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国際スポーツ栄養学会(ISSN)が格闘技選手の栄養と減量戦略に関して見解を公表

国際スポーツ栄養学会(International Society of Sports Nutrition;ISSN)はこのほど、格闘技の栄養と減量戦略に関する見解(position stand)をまとめ、同学会発行の「Journal of the International Society of Sports Nutrition」に発表した。

国際スポーツ栄養学会(ISSN)が格闘技選手の栄養と減量戦略に関して見解を公表

ISSNによる格闘技の栄養と減量戦略に関する16項目の見解

国際スポーツ栄養学会(ISSN)のポジションスタンドは、ISSNの編集者と評議会が、読者の関心を引くトピックを特定してそのトピックに関するエキスパートに執筆を依頼する招待論文であり、執筆された草稿はレビューと修正が加えられたうえでISSNの公式見解として承認される。

今回発表されたポジションスタンドは、PubMed、MEDLINE、Google Scholarという三つの文献データベースを使用して、包括的な文献レビューを実施したうえで、格闘技における栄養と減量戦略に関する見解が16項目にまとめられている。論文の本文の一部をピックアップして紹介したうえで、それらのポジションスタンドを示す。

イントロダクション

格闘技の歴史は古代オリンピックにまで遡り、紀元前688年頃の第33回ギリシャオリンピックにパンクラチオンという格闘技の記録がみられる。現在では、レスリング、柔道、キックボクシング、テコンドー、ムエタイ、総合格闘技、ブラジリアン柔術など、さまざまな競技に発展してきている。しかし、格闘技のパフォーマンスに関する科学的研究はまだ始まったばかりである。既に多くの競技アスリートにとって最適な食習慣が十分な研究されているが、格闘技に特化したデータは著しく少ない。

格闘技の栄養戦略を立てる際、予測可能な要因と予測不可能な要因の両方を含め、考慮すべき変数が多数存在する。例えばエネルギー要件、体重階級、トレーニングのスタイル・量・強度などにより食事計画を個別に調整する必要がある。また、減量戦略を立てる際には、競技ごとの計量のタイミングの違いが重要となる。試合24時間前の計量とする競技が多いが、回復時間を1~2時間程度しか確保できない条件での試合が求められることもある。

生体エネルギー

格闘技に必要なエネルギーは、アデノシン三リン酸・クレアチンリン酸系(ATP-Creatine Phosphate system;ATP-CP系)、解糖系(乳酸系)、有酸素系(酸化系)の三つによる。例えば空手では、平均的な4分27秒の試合中に、有酸素系が77.8%、ATP-CP系が16.0%、有酸素系が6.2%とされている。また、格闘技の種類にかかわらず、試合時間が長くなるにつれて有酸素系の占める割合が増加することが、一貫して認められている。

これらのうちATP-CP系は、高いパワーを発揮するために重要である。スポーツ栄養の専門家は、エネルギー需要、エネルギー消費、代謝コストに影響を与える可能性のある多くの要因を認識しておく必要がある。

準備期

準備段階では有酸素運動能力とスキルを向上させ、パワー、スピード、可動性など最適化にあてる。この間、参加する試合の体重クラスより12~15%重い範囲を保つ。タンパク質必要量は1.2~2.4g/kgの範囲で、2g/kgに近い量が目標摂取量とされている。炭水化物については持久系アスリートでは体重1kgあたり8~12gが推奨されるのに対して、格闘技アスリートの場合は4~5gがスタート時点の摂取量として考慮され得る。

カフェイン、クレアチン、ベータアラニン、硝酸塩、必須アミノ酸などのエビデンスの裏付けのあるサプリメントは、格闘技選手のトレーニング要求と回復をサポートするために使用可能。β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(HMB)は、体重減少段階で除脂肪体重を維持に資する可能性がある。

試合期

安静時代謝量(resting metabolic rate;RMR)を測定する手段がない場合、Mifflin St Jeor 式またはCunningham式によりエネルギー需要を推計する。1週間あたり0.5~1kgの体重減を目指す。より積極的に体重を減らすには、より大きなエネルギー不足とするが、RMRを下回らないようにする。

炭水化物摂取量は3~4g/kg/日を下回らないようにする。タンパク質摂取量は1.6~2.2g/kg/日とする。脂質摂取量は0.7~1.3g/kg/日とするが、体重減少の促進のためにはこの範囲以下にする必要があることもある。

