂取すべき最低限を設定し、環境要因を考慮して摂取を促す必要があるとしている。
スペインの思春期サッカー選手300人で調査
身体活動に伴う脱水状態が熱中症のリスクとなり、判断力の低下や有酸素パフォーマンスの低下につながることは広く認識されるようになった。ただし、競技中に脱水レベルを評価する方法は確立されておらず、とくに未成年に関してのデータはまだ少ない。これを背景に今回紹介する研究では、世界で最も人気のあるスポーツに挙げられるサッカーの思春期アスリートに焦点を当て、試合中の水分摂取量を把握し脱水レベルを横断的に評価して、それらに関連のある因子を検討した。
対象は、スペインのサッカー連盟のメンバーである12~16歳の男女サッカー選手。6チームから363人が参加。このうち、調査日の試合に出場の機会がなかった55人のほか、当日に採尿を拒否した選手などを除外し、306人(13.22±1.08歳、91.8%が男児)を解析の対象とした。調査日の環境温度は3.8~18.8℃の範囲で平均は11±4.76℃、相対湿度は範囲40~93.5%、平均72.9±14.06%だった。
試合の出場時間や環境温度、相対湿度が水分摂取量に関連
試合の出場時間は81.40±25.50分で、男女同等だった(p=0.574)。試合中は、水分摂取の機会があれば、自由に摂取できる状況にあった。
それでは、脱水レベルの指標である体重変化や試合中の水分摂取量などをみていこう。
体重変化:約4人1人が2%を超える体重減少
試合前の体重は51.6±11.75kgで試合後は50.9±11.61であり、試合中の減少幅は746.2±474.07gで体重比では1.45±0.90%だった。対象の36.5%は体重減少幅が1%未満だった一方、脱水状態の判定の目安とされる2%を超える体重減少を来した選手が23.3%を占めていた。
水分摂取量:約1割は試合中にまったく水分を摂取せず
試合中の水分摂取量は229.35±211.11mLであり、約10%の選手は試合中にまったく水分を摂取しなかった。性別では男児が226.52±213.27mLであり、これは女児の263.64±183.83mLより少なかったが有意差はなかった(p=0.167)。
水分摂取量は、出場時間(r=0.206,p<0.001)や環境温度(r=0.200,p<0.001)と正相関し、相対湿度とは負の相関関係が認められた(r=-0.281,p<0.001)。
発汗速度:出場時間とは負の相関
発汗速度は0.69±0.56L/時で、出場時間と有意な負の相関関係が認められた(r=-0.276,p<0.001)。ただし、水分摂取量では有意な関連のあった、環境温度や相対湿度との関連は非有意だった。
尿比重:約3人に1人は脱水リスク
試合後の尿比重は1.019±0.007で、35.1%の選手は1.019未満であり水分補給が満たされていると判断された一方、64.9%の選手は1.020以上の濃縮尿であって、脱水のリスクが認められた。
なお、試合後の尿比重は性別で差はなく(p=0.603)、また環境温度(p=0.186)や相対湿度(p=0.389)との相関も認められなかった。
未成年アスリートには、摂取すべき最低限の水分量を示すと良い
著者らは本研究には、試合開始前の水分補給レベルを測定していないという解釈上の限界点があることに言及している。そのうえで、「個人の特徴や環境因子、および身体活動関連要因に基づく、水分摂取を推奨するガイドラインを確立する必要がある。また、未成年の場合は水分を自由に摂取させるのではなく、摂取すべき最低限の量を設定し、かつ環境因子を考慮した摂取量を示すことで、必要量の水分摂取がより容易になされるようにすべき」と結論付けている。加えて今後の研究では、極端な気候条件を持つ地域での調査などの必要があることを述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Evaluation of Water Intake in Spanish Adolescent Soccer Players during a Competition」。〔J Hum Kinet. 2022 Sep 8;83:59-66〕
原文はこちら(Sciendo)
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