食事に対する「リテラシー」と「動機づけ」が、健康的な食習慣や肥満予防と関連 東京大学
20~69歳の日本人1,055人を対象として、食にまつわるリテラシー(栄養成分表示の活用など8項目)と食に対する動機づけ(健康志向など15項目)を幅広く調査した結果、食事の質との関連を示す項目は、肥満との関連を示す項目と大きく異なることが明らかになった。東京大学の研究グループの研究によるもので、「Appetite」に論文が掲載されるとともに、大学のサイトにプレスリリースが掲載された。研究グループによると、本研究は「食にまつわるリテラシーと食に対する動機づけを網羅的に調べたうえで、それらと食事の質および肥満との関連を包括的に検討した世界で初めての研究」であり、「この成果は世界的な公衆衛生課題である不健康な食生活と肥満の蔓延に対する有効な戦略を立てるうえで重要な科学的根拠となることが期待される」という。
研究の背景:肥満者は食事のリテラシーが低いのか?
不健康な食生活と肥満は、世界的に主要な公衆衛生上の課題。したがって、食習慣や肥満を形作る要因をより良く理解することが必要となってきている。このような流れの中で、食に対する動機づけ、すなわち、個々人が食品を摂取する際に考慮する理由や意味づけに注目が集まってきた。「食」とは、社会の中で営まれる社会的な行為であり、人々の食物摂取は、空腹といった生理学的な動機づけだけでなく、嗜好や利便性、社会的規範といったさまざまな動機づけによってなされるものであるからだ。
また、最近になって登場した概念として、食にまつわるリテラシーがある。これは、「食を計画、管理、選択、準備、摂取するために必要な、相互に関連した知識、スキル、行動の集まり」のことを指す。
食にまつわるリテラシーおよび食に対する動機づけが、食事の質および肥満とどのように関連するかについての検討は、これまで部分的にしか行なわれてこなかった。そこで本研究では、食にまつわるリテラシーと食に対する動機づけを網羅的に調べ、それらと食事の質および肥満との関連を包括的に検討することを目的とした。
研究の内容:千人の日本人成人を対象に食のリテラシーと食の動機づけを調査
本研究は、2023年2~4月に全国26都道府県で実施された「食の5Wスタディ」のデータをもとにしている。研究参加者は、20~69歳の日本人男女1,055人。妥当性が検証済みの質問票を用いて、食にまつわるリテラシー(調理技術、食に関する誘惑に抵抗する力、健康的な間食スタイル、社会的・意識的な食行動、栄養成分表示の活用、日々の食事計画、健全な食費、健全な食品備蓄の8項目※1)と食に対する動機づけ(嗜好、習慣、生理的必要性、健康、利便性、快楽、食の伝統、自然への配慮、社会性、価格、見た目の良さ、体重管理、感情、社会的規範、社会的イメージの15項目※2)を評価した。また、4日間にわたって食事日記をつけてもらい、そのデータをもとにして健康食インデックス※3)を算出し、食事の質を評価した。さらに、身体測定を行った。
結果は表1に示すとおり。食にまつわるリテラシー8項目の中で、食事の質が高いことと関連していたのは、調理技術(が高いこと)、健康的な間食スタイル、栄養成分表示の活用、健全な食費の4項目だった。また、食に対する動機づけ15項目のうち、食事の質が高いことと関連していたのは、自然への配慮を重視すること、利便性を重視しないこと、快楽を重視しないことの3項目だった。
表1 食にまつわるリテラシーおよび食に対する動機づけと、食事の質、肥満および腹部肥満との関連a

a:調整変数は以下のとおり。性、年齢、最終学歴、雇用形態、世帯収入、喫煙、身体活動、過去3カ月間におけるシフト勤務の有無、世帯内で食品を管理しているか否か、調理頻度、クロノタイプ(朝型か夜型かの指標)、睡眠時間。肥満と腹部肥満についてはさらに食事の質で調整。
b:BMI25以上を肥満とした。
c:腹囲が男性90㎝以上、女性80cm以上を腹部肥満とした。
一方、食にまつわるリテラシー8項目の中で、腹部肥満(腹囲が男性90㎝以上、女性80cm以上で定義)と関連していたのは、食に関する誘惑に抵抗する力(が弱いこと)、日々の食事計画(を立てないこと)の2項目だった。また、食に対する動機づけ15項目のうち、腹部肥満と関連していたのは、嗜好を重視すること、健康を重視しないこと、体重管理を重視することの3項目だった。ちなみに、肥満(BMI25以上)との関連を調べた場合もほぼ同様の結果だった。
今後の展望:不健康な食事と肥満の蔓延に対する対策の新たな視座
食にまつわるリテラシーと食に対する動機づけを網羅的に調べた本研究では、食事の質の向上に重要な項目(調理技術、健康的な間食スタイル、栄養成分表示の活用、健全な食費、自然への配慮重視、利便性軽視、快楽軽視)は、肥満の予防に重要な項目(食に関する誘惑に抵抗する力、日々の食事計画、嗜好軽視、健康重視)と大きく異なることが示唆された。本研究は、食にまつわるリテラシーおよび食に対する動機づけと、食事の質および肥満との関連を包括的に検討した世界で初めての研究。本研究の成果は、世界的な公衆衛生課題である不健康な食事と肥満の蔓延に対する有効な戦略を立てるうえで、重要な科学的根拠となることが期待される。
