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65歳以上の食欲低下は死亡のリスク因子である可能性 系統的レビューによる検証

高齢者(65歳以上)でしばしばみられる食欲低下は、栄養失調や死亡のリスク因子であることが、システマティックレビューの結果として示唆された。著者らは、高齢者の食欲低下のスクリーニングと介入を標準化する必要がある提言している。

65歳以上の食欲低下は死亡のリスク因子である可能性 系統的レビューによる検証

高齢になって食が細くなるのは“当たり前”なのか?

高齢者では食欲の低下は珍しいことではなく、何らかの基礎疾患の症状、または薬剤の副作用、あるいは明確な原因がない場合にもみられる。食欲の評価のための標準化されたアプローチは存在せず、またこの状態についての標準化された用語や定義もなく、食欲減退、食欲不振、意図しない体重減少、栄養不足、栄養失調などの用語が、だいたい同じような状態を指す言葉として使用されてきている。加えて、高齢者の食欲低下を明確な根拠なく、自然な加齢現象とみなす傾向も一般的に存在している。

これを背景として、この論文の研究では、65歳以上の食欲低下の有病率、および、それが栄養失調や死亡のリスクに関連しているか否かを、システマティックレビューにより検討した。

システマティックレビューにより高齢者の食欲低下の有病率と影響を探る

システマティックレビューおよびメタ解析の優先報告項目(PRISMA)ガイダンスに従って、PubMed、Embase、コクランライブラリーなどの文献データベースを用いた。包括基準は、食欲低下の状態にあるか、それらのリスクが存在する65歳以上の高齢者を対象とした、対象者数が20人以上の観察研究や介入研究であり、2011年1月~2021年7月に公開された英語論文。除外基準は、対象に65歳未満や神経性食欲不振症患者が含まれていて、データ解析の際にそれらを区別できない報告、ケーススタディー、総説、エディトリアル、学会抄録、レビュー論文など。

一次検索で4,082報がヒットし重複および関連のない報告を除外後の2218報を2名の研究者が独立して、タイトルと要約に基づくスクリーニングを実施。146報を全文精査の対象とし、最終的に58件の研究の報告をレビューの対象とした。なお、スクリーニング段階での採否の意見の一致率は90.5%、全文精査段階では79%であり、意見の不一致は討議によって合意に至った。

抽出された研究の特徴

58件の研究はすべて観察研究だった。研究デザインは60%が縦断的で、40%は横断的であり、研究参加者は縦断研究では100人以下から最大146万6,598人まで、横断研究では55~1万3,151人の範囲だった。半数以上(58.6%)は欧州で行われており、日本を含むアジアが4分の1強(27.6%)で、その他、米国、オーストラリア、中東、カナダから少数ずつ報告されていた。

全体の60.3%は地域在住高齢者を対象とした研究で、20.7%は入院患者、8.6%は施設居住者、その他の12.1%は外来患者や背景の混在した集団だった。6件の研究は活動性のある癌患者または癌既往歴のある高齢者を対象としており、骨折、外傷、パーキンソン病、血液透析、新型コロナウイルス感染症入院患者を対象としたものがいずれも1~2件存在したが、その他の多くは特定の健康状態に特化したものではなかった。なお、対象者は全体的に女性が多かった。

食欲低下の評価には、自己申告による簡易栄養食欲質問票(Simplified Nutritional Appetite Questionnaire;SNAQ)が多くの研究で用いられており、通常、20点中14点以下、または一部の研究では13点以下を食欲低下と判定していた。

高齢者の食欲低下は、交絡因子調整後にも栄養失調や死亡リスクと関連

食欲低下の有病率は41件(70.7%)の研究で報告されており、英国の高齢者146万6,598人を対象とした研究の0.20%が最低で、オーストラリアの入院患者などでの調査では16~63%と高値であり、対象によって幅が大きかった。居住環境別にみた場合、地域在住高齢者では0.20~55%、施設居住者では5.8~61%、入院患者では13~63%、その他では6.6~26.6%だった。

食欲低下と栄養失調の関係

食欲低下と栄養失調の関連を評価した研究は15件で、3件が縦断研究、12件は横断研究だった。すべての研究で、居住環境にかかわらず、食欲低下のある高齢者は栄養失調のリスクが高いことを報告していた。

より細かくみていくと、3件の縦断研究のうち2件は地域ベースの研究であり、食欲低下は意図しない体重減少のリスクの76%上昇、または栄養失調のリスクの63%上昇と関連していると結論づけていた。他の1件は2泊以上の入院治療を受けた317人の整形外科患者を対象とする研究であり、食欲低下のみられた患者は栄養失調リスクが4.5倍高かったと報告していた(OR4.54〈95%CI;2.31~8.90〉)。

食欲低下に伴う栄養失調のリスクについて、最も高いオッズ比を報告していたのは日本の横断研究の報告で、日本人1,098人を対象とした多変量解析の結果、OR16.45(同7.84~34.54)と16倍を超えるリスク上昇の可能性を示していた。

食欲低下と死亡率の関係

35件中18件(51.4%)の縦断研究で、食欲低下と死亡率の関係が評価されていた。追跡期間の最長は15年間に及んでいたが、多くは1年死亡率を評価していた。

18件の研究のうち17件(94%)は、死亡リスク増大と関連があると報告していた。さらに16件は、既知の交絡因子を調整した多変量解析においても、関連が有意と述べていた。140万人を超える地域在住高齢者を対象とした大規模研究からは、食欲の低下による死亡リスク増大は30~35%と結論づけていた(女性はHR1.30〈1.21~1.39〉、男性はHR1.35〈1.24~1.48〉)。

食欲低下と死亡率との有意な関係を報告していない唯一の研究は、日本で外来血液透析患者を対象に行われた縦断研究で、ビジュアルアナログスケール(VAS)で評価した食欲スコアが75未満/以上で二分して追跡した結果、死亡率に有意差はみられないとしていた。この研究では、多変量解析ではVASが「高値」であった場合に、死亡リスクがわずかながら有意な「低下」ではなく「上昇」が観察された。ただしこれは、サンプル数が少ないことによるエラーの可能性があるという。

高齢者の食欲低下のスクリーニングから介入の標準化が必要

論文では上記の栄養失調や死亡リスクのほかに、サルコペニアや身体機能の低下、要介護レベル、入院、転倒、健康関連QOL、認知症、うつ病、院内感染、治療中断、主要心血管イベントなどとの関連を分析しており、それぞれ有意/非有意の関連が報告されている。

それらの検討のうえで結論は、「われわれの研究結果は65歳以上の人々の食欲低下が、地域社会、介護施設、病院というあらゆる環境全体で、栄養失調、死亡、およびその他の負の転帰のリスク増大と関連していることを示している。このような関連性は、高齢者の食欲低下のスクリーニングと評価および介入の体制を改善すべきことを示唆するものであり、それらの標準化の取り組みが求められる」。

文献情報

原題のタイトルは、「Association of anorexia/appetite loss with malnutrition and mortality in older populations: A systematic literature review」。〔J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2023 Apr;14(2):706-729〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)

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