スポーツ栄養WEB 栄養で元気になる!

SNDJ志保子塾2023 ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー
一般社団法人日本スポーツ栄養協会 SNDJ公式情報サイト
ニュース・トピックス

パンデミック中の食生活はアマチュアよりプロ・セミプロのアスリートでより悪化 14カ国の調査

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックのアスリートへの長期的な影響を、14カ国、1,420人を対象に調査した報告によると、エリートアスリートはサブエリートアスリートに比べて、メンタルヘルスは良好に保たれていたという。しかし、摂食行動に関してはむしろ、エリートアスリートのほうが悪化していたとのことだ。著者らは、COVID-19パンデミックと同様の事象は今後も発生する可能性があることから、「アスリートのメンタルヘルスの悪化や食行動の乱れを抑止し得る、エビデンスに基づいた戦略が求められる」と述べている。

パンデミック中の食生活はサブエリートよりエリートアスリートでより悪化 14カ国の調査

パンデミックがアスリートに与えた長期的な影響を競技レベルで比較検討

COVID-19は2019年12月12日に中国の武漢で最初の症例が報告されて以降、世界的なパンデミックとなった。人類はこの原因ウイルスに対し免疫がなく、当初は治療薬もワクチンもなかったため、世界各国で外出自粛やロックダウンといった措置がとられた。そのような措置が人々の生活を一変させ精神的・身体的ストレスとなったことに関しては多くの研究報告があり、アスリート対象の研究も少なくない。

その後、治療薬とワクチンが開発され重症化を一定程度防ぐことができるようになり、ロックダウンなどの人々の生活を制限する強力な措置は徐々に緩和されていった。ロックダウンのアスリートへの影響を調べた研究は多々あるが、ロックダウン解除後も含む長期的な影響を調査した研究は多くない。また、アスリートと一般住民とで影響の程度が異なることから、同じアスリートでも競技レベルによって影響が異なっていた可能性も考えられる。

これらを背景として本論文の著者らは、COVID-19パンデミックが世界各地のアスリートに及ぼした長期的な影響を、競技レベルを考慮に入れて検討した。

14カ国、1,420人のアスリートがオンラインで回答

この研究は、世界保健機関(World Health Organization;WHO)がCOVID-19パンデミックを宣言してから2年後にあたる2022年3~4月に実施された。研究に参加した研究者の国籍は、アジアではイラン、トルコ、アラブ首長国連邦、アフリカではエジプト、チュニジア、アルジェリア、北南米ではメキシコ、ブラジル、米国、欧州ではスペイン、ポルトガル、英国、ドイツ、フランスという計14カ国。

Googleフォームを用いたオンラインアンケートとして実施され、スノーボール方式で回答協力を呼び掛けていき、最終的に1,702人のアスリートに回答を依頼して、うち1,420人(83.43%)から回答を得た。回答の適格条件は、年齢が18歳以上であり、1週間以上の外出禁止措置を受けたアスリートとした。なお、アンケートは英語のほかに、ペルシア語、アラビア語、スペイン語、トルコ語、ポルトガル語、ドイツ語、フランス語などのバージョンを用意した。

回答者の年齢は24.5±7.9歳で、女性が41%だった。競技レベルは、プロまたはセミプロの569人(40.1%)を「エリート」とし、それら以外(アマチュアおよびレクリエーションレベル)の851人(59.9%)を「サブエリート」とした。

メンタルヘルスをDASS-21、摂食行動をREAP-Sで把握

メンタルヘルス状態は、DASS-21(Depression, Anxiety and Stress Scale—21 Items)で把握した。DASS-21は、うつ、不安、ストレスの程度に関する21項目の質問に対し、0~3点の4段階のリッカートスケールで回答を得て、合計63点満点で評価する。スコアが高いほど、メンタルヘルスが不調であることを意味する。

本研究対象者の平均は、総合スコアが30.58±27.2、うつスコアは9.72±9.71、不安スコアは9.71±9.60、ストレススコアは11.15±9.79だった。

