サプリを含む積極的な栄養介入が、若年アスリートの新型コロナ感染後のパフォーマンス回復を促進
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に感染後のアスリートに生じるパフォーマンスの低下を、サプリメント摂取を含む積極的な栄養介入によって抑制できることを示唆するデータが報告された。ルーマニアのサッカープロクラブに所属し、COVID-19に罹患した13~15歳の男子選手を対象に行われた研究の結果であり、栄養介入を受けていた群と対照群との間で、5種類の指標のうち4種類について罹患後に有意差が認められたという。
COVID-19罹患後のパフォーマンス低下を、サプリを用いた栄養介入で防げるか
COVID-19のパンデミックは収束したが、依然として公衆衛生上の脅威として存在している。通常、若年であることの多いアスリートの場合、COVID-19罹患時の症状は比較的軽度だが、そうであっても呼吸機能低下などが生じて急性期以降もパフォーマンスに影響が残り得ることが報告されている。これに対して、積極的な栄養介入がCOVID-19罹患の影響を抑制する可能性が考えられるが、そのエビデンスは乏しい。
以上を背景として今回紹介する論文の研究では、ルーマニアにおいて、COVID-19パンデミック中にとられていた、サプリメント摂取を含む栄養介入強化戦略が、感染した場合のパフォーマンス低下抑制や回復促進につながっていたかを、後方視的デザインで検討している。
ルーマニアのプロクラブに所属する13~15歳の男子サッカー選手を対象に検討
この研究が行われたルーマニアのプロサッカー界では、COVID-19パンデミック中、選手の感染抑止を期して、積極的な栄養介入戦略がとられていた。その内容は、摂取すべきエネルギー量として2,000~2,500kcal/日を基本として推奨し、トレーニングの時間と種類に応じて3回の食事と2回の間食で摂取すべき食品・栄養素を提示して、かつ、朝・昼・夕に摂取すべきサプリメントの種類・量を、季節に応じて設定し推奨するという緻密なもの。推奨されたサプリは、ビタミンCやD、亜鉛など(詳細は論文中のtable2と3を参照)。
ただし、サプリ摂取については、すべてのクラブがその推奨に従ったわけではない。つまり、パンデミック中に選手に対してサプリ摂取介入を行ったクラブと行わなかったクラブがあった。この研究は、この違いを生かして、パンデミック中にサプリによる栄養介入強化を受けた選手と受けなかった選手とで、COVID-19感染後のパフォーマンスに差が生じていたか否かが検討された。
解析対象者は、2021~22年の間にCOVID-19に罹患した、プロクラブに所属する13~15歳の男子サッカー選手99人。なお、当初は129人が登録されたが、追跡調査中の脱落、栄養介入プロトコルからの逸脱、負傷などを除外し99人となった。
COVID-19罹患前、およびCOVID-19急性期から回復後は、毎週5種類のパフォーマンステストが実施されていた。その内容は、握力、10mスプリント、30mスプリント、ビープテスト(インターバルをおかないYo-Yoテスト)、およびベンチプレス。これらは、フィジカルトレーナー、理学療法士、看護師、医師の監督下で実施されていた。
COVID-19罹患前は同等だったパフォーマンスが、罹患後はサプリ摂取の有無で有意差
対象者の約半数(49.5%)は13歳で、残り半数を14歳と15歳が同数ずつ(各25.3%)占めていた。COVID-19急性期から回復後に20人(20.2%)が、スパイロメトリーで軽度の呼吸機能低下が認められ、その他の79.8%の呼吸機能は正常だった。
全体として58.5%がサプリを摂取し、41.4%は摂取していなかった。この2群間で、年齢、BMIに有意差はなかった。かつ、スパイロメトリーで軽度呼吸機能低下が認められた選手の割合は、サプリ摂取群が20.6%、非摂取群が19.5%で同等だった(p=0.732)。
パフォーマンスの比較には、COVID-19罹患の1カ月前、罹患後1カ月、3カ月の時点のデータが用いられている。5種類の指標のいずれも、罹患1カ月前には群間差が非有意であり、罹患後にはベンチプレスを除く4種類の指標で、サプリ摂取群のほうが良好な結果となっている。詳細は以下のとおり。なお、データはすべて中央値。
握力(kg)
罹患1カ月前はサプリ摂取群が25.6 vs 非摂取群は22.3(p=0.206)。罹患1カ月後は同順に26.5 vs 18.1(p<0.05)、3カ月後27.3 vs 21.2(p<0.05)。
10mスプリント(秒)
罹患1カ月前はサプリ摂取群、非摂取群ともに2.2(p=0.164)。罹患1カ月後はサプリ摂取群が2.2 vs 非摂取群は2.3(p=0.001)、3カ月後2.1 vs 2.2(p=0.002)。
30mスプリント(秒)
罹患1カ月前はサプリ摂取群が5.1 vs 非摂取群は5.3(p=0.091)。罹患1カ月後は同順に5.1 vs 5.4(p<0.001)、3カ月後4.9 vs 5.2(p=0.001)。
ビープテスト(レベル)
罹患1カ月前はサプリ摂取群、非摂取群ともに7.5(p=0.835)。罹患1カ月後はサプリ摂取群が7.5 vs 非摂取群は7(p<0.001)、3カ月後8 vs 7.5(p<0.001)。
ベンチプレス
ベンチプレスは前述のようにすべての時点で有意差がなく、罹患1カ月前と罹患1カ月後は20kg、罹患3カ月後は25kg。
COVID-19以外の呼吸器感染症にもサプリ介入が有効な可能性
著者らは、本研究の対象が思春期の男子サッカー選手のみであるため、結果の一般化が制限されるとしたうえで、結論を以下のように記している。「思春期のアスリートに対する厳格な食事計画に基づく栄養介入、および、ビタミンとミネラルのサプリメントによる介入は、COVID-19感染後の身体パラメータのより迅速な回復に効果的である可能性がある。この有益な効果は、COVID-19だけでなく、他の呼吸器感染症でも検討すべきであろう」。
文献情報
原題のタイトルは、「The Effect of Dietary Supplementation on Physical Performance in Adolescent Male Soccer Players Infected with SARS-CoV-2」。〔Nutrients. 2025 Jan 31;17(3):527〕
原文はこちら(MDPI)