クエン酸飲料は摂取タイミングにかかわらず、運動で蓄積した乳酸の迅速な除去を期待できる
クエン酸飲料は運動負荷によって生じる乳酸を速やかに除去するように働くことが知られているが、この作用がクエン酸飲料の摂取タイミングで異なるのか否かを検討した研究結果が報告された。信州大学医学部保健学科理学療法学専攻の岡野怜己氏らが、男子学生対象クロスオーバー試験として実施し、論文が「Journal of Physical Therapy Science」に掲載された。
パフォーマンス低下につながり得る乳酸を効率よく除去するには
乳酸はかつて疲労の原因物質と考えられていたが、現在では疲労の直接的な原因ではなく、重要なエネルギー基質と認識されている。しかし乳酸産生に伴うpH低下によるアシドーシスなどを介して筋収縮が抑制されることは、身体的パフォーマンスの阻害因子となる。運動負荷によって蓄積した乳酸が体内のアシドーシスとある程度関連しているという点から、乳酸の迅速な除去がパフォーマンス低下抑制に寄与すると考えられ、そのための手段として、アクティブリカバリーの有用性とともに、代謝を通じてpH低下を抑制するように働くクエン酸摂取の有用性が報告されている。
後者のクエン酸についてはその含有飲料が広く流通していることから、スポーツあるいは理学療法の臨床において簡便に応用可能。しかし、クエン酸飲料を運動の前に飲んだ場合と運動の後に飲んだ場合のどちらがより効果的なのかという点は、これまで研究されていなかった。
男子大学生を対象に、摂取タイミングの差異の影響をクロスオーバー試験で検討
この研究は、健康な男子大学生41人(20.9±2.5歳)を対象とする無作為化クロスオーバー試験として実施された。ビタミンCやクエン酸を含むサプリメントまたはアルコールを習慣的に摂取している学生、運動に支障のある疾患を有する学生は除外されている。
試験条件は以下の4条件で、試行順序を無作為化したうえで、各条件の試行には1週間以上のウォッシュアウト期間を設けた。
設定した4条件とは、運動負荷開始30分前にクエン酸(citric acid)を摂取する条件(pre-CA)41人(全員)、運動負荷終了直後にクエン酸を摂取する条件(post-CA)41人、運動負荷終了直後にクエン酸を含まない水(water)を摂取する条件(post-W)20人、運動負荷の前後ともになにも摂取しない条件(nothing)21人。pre-CAとpost-CAは全員に試行し、post-Wとnothingはどちらか一方を試行した。
クエン酸の用量は4gとし、100mLの水に溶解して支給。運動開始30分前または運動終了直後に摂取してもらった。運動負荷には自転車エルゴメーターを用い、無酸素性閾値(anaerobic threshold;AT)の150%で5分間の負荷とした。
乳酸値の測定には指先穿刺の簡易測定器を用い、運動負荷前、負荷終了直後、5分、10分、20分、30分後に測定した。なお、試行の24時間前からは激しい運動を禁止した。
運動負荷前の摂取でも負荷後の摂取でも乳酸値の低下は同等
研究参加者全員が全条件の試行を終了し、解析対象となった。
まず、乳酸値の変動をみると、全条件で運動負荷前より負荷直後の値が有意に高く(すべてp<0.001)、その後は時間の経過とともに低下していた。絶対値で比較した場合、4条件の間に有意差が認められたポイントはなかった。
次に、運動負荷終了直後に観察された乳酸値の最大値を基準に、その後の時間経過に伴う乳酸値の低下率を検討。すると、負荷終了30分後までに、条件にかかわらず、最大値に対して61~65%低下していて、この低下率に有意差はなかった。
ただし、時間経過のゾーン別に細分化して解析すると、クエン酸を摂取した2条件では摂取タイミングにかかわらず、負荷終了5分後から10分後(pre-CAはp=0.022、post-CAはp=0.009)、10分後から20分後(p値は同順に0.001、0.019)、20分後から30分後(0.029、0.004)にかけて、それぞれ乳酸値の有意な低下が観察された。それに対して水を摂取した条件(post-W)では、乳酸値の有意な低下が観察されたゾーンはなく、なにも摂取しない条件(nothing)では10分後から20分後の減少のみが有意だった(p=0.017)。
至適用量の探索が今後の課題
以上より論文の結論は、「クエン酸飲料を運動前に摂取するか、運動後に摂取するかという違いは、乳酸除去に有意な影響を及ぼさないことがわかった。さらに、摂取タイミングにかかわりなく、クエン酸を摂取することで運動後の乳酸値の低下速度が速まることが確認された。この結果は、運動後や筋肉疲労が生じた後でも、クエン酸が乳酸の除去に有効である可能性を示唆している」とまとめられている。また、「この結果に基づけば、リハビリテーションやスポーツの現場で、少なくとも本研究と同等量のクエン酸摂取を実施することで、身体活動後の回復促進に役立つと期待される」と付け加えられている。
なお、運動負荷終了後30分間での乳酸値の絶対値や低下率が、クエン酸を摂取しない群と有意差がなかったことについて、4gという用量が少なすぎ、また観察時間が30分では短すぎた可能性があると述べられている。本研究における4gという値は、パイロット研究に基づき、不快感などの有害事象を来さないレベルとして設定されたもので、体重換算で63.2mg/kgとなるが、既報研究の中には500mg/kgを摂取することで3時間後にアルカローシスがピークになるとするものがあるという。
このことから著者らは、「不快感を来さずに有効性を期待できる摂取量の確立が今後の課題」としている。
文献情報
原題のタイトルは、「Effect of timing of citrate drink ingestion on blood lactate removal」。〔J Phys Ther Sci. 2024 Dec;36(12):772-775〕
原文はこちら(J-STAGE)