スポーツ栄養WEB 栄養で元気になる!

SNDJ志保子塾2023 ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー
一般社団法人日本スポーツ栄養協会 SNDJ公式情報サイト
ニュース・トピックス

女性は魚介類を摂ると動脈硬化が抑制される可能性 日本人約2,000人の頸動脈IMTを解析

女性は、魚介類を摂取することで、頸動脈内膜中膜複合体厚に予防的に作用する可能性が報告された。愛媛大学が主導する共同研究チームの研究の成果であり、「Journal of Atherosclerosis and Thrombosis」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースが掲載された。

女性は魚介類を摂ると動脈硬化が抑制される可能性 日本人約2,000人の頸動脈IMTを解析

研究の概要

魚介類や魚介類由来のn-3系不飽和脂肪酸は、心血管疾患に予防的に働くことが知られている。その一方、植物由来のn-3系不飽和脂肪酸、n-6系不飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、飽和脂肪酸の摂取と心血管疾患リスクとの関連については結論が得られていない。

研究グループでは、約1万人の成人を20年間追跡する「愛大コーホート研究」のデータの一部を活用し、魚介類および多価不飽和脂肪酸の摂取と頸動脈内膜中膜複合体厚(頸動脈IMT)との関連を調べた。頸動脈IMT(intima media thickness)は、心血管疾患の前段階である潜在性動脈硬化を非侵襲的に評価可能な指標であり、超音波診断装置で測定する。

解析の結果、女性においては魚介類だけでなく総n3系不飽和脂肪酸、魚介類由来のエイコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸、植物由来のαリノレン酸、リノール酸(主要なn-6系不飽和脂肪酸)、アラキドン酸(n-6 系不飽和脂肪酸の一つ)の摂取が、頸動脈IMTに対して予防的に作用している可能性を認めた。男性ではそのような関連は認められなかった。

さらなる研究データの蓄積が必要だが、食習慣の変容により、心血管疾患の前段階にある潜在性動脈硬化を予防できる可能性を示す研究成果といえる。

研究の背景:魚介類摂取と頸動脈IMTの関連は十分検討されていない

愛媛大学が主導する共同研究チーム(岐阜大学、順風会健診センター)は、さまざまな生活習慣病の発症に影響するリスク要因や予防要因を明らかにし、生活習慣病の予防に役立てるための研究を実施している。その「愛大コーホート研究」は成人を対象として20年間追跡する前向きコーホート研究。今回発表された研究は、八幡浜市、内子町、西予市、愛南町で実施した愛大コーホート研究のベースライン調査(初年度の調査)のデータを活用して、魚介類、多価不飽和脂肪酸摂取と頸動脈IMTとの関連を調べたもの。

虚血性心疾患と脳卒中は世界の総死亡のうち、それぞれ16%と11%を占め、第1位と第2位。魚介類や魚介類由来のn-3系不飽和脂肪酸の摂取が心血管疾患に予防的であることが知られているが、植物由来のn-3系不飽和脂肪酸、n-6系不飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、飽和脂肪酸の摂取と心血管疾患リスクとの関連については結論が得られていない。また、頸動脈超音波診断装置により頸動脈IMTを測定することで、心血管疾患の前段階にある潜在性動脈硬化を評価することが可能だが、魚介類摂取と頸動脈IMTとの関連を調べた疫学研究はまだない。

研究の方法:地域住民約2,000人を対象に横断的に解析

現在進行中の愛大コーホート研究に参加している八幡浜市、内子町、西予市、愛南町の地域住民、34~88歳の男女2,024人のデータを解析対象とした。頸動脈IMTは左右の総頸動脈で測定し、左右いずれかの最大値を最大頸動脈IMTと定義。最大頸動脈IMTが1.0mmを超える場合、「頸動脈壁肥厚」と判定した。