※1 食にまつわるリテラシー:食にまつわるリテラシー(food literacy)の評価には、オランダで開発された29問からなる妥当性が検証された質問票(self-perceived food literacy scale;SPFL scale)の英語版を日本語に正確に翻訳したものを用いた。評価したのは以下の8項目で、参考として質問の例を付記する。また、SPFL scale日本語版は自由に使用できるように、もと論文のオンライン補足情報として公開されている(詳細はこちら)。
食にまつわるリテラシーの項目/質問(例)
- 調理技術(food preparation skills)/新鮮な食材の品質を見分けたり、匂いを嗅いだり、感じたりすることができますか?
- 食に関する誘惑に抵抗する力(resilience and resistance)/おいしい食べ物が見えて匂いを感じる場所にいることを想像してください。それらを買う誘惑に勝つことができますか?
- 健康的な間食スタイル(healthy snack styles)/間食として果物を食べますか?
- 社会的・意識的な食行動(social and conscious eating)/他の人と一緒にいる場合、共に食事をとることは重要だと思いますか?
- 栄養成分表示の活用(examining food labels)/商品の栄養成分表示でカロリーや脂質、砂糖、食塩の含有量を確認しますか?
- 日々の食事計画(daily food planning)/何かを食べるとき、その日にそれまでに食べたものを振り返りますか?
- 健全な食費(healthy budgeting)/多少値段が高くても、健康的な食品を買いますか?
- 健全な食品備蓄(healthy food stockpiling)/あなたの家に、ポテトチップスやおせんべい、塩味のスナックの買い置きが4袋以上ありますか?
※2 食に対する動機づけ:食に対する動機づけ(eating motivation)の評価には、ドイツで開発された45問からなる妥当性が検証された質問票(The Eating Motivation Survey scale;TEMS scale)の英語版を日本語に正確に翻訳したものを用いた。評価したのは以下の15項目で、参考として質問の例を付記する。また、TEMS scale 日本語版は自由に使用できるように、もと論文のオンライン補足情報として公開されている。
食に対する動機づけの項目/質問(例)
- 嗜好(liking)/わたしが食べ物を食べる理由は…好きだから
- 習慣(habits)/わたしが食べ物を食べる理由は…いつも食べているから
- 生理的必要性(need and hunger)/わたしが食べ物を食べる理由は…お腹が空いているから
- 健康(health)/わたしが食べ物を食べる理由は…バランスのとれた食事をするため
- 利便性(convenience)/わたしが食べ物を食べる理由は…手早く準備できるから
- 快楽(pleasure)/わたしが食べ物を食べる理由は…自分へのご褒美として
- 食の伝統(traditional eating)/わたしが食べ物を食べる理由は…その食べ物と共に育ったから
- 自然への配慮(natural concerns)/わたしが食べ物を食べる理由は…有害物質(例:農薬、汚染物質、抗生物質)が含まれていないから
- 社会性(sociability)/わたしが食べ物を食べる理由は…社交の場がより快適になるから
- 価格(price)/わたしが食べ物を食べる理由は…安価だから
- 見た目の良さ(visual appeal)/わたしが食べ物を食べる理由は…パッケージなど、見た目が魅力的だから
- 体重管理(weight control)/わたしが食べ物を食べる理由は…カロリーが低いから
- 感情(affect regulation)/わたしが食べ物を食べる理由は…イライラしているから
- 社会的規範(social norms)/わたしが食べ物を食べる理由は…食べないと失礼だから
- 社会的イメージ(social image)/わたしが食べ物を食べる理由は…流行っているから
プレスリリース
食にまつわるリテラシーと食に対する動機づけ―食事の質および肥満との関連―(東京大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Food literacy and eating motivation in relation to diet quality and general and abdominal obesity: A cross-sectional study」。〔Appetite. 2025 Mar 13:107968〕
原文はこちら(Elsevier)