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高地トレーニングは標高2,500mで行い、期間は3週間が最適か? 17件の研究のメタ解析

高地トレーニンの効果に関するこれまでに発表されてきた研究論文を対象とする、システマティックレビューとメタ解析の結果が報告された。高地トレーニングは確かに有酸素パフォーマンスの向上につながっていることが確認されるとともに、最適な条件として、標高は2,500m程度、高地で過ごす期間は3週間程度が良い可能性を示唆する結果が得られたという。

高地トレーニングは標高2,500m、3週間が最適か? 17件の研究のメタ解析

メキシコ五輪から始まった高地トレーニング

高地トレーニングへの関心の高まりは、1986年のメキシコ市(メキシコシティー)五輪を契機とするとされている。メキシコシ市は標高2,300mにあり、酸素濃度は海面より3割低いことから、とくに持久系競技の選手にとっては大きな挑戦となった。日本では長距離競技に参加する選手20人に対して標高2,500~2,800mでの高地トレーニングを行い、君原健二選手がマラソンで銀メダルを獲得している。

このメキシコシティー五輪の後、高地でのトレーニングを行うことで、低値でのパフォーマンスを高められることが明確になり、その効果をより高めるために、現在までにさまざまな手法が開発されている。例えば、日常生活とトレーニングをともに高地で行う「Hi-Hi(high-altitude living and training)」、高地で生活を送りトレーニングは低地で行う「Hi-Lo(high-altitude living and low-altitude training)」、その反対の「Lo-Hi」、高地と低値でのトレーニングを交互に繰り返す「Lo-Hi-Lo」、および平地において人工的な低酸素環境でトレーニングを行う方法などがある。

ただ、それだけ多くの手法があるということは、言い換えればどの方法が最も効果的かが明らかになっていないということでもある。さらに、高地に滞在する期間による効果の差異や、低地に移動してからどのくらいの期間、効果が維持されるのかといった不明点が残されている。

これらを背景として、今回紹介する論文の著者らは、過去の研究のデータを統合して行う、システマティックレビューとメタ解析により、高地トレーニングの効果を検討した。

文献検索の方法について

文献検索には、Web of Science、SpringerLink、Science Direct、EBSCO、PubMedという文献データベースを用い、各データベースの開始から2020年9月20日までに収載された論文を対象として、「高地トレーニング」、「VO2max」、「ヘモグロビン」、「アスリート」などの用語により検索を実施。適格基準は、高地条件と低地条件での比較が可能なデザインで施行されたアスリート対象の研究であり、結果がヘモグロビンレベルまたはVO2maxで評価されているものであって、アスリートの国籍や民族は制限しなかった。除外基準は、非アスリートを対象とした研究、デザインが明確に述べられていない研究、灰色文献(伝統的な商業ルートでは入手困難な情報)、学会発表、総説、全文が公開されていない論文。

一次検索で1,004報がヒットし、重複削除後に2人の研究者が独立して、タイトルと要約に基づくスクリーニングを実施。採否の意見の不一致は3人目の研究者との討議により解決した。311報を全文精査の対象として、最終的に17件の研究報告を的確と判断した。バイアス評価の結果、17件の研究はいずれもバイアスリスクが低い、高品質の研究報告と判定された。

ヘモグロビン、VO2maxのいずれにも有意な効果

ヘモグロビンレベルへの影響を評価した研究は6件あり、メタ解析の結果、標準化平均差(standardized mean difference;SMD)0.50(95%CI;0.11~0.90)であり、高地トレーニングの有意な効果が確認された(p<0.001)。データの異質性(I2統計量)は0.0%であり、極めて均一な結果であることが示された。

また、VO2maxへの影響を評価した研究は12件あり、メタ解析の結果、SMD0.67(95%CI;0.35~1.00)であり、やはり高地トレーニングの有意な効果が確認された(p<0.001)。I2統計量は29.8%であり、無視できる程度の異質性であって、均一な結果と判定された。

感度分析として、解析対象とした研究のデータを一つずつ除外した解析を繰り返したが、いずれの解析でも、全体解析で得られたSMDに近似した値が示された。

サブグループ解析から示唆される最適な高地トレーニングとは?

次に、高地での滞在期間、高地トレーニングを行う地点の標高、トレーニングモード(Hi-Lo/Hi-Hi)でサブグループ化した解析が行われた。

滞在期間

高地での滞在期間は、3週間未満の研究が3件、3週間の研究が5件、3週間を超える研究が4件だった。標準化平均差(SMD)は同順に、0.81(95%CI;0.20~1.42)、0.80(0.31~1.30)、0.54(-0.19~1.27)であり、3週間を超えて高地トレーニングを行った研究では、有効性が認められなかった。ただしI2統計量は同順に、0%、23.4%、62.1%であり、3週間を超えて高地トレーニングを行った研究は研究間の異質性が高いと判定された。

標高

高地トレーニングを行う地点の標高を2,500m未満/以上で二分すると、それぞれ6件の研究報告が存在した。SMDは、2,500m未満が0.70(0.22~1.18)、2,500m以上が0.68(0.18~1.18)であり、いずれも有意な効果が確認された。I2統計量は同順に、29.6%、41.1%であり、前者の結果は均一であるものの後者は中程度の異質性が観察された。

トレーニングモード

トレーニングモードについては、Hi-Loが8件、Hi-Hiが4件であり、SMDは同順に0.79(0.33~1.26)、0.52(0.02~1.00)であって、いずれも有意な効果が確認された。I2統計量は同順に、48.7%、0%であり、前者の結果は中程度の異質性が観察され、後者は極めて均一な結果であった。

サブグループ解析の解釈は慎重に行う必要がある

以上を基に著者らは、「高地トレーニングはアスリートのヘモグロビンレベルとVO2maxの向上に有意な影響を及ぼす。また、標高2,500m程度で3週間程度の高地トレーニングがより効果的である可能性がある」と述べている。ただし、全体的にサンプル数が少なく、とくにサブグループ解析では、よりサンプル数が少なくなっているため、結果の解釈が制限されるとしている。

文献情報]

原題のタイトルは、「Effect of altitude training on the aerobic capacity of athletes: A systematic review and meta-analysis」。〔Heliyon. 2023 Sep 16;9(9):e20188〕
原文はこちら(Elsevier)

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