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身体が「大きくなった」と想像すると歩幅や動きが大きくなる? リハビリやトレーニングへの応用に期待 京都工芸繊維大学

自分の身体が“巨大化”したと想像(大きくなった状態をイメージ)するだけで、実際の歩幅や足の動きが大きくなることが明らかになった。VR(仮想現実)などを使わずとも、言葉だけで身体イメージを操作して、その影響が実際の歩行動作に表れることが、実験的に証明された。京都工芸繊維大学の研究者による研究の結果であり、「Frontiers in Human Neuroscience」に論文が掲載されるとともに、大学のサイトにプレスリリースが掲載された。著者らは、「認知を活用した新たなリハビリや、スポーツ指導法への応用が期待される」としている。

身体が「大きくなった」と想像すると歩幅や動きが大きくなる? リハビリやトレーニングへの応用に期待 京都工芸繊維大学

研究の概要:ガリバーになったと思って、リハビリやトレーニングをしたら…

京都工芸繊維大学の研究グループは、まるで「ガリバー旅行記」のように、自分の身体が巨大になったと想像するだけで、実際の歩き方まで変わることを実証した。

歩行動作は通常、身体の大きさや重さを前提とした無意識の運動計画によって制御されているが、本研究では、視覚を遮った状態で「自分の身体が大きくなった」と想像させるだけで、対象者の歩幅や足の持ち上げる高さが実際に増加することが確認された。

従来、身体イメージの変化はおもに、VR(仮想現実)などの高度な技術を用いて操作されていたが、本研究では言葉による指示のみで身体イメージを変化させるという点で新規性がある。これは、身体の認知が運動に与える影響を明確に示した初の成果。

この成果は、リハビリテーション分野やスポーツトレーニングにおいて、認知的なアプローチだけで身体動作を改善・強化する新たな方法としての応用が期待される。

図1

(出典:京都工芸繊維大学)

研究の背景:「歩く」という動作を身体イメージで操作可能か?

ふだん何気なく行っている「歩く」という動作は、実は自分の身体の大きさや重さといった情報を基に、脳が事前に運動計画(モータープラン)を立てたうえで実行されている。これまでの研究では、この運動計画は実際の動作と同じ脳領域が働く「運動イメージ」に基づいていることが明らかになっており、この知見は脳卒中などのリハビリテーションでも活用されている。

一方で、「身体イメージ」──つまり自分自身の身体がどのような大きさ・形をしているかという主観的な感覚──が、歩行にどう影響を与えるかについては、十分には明らかにされていなかった。とくに、身体イメージと実際の身体サイズにズレが生じた場合に、運動がどう変化するのかという問いに対する実験的な検証は、ほとんど行われていない。

このような背景のもと研究チームは、「身体イメージの変化が歩行動作に与える影響」を検証する実験を行った。

研究の内容:「自分が大きくなった」と想像するだけで、歩幅・足を上げる高さが変化

本研究では、18〜19歳の健康な成人26名(男女13名ずつ)を対象に、歩行動作中の身体イメージの影響を調査した。参加者には以下5条件で歩行課題(4歩分の歩行)を実施してもらい、条件ごとの全体の平均運動軌跡を図示した。

5条件の歩行課題
  1. 目を開けた状態で歩く(開眼)
  2. 目を覆った(ブラインド)状態で歩く(閉眼)
  3. 目を覆った状態で「自分の身体が天井(約4m)まで届くほど大きくなった」と想像しながら歩く(閉眼+巨大化イメージ)
  4. 再び通常の身体イメージを思い浮かべた状態で目を覆って歩く(2回目の閉眼)
  5. 最後に目を開けた状態で通常の身体イメージに戻して歩く(2回目の開眼)

この条件のうち、とくに注目されたのが三つ目のフェーズである「身体が大きくなった」と想像する条件だった。このとき、歩幅(ステップ長)、足の持ち上げ高さ、1歩にかかる時間が、他の条件と比べて有意に増加していた(図2)。つまり、実際の身体サイズは変わっていないにもかかわらず、「大きくなった」と想像するだけで、歩行動作そのものが拡大されていた。

図2 歩幅・足の上げ高さの変化

歩幅・足の上げ高さの変化

(出典:京都工芸繊維大学)

この結果は、運動プランが「現実の身体」ではなく、「頭の中で想像された身体」をベースに組み立てられている可能性を示している。

なお、実験は裸足で行われ、足裏からの感覚(固有感覚)による補正を極力排除していたため、より純粋に身体イメージの影響を測定することができた。また、歩行の再現性や信頼性を統計的に分析したところ、想像された大きな身体イメージのもとでも、参加者は安定して一貫した歩行パターンを維持できていたことが確認された。

今後の展開:認知が運動を変える~リハビリ・運動指導の新たなアプローチへ

この研究の最大の新規性は、VRなどの視覚操作技術を使わず、「言葉による想像だけ」で身体イメージを変化させ、歩行動作に影響を与えた点にある。これまで身体イメージの研究では、仮想空間や視点の高さを変えるなどの視覚的操作が主流だったが、本研究では極めてシンプルな言語的指示だけで同様の効果を引き出すことに成功した。

この成果は、身体の運動に対して「心の持ちよう」や「想像力」が与える影響の大きさを示すものであり、リハビリテーションやスポーツトレーニングにおいて、認知・イメージを活用した新たな指導法の開発につながる可能性を秘めている。

例えば、身体を動かしづらい患者に対して、身体を大きく・軽く・伸びやかに想像させることで、実際の動作が改善する可能性があり、道具を使わずに認知面からアプローチする低負担なリハビリ手法としての応用が期待される。また、アスリートのパフォーマンス向上にも応用できるかもしれない。

著者らは、「今後は、VR技術との組み合わせによるイメージの精密制御や、高齢者・障害者を対象とした臨床応用も視野に、さらなる研究を進める予定」としている。

出典

本学 屋京典 研究員、基盤科学系 来田宣幸 教授らの研究グループは、身体を大きくイメージするだけで歩行動作が変化することを実証しました(京都工芸繊維大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Impact of body image on the kinematics of gait initiation」。〔Front Hum Neurosci. 2025 Mar 17:19:1560138〕
原文はこちら(Frontiers Media)

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