「ペットボトルの蓋をすぐ開けられますか?」 わずかこの1問でフレイルをスクリーニング
ペットボトルの蓋をすぐに開けることができるか?という、たった一つの質問で、フレイルの有無をスクリーニングできる可能性が報告された。国際医療福祉大学保健医療学部理学療法学科の沢谷洋平氏、同大学医学部老年医学講座の浦野友彦氏らの研究によるもので、「Physical Therapy Research」に論文が掲載された。
フレイルのより簡便なスクリーニング方法を探る
人口の高齢化とともにフレイルの早期発見・介入が求められるようになり、2020年度からは75歳以上の後期高齢者を対象とする「フレイル健診」が行われている。しかし、面接の手間や健診非受診者の存在などの課題があり、日常生活の中で高齢者自身が施行可能な、より簡便なスクリーニング手法の模索も引き続き重要な課題とされている。
一方、日常生活で頻繁に行う機会のある、ペットボトルの蓋を開けるという作業が可能か否かの違いが、握力や全身の筋力と関連するとする先行研究の報告がある。さらに、サルコペニアの有無と、ペットボトルの蓋を開けられるか否かが関連するとの報告もある。しかし、フレイルの有無とペットボトルの蓋を開けられるか否かの関連は検討されていない。仮にこの両者に関連があるのであれば、高齢者に限らず一般生活者のフレイルリスクの検出という公衆衛生対策として、広く活用できると考えられる。
なお、ペットボトルの蓋を開けられるか否かを二分する握力の最適なカットオフ値は17.7kgというデータがあり、この値はサルコペニアに関するアジアワーキンググループによる女性の基準値である18kgとほぼ一致している。
要介護認定を受けていない高齢者対象の横断研究で検証
この研究は、国内のある1都市に居住する高齢者対象の横断研究として、2023年6~8月に実施された。要介護認定を受けていない73歳または78歳の地域住民603人に調査票を郵送。519人(回答率86.1%)から回答を得て、認知症や脳血管疾患、がんの既往者、データ欠落者などを除外し、427人(男性217人、女性210人)を解析対象とした。
約4人に1人はペットボトルの蓋をすぐに開けられない
「ペットボトルのふたを開けるのにどれくらい時間がかかりますか?」との質問に対して、1)すぐにできる、2)何回か力を入れてできる、3)誰かにお願いすることがある、4)いつも誰かにお願いする――から四者択一で回答してもらい、1)を選択した人を「すぐに開けられる群」、それ以外を選択した人を「すぐには開けられない群」とした。
その結果、すぐに開けられる群が326人(76.3%)、すぐには開けられない群が101人(23.7%)であり、高齢者の約4人に1人はペットボトルの蓋を開けるという作業に何かしらのハードルがあることがわかった。
4割強がプレフレイル・フレイル
フレイルの有無は、介護予防リスクの評価のために用いられている25項目の質問からなる「基本チェックリスト」を利用し、スコア3点以下はフレイルなし、4~7点はプレフレイル、8点以上はフレイルと判定した。
その結果、フレイルなしが247人(57.8%)、プレフレイルが116人(27.2%)、フレイルが64人(15.0%)であり、4割強がフレイルまたはフレイルのリスク状態だった。
たった一つの質問で、フレイル判定に対するAUCが0.65、特異度は81%
ペットボトルの蓋をすぐに開けられる群では、フレイルなしが64.7%、プレフレイルが25.5%、フレイルが9.8%であった。それに対して、すぐには開けられない群では同順に、35.6%、32.7%、31.7%であり、全体としてこの分布に有意差があり後者の群にフレイルやプレフレイルが多かった(p<0.001)。
二項ロジスティック回帰分析の結果、交絡因子未調整モデルでは、ペットボトルの蓋をすぐには開けられない群においてフレイルが有意に多いことが示された(オッズ比〈OR〉4.26
〈95%CI;2.44~7.43〉)。さらに、年齢、性別、BMI18.5未満、独居、高血圧、脂質異常症を調整したモデルにおいてはOR7.62(3.83~15.15)と、より高いオッズ比が示された。
なお、25項目の「基本チェックリスト」の質問のうち、「バスや電車で1人で外出しているか」、「階段を手すりや壁をつたわらずに昇っているか」、「半年前に比べて固いものが食べにくくなったか」、「今日が何月何日かわからない時があるか」、「わけもなく疲れたような感じがするか」などの15項目において選択率に有意差があり、いずれも蓋をすぐには開けられない群でフレイルを示唆する回答が多かった。
次に、ROC解析にてフレイルの判別能を検討。その結果、ペットボトルの蓋をすぐに開けられるか否かという単一の質問で、フレイルの判定を感度50.0%、特異度81.0%、AUC0.65(p<0.001)で判別できることが明らかになった。
著者らは、「我々の知る限り、本研究はフレイルとペットボトルの蓋を開ける能力との関連性を明らかにした初の研究である」としたうえで、「得られた結果は、自己申告に基づく、ペットボトルのキャップをすぐに開けられないという状態が、フレイルを表すさまざまな側面と関連していて、かつ、フレイルのスクリーニングツールとしての利用可能性を示唆している」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Association between Frailty and the Self-reported Inability to Immediately Open a Polyethylene Terephthalate Bottle Cap in Older Japanese Adults」。〔Phys Ther Res. 2025;28(1):37-44〕
原文はこちら(J-STAGE)