栄養摂取については、169の質問からなる半定量食事摂取頻度調査票を用いて評価。男女別に、魚介類、各種脂肪酸の摂取量の四分位数で4群に群分けしたうえで、結果に影響を及ぼし得る交絡因子(年齢、喫煙、アルコール摂取、余暇の運動、高血圧、脂質異常症、糖尿病、BMI、腹囲長、就業状況、教育歴)を調整して、頸動脈壁肥厚の該当者率と最大頸動脈IMTを比較した。

研究の結果:女性でのみ有意な関連が示される

最大頸動脈IMTは0.423~1.925mmの範囲に分布しており、頸動脈壁肥厚(最大頸動脈IMTが1mm超)の該当者率は13.0%だった。解析対象のうち男性727人では、魚介類摂取と頸動脈壁肥厚の該当者率、および最大頸動脈IMTとの間に、有意な関連がなかった。

それに対して1,297人の女性では、魚介類摂取が多いほど、有意に頸動脈壁肥厚の該当者率が低下し、最大頸動脈IMTも薄いという関連が認められた。さらに女性では、総n-3系不飽和脂肪酸摂取が多いほど、頸動脈壁肥厚の該当者率が低く、最大頸動脈IMTが薄いという関連があった。魚介類由来のn-3系不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸摂取については、頸動脈壁肥厚の該当者率に対してのみ、予防的な関連を認めた。植物由来のαリノレン酸摂取は、最大頸動脈IMTに対してのみ、予防的な関連を認めた。

n-6系不飽和脂肪酸の大部分を占めるリノール酸摂取が多いほど、最大頸動脈IMTが薄かった。ただし、頸動脈壁肥厚の該当者率とは関連がなかった。n-6系不飽和脂肪酸であるアラキドン酸摂取は、頸動脈壁肥厚の該当者率に対してのみ、予防的な関連を認めた。

女性の魚介類および多価不飽和脂肪酸摂取と頸動脈壁肥厚・最大頸動脈IMTとの関連の詳細は以下のとおり。

魚介類

各四分位群の摂取量の中央値(g/日);第1四分位群から順に、45.9、74.7、96.6、142.4。 各四分位群の頸動脈壁肥厚該当者率の調整オッズ比(基準は第1四分位群);第2四分位群から順に、0.82、0.68、0.58ですべて非有意ながら、傾向性p値は0.04で有意であり、摂取量の多い群ほど該当者率が低い。

各四分位群の最大頸動脈IMTの平均値;傾向性p値が0.03で、摂取量が多い群ほど最大頸動脈IMTが薄い。

総n-3系不飽和脂肪酸

各四分位群の摂取量の中央値(g/日);第1四分位群から順に、2.1、2.6、3.0、3.6。 各四分位群の頸動脈壁肥厚該当者率の調整オッズ比(基準は第1四分位群);第2四分位群から順に、1.09、0.90、0.57ですべて非有意ながら、傾向性p値は0.04で有意であり、摂取量の多い群ほど該当者率が低い。

各四分位群の最大頸動脈IMTの平均値;傾向性p値が0.02で、摂取量が多い群ほど最大頸動脈IMTが薄い。

αリノレン酸(植物由来)

各四分位群の摂取量の中央値(g/日);第1四分位群から順に、1.5、1.8、2.1、2.5。 各四分位群の頸動脈壁肥厚該当者率の調整オッズ比(基準は第1四分位群);第2四分位群から順に、1.21、0.78、0.63ですべて非有意であり、傾向性p値も0.054であって、わずかに非有意。

各四分位群の最大頸動脈IMTの平均値;傾向性p値が0.003で、摂取量が多い群ほど最大頸動脈IMTが薄い。

エイコサペンタエン酸(魚介類由来)

