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新型コロナウイルス後遺症の倦怠感を身体活動で改善できるか? ナラティブレビュー

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患した場合、急性期を過ぎた後も何らかの症状が遷延したり、いったん消失した症状が再発したり、または急性期にみられなかった症状が発症したりすることがある。「Long COVID」、「post-acute COVID-19 syndrome(PACS)」などいくつかの呼称がつけられているが、そのような病態での症状として最も出現頻度が高い倦怠感を、身体活動で予防または治療できるかという点を検討したナラティブレビュー論文の要旨を紹介する。

新型コロナウイルス後遺症の倦怠感を身体活動で改善できるか? ナラティブレビュー

イントロダクション:Long COVIDでの倦怠感は急性サルコペニアの可能性

世界保健機関(World Health Organization;WHO)は、COVID-19発症後に少なくとも3カ月以上にわたり何らかの症状が持続しており、それが偶発的に併発した疾患によるものである可能性がない場合をCOVID-19後遺症(本稿ではlong COVIDとする)と定義している。報告による差が非常に大きいが、long COVIDの発現率は約10%程度と考えられる。

Long COVIDに最も一般的な症状は倦怠感であり、日常生活に支障が生じたり、長期臥床となる患者もみられる。その一部は、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(myalgic encephalomyelitis;ME/chronic fatigue syndrome;CFS)の診断基準を満たし、メンタルヘルスの不調を来す患者もいる。倦怠感の原因は多因子だが、long COVIDでの倦怠感には筋肉量の減少が関与している可能性がある。詳細なメカニズムは不明ながら、ウイルスが筋細胞のストレスを誘発し、萎縮プロセスを活性化させ筋力低下が生じたり、ミトコンドリア機能不全により同化作用の低下と異化作用の亢進が生じたりする可能性がある。これは、急性のサルコペニアともいうべき状態と言える。

サルコペニアに対して身体活動がその改善に有効であり、long COVIDでの倦怠感にも身体活動が有効性である可能性が考えられる。このような考え方に基づき、本論文の著者らは、急性期COVID-19とlong COVIDでの倦怠感に対して現在試みられている介入方法の報告に関するナラティブレビューを行った。

文献検索には、WHOのCOVID-19関連レジストリとPubMedを用い、2023年1月に実行した。使用されたキーワードは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)、筋肉疲労、long COVID、身体活動、骨格筋など。

Long COVID研究の障壁

Long COVIDの症状として訴えられる、倦怠感や睡眠障害、認知機能低下、筋骨格系の疼痛、呼吸困難感などの症状は、COVID-19罹患後でない人にもよくみられる症状であるため、症状に基づいてlong COVIDを診断することは実際には容易でないことがある。また、パンデミック以降、日常生活が変化し、市民の間に新たなストレスが生じたり、社会的・経済的な不安が増大しているという背景から、COVID-19の罹患の有無を問わず、不定愁訴が増加傾向にある。さらに、多くの場合、患者の病前症状に関するデータが入手できないことから、訴えられる症状がCOVID-19に端を発したものであるか否かの判断は困難となる。実際のところ、COVID-19患者におけるlong COVIDの発現率は、英国の3.3%からデンマークの39%まで広い範囲に分布している。

英国生理学会は2022年2月にバーチャル会議を開催し、その結果を2023年1月に発表した。この会議の主要な成果の一つは、軍人やエリートアスリートなど、自分自身の身体パフォーマンスを継続的にモニタリングしている集団を対象とする研究で、long COVIDの影響を考察し、身体活動がlong COVIDに対して改善をもたらすのかという疑問も検討されたことだ。しかし、利用可能なデータは、身体活動によって急性期COVID-19からの回復とlong COVIDの重症度を軽減できるかという質問に対する明確な答を示していなかった。例えば、英国で行われた研究では、エリートアスリートの約10%が、一般人口と同様のlong COVIDを経験していた。一方、米国での研究では、アスリートは一般集団よりもlong COVID有病率が有意に低いことが示されている。また、軍人対象研究でも同様の傾向が観察された。ただ、long COVIDのリスクはCOVID-19罹患前のワクチン接種状況によって変わるため、それらの研究が実施された時期が異なることが比較を困難にしている。

