8時間以上眠るアスリートは怪我や疾病罹患のリスクが低い ニュージーランドの学生調査
睡眠時間が8時間以上で睡眠の質が高い学生アスリートは、ストレスが少なく、怪我や病気になりにくいという研究結果が報告された。また、睡眠時間や睡眠の質と、トレーニングの質などのさまざまな評価指標との有意な関連が明らかになった。
エリート学生アスリートの睡眠やトレーニング関連の情報を収集
トレーニングは、その時点の身体の対応能力を超えたストレスを生み出すように設定され、それに対する適応と適切な回復によってトレーニング効果が生まれる。回復が不十分な場合、ストレスが蓄積し不適応やパフォーマンスの低下につながる。睡眠はトレーニング後の回復に欠かせず、睡眠時間の短縮や睡眠の質の低下によって、免疫能低下、耐糖能障害、倦怠感の増加などが生じることがある。
学生アスリートは、トレーニング以外に就学や生活の変化によるストレスがかかり、睡眠時間や質への影響が現れやすいと考えられる。そこで本研究では、大学生アスリートの睡眠やストレス、トレーニング量などの変化に関して、後方視的な縦断的調査が行われた。
対象は18~23歳の学生82名で、全員がスポーツ奨学金プログラムに参加しており、ニュージーランドの代表、または国内大会レベルにあるエリートアスリート。年齢19.9±1.5歳、男性55名(67%)、身長181.5±9.2cm、体重82.2±14.0kg。競技種目は、ラグビー28名、ネットボール11名、バスケットボール13名、陸上競技3名、ボート2名など。
収集された情報は、睡眠時間、トレーニング時間、10段階での自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)、主観的な評価に基づく睡眠の質、気分、エネルギーレベル、学業上のストレス、学業の評価、トレーニング強度、トレーニングの質、筋肉痛など。これらのうち、主観的な評価は1~5点のリッカートスコアで回答してもらった(1点は最も不良、5点が最も良好な判定を表す)。データ収集期間は、大学入学の2~3週間前のオリエンテーション期間から続く年度全体。なお、新型コロナ感染症パンデミックにより同国では厳格なロックダウンが行われたため、その期間はデータが欠落している。
睡眠時間は平均8時間以上で、1年の8割は8時間以上寝ている
睡眠時間8時間未満では、トレーニングの質や筋肉痛にも影響する可能性
対象者の睡眠時間は男性8.2±1.0時間、女性8.2±1.1時間でほぼ同等であり、年間を通して睡眠時間8時間以上の日が、男性は79%、女性は82%を占めていた。睡眠の質は3.6±0.8点で性別による差はなかった。
睡眠時間が8時間未満の日と8時間以上の日で比較すると、気分やエネルギーレベルの主観的評価に有意差があるだけでなく、以下のように、筋肉痛の程度やトレーニングの質にも差が生じることがわかった。
男性での検討
男性55名のうち、睡眠時間が8時間未満だった日は合計1,137日記録されており、8時間以上の日は4,624日記録されていた。両者を比較すると、睡眠時間が8時間未満の日は、気分、睡眠の質、エネルギーレベルが不良であり、8時間以上の日との比較で有意差があった(いずれもp<0.0001)。また、筋肉痛(p=0.03)や学業ストレス(p=0.0007)も、睡眠時間が8時間未満の日のほうが有意に不良だった。トレーニングの質も、有意水準は境界値(p=0.05)ながら、睡眠時間が8時間未満の日のほうが不良だった。
女性での検討
女性27名のうち、睡眠時間が8時間未満だった日は合計746日記録されており、8時間以上の日は2,578日記録されていた。両者を比較すると、睡眠時間が8時間未満の日は、気分、睡眠の質、エネルギーレベル、トレーニングの質が不良であり8時間以上の日との比較で有意差があった(いずれもp<0.0001)。また、筋肉痛(p=0.013)や学業ストレス(p=0.01)、自覚的運動強度(RPE.p=0.04)も、睡眠時間が8時間未満の日のほうが有意に不良だった。
8時間以上の睡眠や、睡眠の質の高さに独立して関連する因子は?
次に、ロジスティック回帰分析により、8時間以上の睡眠や睡眠の質の高さ(リッカートスコア3点以上)に独立して関連する因子を検討した結果、以下の因子が抽出された。
睡眠時間8時間以上と関連する因子
睡眠時間8時間以上と独立して関連する因子は、睡眠の質(OR2.9)、トレーニングの質(OR1.3)、気分(OR1.3)、学業(OR1.1)が抽出された。一方、筋肉痛はオッズ比が0.8であって、睡眠時間が8時間未満であることと独立した関連が認められた。
睡眠の質の高さと関連する因子
睡眠の質の高さ(リッカートスコア3点以上)と独立して関連する因子として、睡眠時間(OR3.3)とエネルギーレベル(OR3.0)が抽出された。一方、学業はオッズ比が0.8であって、睡眠の質が低いことと独立した関連が認められた。
怪我や疾病リスクも睡眠時間や睡眠の質と有意に関連
調査期間中に280件の疾病罹患が報告され、その大半(192件)は風邪とインフルエンザだった。また怪我は253件報告され、その多くは下肢関連だった(legが110件、foot/ankleが32件)。
睡眠時間が8時間以上の場合、怪我や疾病のリスクが2割低く(OR0.8)、睡眠の質が高い場合は4割リスクが低いことが明らかになった(OR0.6)。
結論として著者らは、「大学で学びながらエリートレベルの競技を続けているアスリートは、多くのストレス負荷がかかっている可能性がある。睡眠時間が8時間で質の高い睡眠を維持している学生アスリートは、ストレス関連の問題に苦しむリスクが低い一方で、睡眠不足を含む過度のストレスのある学生アスリートも存在する。ストレスと睡眠の問題によって生じる症状や兆候について、学生アスリート本人とコーチ、トレーナーが理解を深めることが、不適応を減らしアスリートとしてのパフォーマンス向上につながる可能性がある」とまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「The Effect of Sleep Quality and Quantity on Athlete's Health and Perceived Training Quality」。〔Front Sports Act Living. 2021 Sep 10;3:705650〕
原文はこちら(Frontiers Media)