各四分位群の摂取量の中央値(g/日);第1四分位群から順に、0.1、0.2、0.3、0.4。 各四分位群の頸動脈壁肥厚該当者率の調整オッズ比(基準は第1四分位群);第2四分位群は0.84で非有意、第3四分位群は0.53(95%CI;0.29~0.95)で有意に低値、第4四分位群は0.57(同0.32~1.00)であり、傾向性p値は0.02で有意であって、摂取量の多い群ほど該当者率が低い。

各四分位群の最大頸動脈IMTの平均値;傾向性p値が0.09で非有意。

ドコサヘキサエン酸(魚介類由来)

各四分位群の摂取量の中央値(g/日);第1四分位群から順に、0.2、0.4、0.5、0.7。 各四分位群の頸動脈壁肥厚該当者率の調整オッズ比(基準は第1四分位群);第2四分位群は0.69で非有意、第3四分位群は0.52(95%CI;0.29~0.93)で有意に低く、第4四分位群も0.56(同0.32~0.96)と有意に低値であって、傾向性p値は0.03で有意であり、摂取量の多い群ほど該当者率が低い。

各四分位群の最大頸動脈IMTの平均値;傾向性p値が0.16で非有意。

リノール酸(主要なn-6系不飽和脂肪酸)

各四分位群の摂取量の中央値(g/日);第1四分位群から順に、10.3、12.1、13.4、15.6。

各四分位群の頸動脈壁肥厚該当者率の調整オッズ比(基準は第1四分位群);第2四分位群から順に、0.91、1.09、0.62ですべて非有意であり、傾向性p値も0.19であって非有意。

各四分位群の最大頸動脈IMTの平均値;傾向性p値が0.005で、摂取量が多い群ほど最大頸動脈IMTが薄い。

アラキドン酸(n-6系不飽和脂肪酸の一つ)

各四分位群の摂取量の中央値(g/日);第1四分位群から順に、0.1、0.2、0.2、0.2。

各四分位群の頸動脈壁肥厚該当者率の調整オッズ比(基準は第1四分位群);第2四分位群から順に、0.96、0.70、0.61ですべて非有意ながら、傾向性p値は0.045で有意であり、摂取量の多い群ほど該当者率が低い。

各四分位群の最大頸動脈IMTの平均値;傾向性p値が0.09で非有意。

研究の結論

今回の研究では、世界で初めて女性において魚介類摂取が多いほど、頸動脈壁肥厚の該当者率が低く、最大頸動脈IMTが薄いことを示された。また、総n-3系不飽和脂肪酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、αリノレン酸、リノール酸、アラキドン酸摂取は頸動脈壁肥厚の該当者率と最大頸動脈IMTのいずれか、または双方と予防的な関連を認めた。今回の結果を確認するためには今後のさらなる研究が必要。

プレスリリース

世界初の研究成果!女性における魚介類摂取が頸動脈内膜中膜複合体厚に予防的 論文発表(愛媛大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Fish and Polyunsaturated Fatty Acid Intake and Carotid Intima-Media Thickness in Japan: the Aidai Cohort Study in Yawatahama, Uchiko, Seiyo, and Ainan」。〔J Atheroscler Thromb. 2022 Sep 30〕
原文はこちら(J-STAGE)

この記事のURLとタイトルをコピーする
志保子塾2024前期「ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー」

関連記事

スポーツ栄養Web編集部
facebook
Twitter
LINE
ニュース・トピックス
SNDJクラブ会員登録
SNDJクラブ会員登録

スポーツ栄養の情報を得たい方、関心のある方はどなたでも無料でご登録いただけます。下記よりご登録ください!

SNDJメンバー登録
SNDJメンバー登録

公認スポーツ栄養士・管理栄養士・栄養士向けのスキルアップセミナーや交流会の開催、専門情報の共有、お仕事相談などを行います。下記よりご登録ください!

元気”いなり”プロジェクト
元気”いなり”プロジェクト
おすすめ記事
スポーツ栄養・栄養サポート関連書籍のデータベース
セミナー・イベント情報
このページのトップへ