Long COVID患者の骨格筋における酸化ストレス

「疲労」は複雑で、十分に理解されていない現象である。通常、激しい長時間の活動の後に発生し、単一の臓器や組織の疲労(局所性疲労)または生体全体(全身性疲労)の機能低下が生じる。局所性の疲労、とくに筋肉疲労は、収縮に必要な高エネルギー化合物(アデノシン三リン酸〈ATP〉、リン酸化クレアチン)の減少、または筋肉代謝の最終生成物(乳酸)の蓄積が原因とされる。この場合の疲労は通常、持続期間は短く回復可能であり、疲労感またはエネルギー不足といった感覚として認識される。

病的状態に関連する、より長く続き休息しても改善しない、別のタイプの筋肉疲労もある。この2番目のタイプの疲労の主な原因は、負の窒素バランス、骨格筋タンパク質分解の増加による骨格筋量の減少とその結果としての萎縮に関連している。このような変化の誘発因子として、加齢、不動、インスリン抵抗性、関節炎、心血管疾患、呼吸器疾患などの全身性炎症の関与が考えられる。

Long COVID患者に起こる最も顕著な変化の一つは、筋肉疲労状態の発症であり、それによって日常生活に支障が生じる。休息によって部分的に症状は軽減されるものの、この状況は筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の筋骨格症状と非常によく似ている。ME/CFSとLong COVIDは、睡眠では解決できない深刻な衰弱の状態にあるという点で、共通するものが認められる。

身体活動はlong COVIDによる筋肉疲労を改善するか?

SARS-CoV-2は、アンジオテンシン変換酵素2(ACE-2)受容体を足掛かりとしてヒトに感染する。骨格筋細胞にACE-2が広く発現しており、骨格筋が体重の約4割を占めることを考えると、SARS-Cov-2感染が骨格筋によって媒介される可能性が高い。また、骨格筋細胞ではウイルスによってタンパク質代謝に関連するいくつかのサイクルが変化し、これがサルコペニア様の状態の形成につながり得る。今年発表されたある論文では、long COVID患者では四肢の筋力が約3割低下していると述べられている。

一方、やはり今年になって発表された、プロまたはアマチュアのスキーヤーを対象とする研究で、継続的な運動習慣がlong COVIDの症状を軽減し得ることを報告した論文が存在する。山間部という同様の地理的条件に暮らす座位行動の多い対象にみられるlong COVID患者に比較し、倦怠感の強度と期間が半分程度と有意に軽かったという。

ただし、long COVIDにおける倦怠感はME/CFS患者のそれと明らかに類似しているため、身体活動が倦怠感の改善につながるとすることを疑問視する考え方もある。ME/CFS患者では身体的要素だけでなく、感情的または認知的なストレスが存在することで、多くの症状が悪化し、そのような影響で生じる倦怠感は「ストレス後倦怠感(post-stress malaise)」とも呼ばれる。ストレス後倦怠感の存在により、ME/CFS患者ではごく軽度の身体活動さえ困難になる。ME/CFSでの倦怠感に対して身体活動介入を試みた研究の一部は、有効性は認められず、かえって有害ですらあり、避けるべきであると結論づけたものもみられる。

しかし、8件のランダム化比較試験のレビューでは、ME/CFS患者に対する段階的身体活動のメリットが示された。Long COVIDの倦怠感に対する身体活動介入の試みも既に行われている。研究間の不均一性のため一貫した結論を得るに至っていないが、継続的な運動を行っている競技レベルおよびレクリエーションレベル双方のアスリートを対象に行われた観察研究からの知見としては、倦怠感の持続期間と強度の双方に対して身体活動が良好な影響があることが示唆されている。その一方、long COVIDの倦怠感に対して身体活動介入を行った対象のうち8%は、何の効果も得られなかったとの報告がある。

運動療法やその他の方法によるlong COVIDのケアの最適化には、均質なサンプルでのさらなる研究が必要とされる。

文献情報

原題のタイトルは、「Effect of physical activity on long COVID fatigue: an unsolved enigma」。〔Eur J Transl Myol. 2023 Sep 4;33(3):11639〕
原文はこちら(PAGEPress)

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