入院を要したCOVID-19患者の4人に1人は1年後に栄養失調 国内多施設共同研究
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の急性期に入院を要した患者の4人に1人は、罹患から1年後に栄養失調が認められることが報告された。国内多施設共同研究の結果であり、横浜市立大学附属病院集中治療部の中村謙介氏らによる論文が、「Nutrients」に掲載された。入院時のBMI低値/高値や罹患後1カ月時点での集中力の低下などが、1年後の栄養失調の存在に独立して関連しているという。
Long COVIDの栄養失調の実態の解明
COVID-19の急性期から回復した後に遷延する、「Long COVID」や「post-COVID-19 condition(PCC)」などと総称されるさまざまな症状は、いまだ病態の詳細が不明で治療法が確立されていない。Long COVIDの一つとして栄養失調も該当し、栄養失調が持続した場合、再感染リスクや死亡リスクの上昇につながる懸念があり、早期介入が必要と考えられる。しかしこれまでのところ、long COVIDでの栄養失調の長期的な有病率などは明らかにされていない。
これを背景として中村氏らは、国立国際医療研究センターを中心に行われている、COVID-19後遺症に関する国内多施設共同前向きコホート研究「COVID-19 Recovery Study II(CORES II)」のデータを事後解析し、COVID-19罹患1年後の栄養失調の有病率とその関連因子を解析した。
COVID-19で急性期に入院を要した患者約千人を1年間追跡
CORES IIは、11の大学病院を含む20件の急性期病院が参加。2021年4~9月にCOVID-19のため入院し、生存退院した3,297人を登録し、退院後の長期的な経過を追跡調査している。今回の研究では、認知症ほかの理由で追跡調査が困難な症例、連絡先不明などを除外後の2,512人に対して、COVID-19罹患1年後に質問票を送付。回答の不備のない1,081人を解析対象とした。解析対象者のおもな特徴は、入院時点で年齢55.9±13.5歳、男性66%、BMI26.3±5.5で、入院期間は15.8±19.9日であり、38.0%はICU入室を要し、31.6%に侵襲的陽圧換気、3.8%に体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation;ECMO)が施行されていた。
栄養失調の有無の評価手法と、その他の評価項目
栄養失調の有無の評価には、MUST(Malnutrition Universal Screening Tool)をアレンジした評価手法を用いた。具体的には、(1)COVID-19罹患後1年時点のBMIが20以下、(2)罹患後1年間で体重が5%以上減少、(3)罹患後1年時点に食欲不振を有する――のいずれか一つが該当する場合に「COVID-19罹患後1年時点の栄養失調あり」と定義した。
また、栄養失調と併存する症状を把握するため、国際重症急性呼吸器・新興感染症コンソーシアム(International Severe Acute Respiratory and Emerging Infection Consortium;ISARIC)の質問票を援用し、24の症状の有無を質問した。
このほかに、健康関連の生活の質、不安・抑うつレベルなどに関して、既存の質問票を用いて評価した。また、入院期間中に行った治療の内容、発症1カ月後に認められた症状などのデータも、栄養失調との関連の解析に用いた。
1年後に24.6%が栄養失調
266人(24.6%)が、COVID-19罹患後1年時点で栄養失調を有していることが明らかになった。
論文ではこの後、まず、罹患1年後に栄養失調を有することの関連因子を単変量解析で検討した結果を示し、続いて、それらの因子を独立変数、罹患1年後の栄養失調の存在を従属変数とする多変量解析の結果が示されている。
1年後の栄養失調の有無での急性期データ・治療内容の比較
単変量解析の結果、罹患1年後に栄養失調のある群はない群に比べて女性が多く(47.4 vs 29.1%)、BMI低値または高値(20未満および30以上)者が多いという有意差が認められた。年齢や基礎疾患(透析を除く)の有病率は有意差がなかった。透析患者は栄養失調のある群に多かった(3.4 vs 1.4%)。
急性期の入院期間は栄養失調のある群のほうが長かった(19.2 vs 14.8日)。このほかに、急性期治療における抗ウイルス薬療法、酸素療法、ステロイド療法(パルス療法以外)の施行率が、栄養失調のある群で低いという有意差が認められた。ワクチン接種状況、入院中の肺炎の画像所見、全身性炎症反応症候群などは群間差が非有意だった。
罹患1カ月後の症状と1年後の栄養失調の関連
罹患1カ月後の時点では、息切れ(38.7%)、倦怠感(34.1%)、脱毛(32.4%)、筋力低下(28.7%)などが多く報告されていた。
罹患1年後の栄養失調の有無との関連を検討すると、評価した24の症状のうち14の症状について、1カ月後時点での有症状率に有意差が認められた。例えば、37.5℃超の発熱、鼻漏、咳嗽、胸痛、動悸、嗅覚障害、頭痛、筋力低下、食欲不振、集中力の低下、ブレインフォグ、脱毛などであり、すべて罹患1年後に栄養失調を有する群のほうが、罹患1カ月後時点での有症状率が高かった。
COVID-19入院患者の一部は、退院後も長期間の栄養サポートが必要
以上の結果を基に行われた多変量解析では、急性期のBMI低値または高値(18.5未満はオッズ比〈OR〉48.9〈95%CI;14.3~168〉、18.5以上20.0未満はOR10.5〈5.89~18.8〉、30.0以上は2.62〈1.84~3.75〉)、透析患者(OR3.19〈1.19~8.61〉)、入院期間(1日長いごとにOR1.01〈1.00~1.02〉)、および、罹患1カ月後に集中力の低下を有すること(OR1.73〈1.07~2.79〉)が、罹患1年後の栄養失調に独立した関連のあることが示された。
このほかに、罹患1年後に栄養失調を有する場合、不安・うつレベルが高くて健康関連QOLが低く、倦怠感・息切れの症状が強いことなども明らかになった。
著者らは本研究を、「COVID-19入院患者の1年後の栄養失調の実態に関する初の研究」と位置づけている。研究の限界点として、COVID-19罹患前のBMIが不明であることから、1年後に認められた栄養失調がCOVID-19罹患に関連するものか否かが不明なことなどを挙げたうえで、「我々の研究は、COVID-19入院患者の一部に長期にわたる栄養失調が発生する可能性があることを示唆しており、入院患者に対する退院後の長期にわたる栄養フォローアップの重要性を強調するものと言える。低体重または肥満、入院期間の長さ、透析、1カ月時点での集中力低下などは長期栄養失調のリスクの高さを示しており、これらが該当する患者では、継続的なモニタリングとサポートの必要性がより高い」と総括している。
なお、急性期の重症度との関連が明確でなかった点について、「MUSTスコア1点以上を栄養失調と定義したため、比較的軽度の栄養失調も含まれていた可能性があることが関係しているのではないか」との考察が加えられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Risk Factors for Long-Term Nutritional Disorders One Year After COVID-19: A Post Hoc Analysis of COVID-19 Recovery Study II」。〔Nutrients. 2024 Dec 7;16(23):4234〕
原文はこちら(MDPI)