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新型コロナによる行動制限で子どもの転倒と肥満のリスクが増大 身体活動の質向上と良好な食生活が必要

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックに伴う緊急事態宣言によって、低学年児童の転倒と肥満のリスクが増大したとする論文が、「International Journal of Environmental Research and Public Health」に掲載された。名古屋大学や愛知県三河青い鳥医療療育センターなどの研究グループによるもので、同大学のサイトにプレスリリースが掲載された。緊急事態宣言後に、バランス機能の低下や転倒回数の増加、体脂肪率の上昇が認められ、転倒リスクは宣言前の約1.9倍に上るという。また、宣言後は宣言前より子どもたちの身体活動時間は長いが、運動の質が高くない可能性があるとのことだ。

新型コロナによる行動制限で児童の転倒と肥満のリスクが増大 身体活動の質向上と良好な食生活が必要

研究の概要

この研究では、小学校1年生児童を対象に、緊急事態宣言前と宣言後の身体機能※1の違いを運動器健診で調査した。その結果、宣言後の健診結果のほうが、バランス機能は低く体脂肪率は高く、転倒と肥満のリスクが高くなっていることが明らかになった。

これまで、緊急事態宣言前後における児童の身体機能の違いに着目した国内の研究報告はなく、本研究は緊急事態宣言による活動制限が身体機能にどのような影響を与えるのかに着目した研究として注目される。研究グループは、「児童の低下しやすい身体機能を把握する手掛かりとなり、緊急事態宣言が解除された後の、児童の身体機能低下の予防につなげていくための重要な情報源になる。とくに、バランス機能と体脂肪率の評価が重要で、これらの機能を向上させるため、質が保証された適切な運動プログラムを提供していくことが課題」と述べている。

※1 身体機能:身体が持つ能力のことを指す。

研究の背景

2020年4~5月にかけて政府が非常事態宣言を発出し、また多くの都道府県ではこの期間前後に小学校を休校とした。これらの緊急対応は、当時の判断では感染拡大を防ぐために必要とされたが、結果的に児童の身体活動※2の機会を減少させた。

学校への通学や体育の授業を制限された子どもは、健康問題だけでなく身体機能が低下する可能性が高くなることが予想される。したがって、緊急事態宣言に伴う行動制限の結果、子どもたちに身体機能低下の兆候が見られるかどうかを評価することは重要。しかし、COVID-19による緊急事態宣言以降の子どもたちの身体機能の変化を調査した研究は世界的にも数が少なく、国内ではみあたらない。

このことから、本研究では、COVID-19に伴う緊急事態宣言による子どもたちの身体機能の影響を調査することを目的とした。

※2 身体活動:安静にしている状態より多くのエネルギーを消費するすべての動き。

研究の成果

研究対象は、2018年12月~2020年12月にかけて、運動器健診に参加した6~7歳の児童110名(男児53名、女児57名)。評価項目は、体脂肪率、片脚立位時間、握力、歩容、1カ月間の転倒回数。緊急事態宣言前に健診に参加した児童(宣言前群)56名と、宣言後に参加した児童(宣言後群)54名に分類して比較した。前記の評価項目に加えて、健康と生活の質に関するアンケート、子どもの強さと困難さのアンケートを実施。また、身体活動時間、1週間の食事回数、スポーツ経費、1日の睡眠時間を評価した。

その結果、片脚立位時間、体脂肪率、転倒回数、身体活動時間に群間の有意差が認められ、宣言後群のほうが、片脚立位時間は短く、体脂肪率は高く、転倒回数は多く、身体活動時間は長かった(図1)。

図1 緊急事態宣言前後の低学年児童の身体機能の比較

緊急事態宣言前後の低学年児童の身体機能の比較

グラフは平均値と標準偏差
(出典:名古屋大学)

次に、緊急事態宣言との関連を調査するために、二項ロジスティック回帰分析を実施。その結果、片脚立位時間、体脂肪率、転倒回数と緊急事態宣言との間に有意な関連が認められ、とくに転倒回数との関連性が強い(OR1.899〈95%CI;1.123~3.210〉)ことが明らかになった(図2)。

図2 緊急事態宣言による活動制限から予想される身体機能低下リスクのサイクル
緊急事態宣言による活動制限から予想される身体機能低下リスクのサイクル
(出典:名古屋大学)

バランストレーニングと適切な食習慣が重要

これらの結果から、緊急事態宣言による活動制限は、バランス機能低下と体脂肪率の増加につながるリスクが高く、「バランストレーニング」と「適切な食習慣」の実行が重要であることが示された。

今回の研究では、緊急事態宣言後の児童の身体活動時間が、宣言前の児童よりも長く、これはベルギー、チェコ、ドイツ、スペインの研究結果と一致している。政策上の制限や小児COVID-19感染者数の違いなどの要因により、国によって児童の行動が異なることが考えられるが、海外の研究からは、身体活動を行う場所が大きく変化し、自宅やガレージ、歩道や道路で身体活動を行う子どもが増えたことが報告されている。そのような場所の制限によって、身体機能の維持・向上に必要な運動を十分に行えなかった可能性が高く、そのような状況がバランス機能に悪影響を及ぼした可能性が示唆された。

なお、食事の回数、スポーツ経費、睡眠時間については、緊急事態宣言前に健診に参加した児童と、宣言後に参加した児童で有意差は認められなかった。これは、今回の調査期間において、緊急事態宣言の期間が短かったため、影響が少なかったものと考えられた。

まとめ

COVID-19のパンデミックに伴う活動制限による、児童の身体機能低下を防ぐためには、内容を充実させた身体活動と良好な食習慣を促進することが望ましいと思われる。緊急事態宣言に伴う活動制限による身体機能の低下を予防し維持・向上させるためには、学校の放課、授業後、休日などを利用して、質の高い運動プログラムを積極的に取り入れるなどの対策が必要と、研究グループは提言している。

プレスリリース

新型コロナウイルス流行に伴う緊急事態宣言で、低学年児童の「転倒」と「肥満」のリスクが増加した〜身体活動の量よりも質が重要〜(名古屋大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Effect of the COVID-19 Emergency on Physical Function among School-Aged Children」。〔Int J Environ Res Public Health. 2021 Sep 13;18(18):9620〕
原文はこちら(MDPI)

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