非アルコール飲料の摂取量が多いほど、循環器疾患の発症リスクが低い 日本人での研究結果
国立がん研究センターなどによる多目的コホート研究(JPHC研究)から、非アルコール飲料の摂取量が多いほど循環器疾患の発症リスクが低いという結果が報告された。「The British Journal of Nutrition」に論文が掲載されるとともに、同研究センターのサイトにニュースリリースが掲載された。循環器疾患のタイプで分けると、脳卒中の発症リスクと非アルコール飲料の摂取量は有意な負の相関があるが、虚血性心疾患は関連がないという。
研究の背景
国立がん研究センター予防研究グループは、種々の生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの疾患との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っている。今回発表された研究では、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所管内(呼称は2019年現在)の居住者のうち、循環器疾患やがんの既往がない45~74歳の男女7万7,407人を対象に、非アルコール飲料(せん茶、番茶、ウーロン茶、紅茶、コーヒー、カルシウム飲料、コーラ、甘味飲料など)の摂取量と循環器疾患発症との関連を分析した。
アルコール飲料を含む飲食による水分摂取の増加と循環器疾患の発症リスクとの関連を報告したこれまでの研究は、結果が一致していない。これには、アルコールはそれ自体が循環器疾患のリスクとなることが影響を及ぼしていると考えられ、アルコールを除いた飲料(非アルコール飲料)のみで検討したほうが、水分の「摂取量」の影響を検討するには適している可能性がある。
しかしこれまでのところ、非アルコール飲料摂取と循環器疾患の発症リスクとの関連についてのコホート研究は少なく、また、コーラなどの甘味飲料の摂取量が比較的少ない集団においての関連が明らかではなかった。本研究では、非アルコール飲料摂取と循環器疾患の発症リスクとの関連が検討された。
研究の方法
妥当性を検証済みの食物摂取頻度調査票(food frequency questionnaire;FFQ)から非アルコール飲料の1日あたりの摂取量を算出し、男女別の五分位数で5群に分けた。非アルコール飲料の摂取量は、第1五分位群(摂取量が最も少ない下位20%)から順に、男性は367mL未満、367~599mL、600~804mL、805~1,317mLで、第5五分位群(摂取量が最も多い上位20%)は1,318mL以上だった。女性は同順に、354mL未満、354~599mL、600~782mL、782~1,319mL、1,320mL以上だった。なお、非アルコール飲料の種類は、緑茶が約6割であり、コーヒーが約2割を占めていた。
循環器疾患の発症リスクに影響を与え得る因子(年齢、BMI、喫煙状況、飲酒状況、就労状況、身体活動量、自覚的ストレス、高血圧・糖尿病の既往の有無、高コレステロール血症に対する服薬の有無、地域など)の影響をできるだけ取り除き、非アルコール飲料摂取量の第1五分位群を基準にその他の群の脳卒中、虚血性心疾患、全循環器疾患の発症リスクを算出した。
非アルコール飲料の摂取量が多いほど脳卒中と全循環器疾患の発症リスクは低い
13.6年間の追跡調査中に、4,578人が循環器疾患(脳卒中3,751人と虚血性心疾患827人)を発症した。
男性では摂取量第1五分位群に比べ、第5五分位群の脳卒中の発症リスクが18%低く(HR0.82〈95%CI;0.71~0.93〉)、全循環器疾患の発症リスクは14%低かった(HR0.86〈0.76~0.97〉)。同様に、女性の第5五分位群の脳卒中の発症リスクは27%低く(HR0.73〈0.63~0.86〉)、循環器疾患の発症リスクは25%低かった(HR0.75〈0.65~0.87〉)。男性、女性ともに、非アルコール飲料の摂取量が多いほど、脳卒中と全循環器疾患の発症リスクが低いという有意な傾向性が認められた(図1、2)。
これらのリスク低下は、主として緑茶の摂取量に起因しており、緑茶の摂取量での解析結果もほぼ同様だった。しかし緑茶以外の飲料(コーヒーやその他)の摂取量は、男性、女性ともに、循環器疾患発症の発症リスクとは関連していなかった。
また、男性、女性ともに非アルコール飲料の摂取量と虚血性心疾患の発症リスクとの間には、有意な関連が認められなかった。
水分摂取が血液の粘性や血圧低下に関与か?
本研究から、非アルコール飲料の摂取量が少ないグループに比べ、摂取量が多いグループの脳卒中と全循環器疾患発症のリスクは男性で約14~18%、女性で約25~27%低いことがわかった。
この結果について研究グループでは、「体内の水分量が多いことは血圧の低下や血液粘度の低下に関連すること、非アルコール飲料の中でも、摂取量の多かった緑茶に含まれるカテキンなどのポリフェノールが、酸化、炎症、血栓形成および高血圧に対して予防的に働いた可能性が考えられる」と考察を加えている。
なお、本研究の限界点として、関係する要因を可能な限り統計学的に取り除いて解析しているが、非アルコール飲料の摂取量が多い人のそのほかの健康的な行動についての影響が除き切れていない可能性があることを挙げている。また、腎機能の状態が水分代謝だけでなく、心血管疾患のリスクにも関連していることが報告されており、今回の研究では腎機能検査に関するデータを考慮しきれていないという。
非アルコール飲料と循環器疾患との関連を検討した研究は限られているため、今回の結果を確かめるにはさらなる研究が必要とのことだ。
関連情報
多目的コホート研究(JPHC研究)「非アルコール飲料の摂取と循環器疾患発症との関連について」(国立がん研究センター)
文献情報
原題のタイトルは、「Non-alcoholic beverages intake and risk of CVD among Japanese men and women: the Japan Public Health Center study」。〔Br J Nutr. 2021 Jul 21;1-8〕
原文はこちら(Cambridge University Press)