摂食行動は、REAP-S(Rapid Eating Assessment for Participants)で把握した。REAP-Sは、15項目、合計0~39点の評価指標で、スコアが高いほど、果物、野菜、全粒穀物を適切に摂取し、加工肉、加糖食品などの摂取量は少ないという、健康的な摂食行動であることを意味する。本研究対象者の平均スコアは、24.29±7.48だった。

エリートアスリートはメンタルヘルスの影響が少ないが摂取行動の乱れが大きい

まず、エリートとサブエリートの背景を比較すると、年齢は有意差がなかった。一方、身長や体重、および競技歴はいずれもエリート群のほうが高値であり、有意差が存在した。また、エリート群では個人競技アスリートが43.8%、団体競技アスリートが56.2%であるのに対して、サブエリート群では同順に46.8%、53.2%であって、エリート群は団体競技アスリートの割合が高かった。そのほかに、経済的な不安を抱えている割合はサブエリート群、COVID-19の既往のある割合はエリート群が、それぞれ有意に高いなどの有意差が認められた。

DASS-21はエリート群が有意に低い

次に、DASS-21のスコアに着目すると、うつスコア、不安スコア、ストレススコア、および総合スコア(27.53±26.15 vs 32.62±27.61)のすべて、サブエリート群よりエリート群のほうが有意に低かった。つまり、メンタルヘルス状態はエリート群のほうが良好と判断された。

この結果について論文の考察では、エリートアスリートはサブエリートのアスリートよりも、パンデミック中に心理的サポートを受けやすい状況だったこと、経済的な不安が少なかったことのほか、競技や課題のストレスに対する対処能力が優れているためではないかと述べられている。

REAP-Sはサブエリート群が有意に高い

一方、REAP-Sは23.69±7.44 vs 24.69±7.48であり、エリート群よりサブエリート群のほうが有意に高かった。つまり、摂食行動はエリート群のほうが不良と判断された。

この結果について論文では「多くの既報研究と反する結果」としている。ただし、エリートアスリートを対象に行われたいくつかの研究では、今回の研究と同じ結果を報告しているという。このような変化が生じ得る原因としては、エリートアスリートの生活に密着している日常のトレーニングまたは競技スケジュールがキャンセルされたことで、それまでの生活よりもリラックスし、また自宅で過ごす時間が増えたことで、好きな食べ物やスナックを口にする機会が増加したためではないかとの推論が記されている。また、パンデミック前までは施設に居住し、食事が管理されていたエリートアスリートの場合、自宅に移ったことで食事が乱れた可能性もあるとしている。

文献情報

原題のタイトルは、「Comparative Study of the Long-Term Impact of the COVID-19 Pandemic on Mental Health and Nutritional Practices Among International Elite and Sub-Elite Athletes: A Sample of 1420 Participants from 14 Countries」。〔Sports Med Open. 2023 Nov 8;9(1):104〕
原文はこちら(Springer Nature)

この記事のURLとタイトルをコピーする

新型コロナウイルスに関する記事

栄養・食生活

アスリート・指導者・部活動・スポーツ関係者

運動・エクササイズ

もっと見る

志保子塾2024前期「ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー」

関連記事

スポーツ栄養Web編集部
facebook
Twitter
LINE
ニュース・トピックス
SNDJクラブ会員登録
SNDJクラブ会員登録

スポーツ栄養の情報を得たい方、関心のある方はどなたでも無料でご登録いただけます。下記よりご登録ください!

SNDJメンバー登録
SNDJメンバー登録

公認スポーツ栄養士・管理栄養士・栄養士向けのスキルアップセミナーや交流会の開催、専門情報の共有、お仕事相談などを行います。下記よりご登録ください!

元気”いなり”プロジェクト
元気”いなり”プロジェクト
おすすめ記事
スポーツ栄養・栄養サポート関連書籍のデータベース
セミナー・イベント情報
このページのトップへ