トレーニング、スパーリング中の水分補給をモニタリングする。必要に応じて、発汗を促すために熱順応戦略を検討する。

栄養補助食品に関する考慮事項

マルチビタミン
アスリートが毎日の微量栄養素の必要量を満たし、欠乏のリスクを最小限に抑えるのを助ける。毎日の摂取。
ビタミンD(カルシフェロール)
ビタミンDレベルが低いと、怪我や上気道感染症のリスクが高まる。1,000 IU/日。
ビタミンC
鉄の吸収を高め、免疫力をサポートする。抗酸化物質として働き、酸化ストレスを軽減し、外傷性脳損傷(traumatic brain injury;TBI)後の回復を助ける可能性がある。男性90mg/日、女性75mg/日。
摂取量が少ないため、十分な鉄分レベルを維持できないアスリートに考慮。女性18mg/日、男性8mg/日以上。
マグネシウム
欠乏状態ではサプリメントを使用することを支持するエビデンスがある。推奨摂取量(recommended dietary allowance;RDA)は男性420mg/日、女性320mg/日、最大500mg/日。
亜鉛
免疫機能をサポート。男性11mg/日、女性8mg/日。
ω3
回復、抗炎症作用をサポート。脳の健康と機能をサポート。1日あたり2g以上のEPAとDHA。
クレアチン
急性運動能力を高め、筋肉のクレアチン貯蔵量を増やし、除脂肪体重を増加させる。TBI後の神経保護効果をもたらす。3~5g/日。
カフェイン
運動パフォーマンスを高め、疲労の発現を遅らせる。3~6mg/kg。
重炭酸ナトリウム
高強度の運動をサポート。0.2~0.5g/kg。
β-アラニン
細胞内緩衝能力の向上により運動パフォーマンスを向上。4~6gを2~4週間以上摂取する。
HMB
除脂肪体重をサポート。1日1~3gまたは38~40mg/kg。
抗酸化物質
脳機能をサポートし、炎症を軽減し、酸化ダメージから保護する効果がある。果物、野菜、クルクミン、N-アセチルシステイン、ビタミンE、グルタチオン、コエンザイムQ10、ビタミンB群に含まれている。

国際スポーツ栄養学会(ISSN)の見解

  1. 格闘技にはさまざまな体重区分、公式計量時間、競技頻度があり、トレーニングや競技における栄養と減量の戦略に影響を与える。
  2. 試合時間が4分を超えると、有酸素系の寄与は70%以上に上昇するが、高出力バーストはATP-CP系と解糖系がサポートする。
  3. オフキャンプ/一般的な準備段階では、アスリートは体重カテゴリーの要件より12~15%高い体重を維持する必要がある。
  4. クレアチン、β-アラニン、HMB、カフェインなどのサプリメントは、準備段階、競技中、競技後のパフォーマンスや回復を高めることが示されている。
  5. ファイトキャンプ中は、効率的な縦断的体重減少のために、カロリー摂取量を戦略的に減らす必要がある。個人のカロリー必要量は、間接熱量測定法、またはMifflin St. JeorやCunninghamなどの検証済み推算式を使用して決定する。
  6. 減量期間は、除脂肪体重を維持するためにタンパク質を優先する必要があり、炭水化物を適時に摂取することでトレーニング要求に応えることがでる。主要栄養素は、炭水化物3.0~4.0g/kg、タンパク質1.2~2.0g/kg、脂質0.5~1.0g/kg/日を下回らないようにする。
  7. 適切な体重減少は、体重測定前の72時間で6.7%、48時間で5.7%、24時間で4.4%の範囲。
  8. ナトリウム制限と水分補給は、多尿と急性の水分喪失を誘発するのに効果的。
  9. 試合週中は、運動と炭水化物の制限により水分に結合したグリコーゲン貯蔵量が枯渇し、体重が1~2%減少する。同様に、食物繊維の摂取量を4日間で1日あたり10g未満に抑えることでも、同程度の体重減少が見込まれる。
  10. 試合週中は、サウナ、温水浸漬、マミーラップなどの急性の水分損失策を、適切な監督下であれば効果的に使用可能(最適な減量幅は計量の約24時間前までに体重の約2〜4%が目安)。
  11. 計量後、試合上の優位性を得る目的で、競技前に失われた体液/体重を回復するために急速な体重増加戦略が活用される。
  12. 体重測定後すぐに、50~90mmol/dLのナトリウム濃度の経口補水液(1~1.5L/時)を摂取する。
  13. 経口補水液の後に、耐容速度60g/時以下での速効性炭水化物を摂取する必要がある。体重測定後の食物繊維の摂取は、胃腸障害を避けるために制限する必要がある。
  14. 試合週中に大幅なグリコーゲン枯渇戦略を実施した格闘技選手の場合、計量後の炭水化物摂取量は8~12g/kgが適切である可能性がある。適度な炭水化物制限の場合は4~7g/kgが適切である可能性がある。
  15. 体重測定後、パフォーマンスの低下と急激な体重減少による悪影響を軽減するために、水分補給/栄養補給プロトコルで体重の10%以上を回復することを目指す必要がある。
  16. 頻繁な減量が健康とパフォーマンスに及ぼす長期的な影響は不明であり、さらなる研究が必要。

文献情報

原題のタイトルは、「International society of sports nutrition position stand: nutrition and weight cut strategies for mixed martial arts and other combat sports」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2025 Dec;22(1):2467909〕
原文はこちら(Informa UK)

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