がんには「運動×食事」で対策が必要 食事改善と身体活動の重要性を示す英国の大規模研究
運動不足と腹部肥満は、どちらも修正可能ながんの主要なリスク因子だが、それらのいずれか一方のみが良好な状態であったとしても発がんリスクは高いことが、英国の大規模疫学研究「UKバイオバンク」のデータ解析から明らかになった。つまり、腹部肥満がなく、かつ、日常の身体活動が多いことが、発がんリスクの抑制につながることが示唆された。
がん予防に必要なのは身体活動か腹部肥満解消か? それとも両方か?
運動不足と腹部肥満はどちらもがんのリスク因子としてしられている。これらは代謝の低下やインスリン抵抗性の亢進、慢性炎症などを介して発がんリスクを高めると考えられている。しかし、世界人口の4割以上が腹部肥満であり、3割がガイドライン推奨の身体活動量を満たしていないとされ、それが世界のがん患者増加の一部に関与していると考えられる。
一方、これまで、運動不足および腹部肥満のそれぞれとがんリスクとの関連は研究されてきているが、例えば身体活動は多いものの腹部肥満の場合、あるいは、腹部肥満ではないが身体活動が少ない場合に、がんリスクがどのように変化するのかという点は不明だった。これを背景として、今回取り上げる論文の著者らは、英国で行われている一般住民対象の大規模疫学研究「UKバイオバンク」のデータを用いて、この点を検討した。
UKバイオバンクのデータを11年追跡
UKバイオバンクは、2006~10年に、40~69歳の英国内の一般住民50万2,356人を登録して、現在も追跡調査が続けられている大規模な疫学研究。本研究では、追跡開始時点での非黒色腫皮膚がん以外の皮膚がん罹患者、BMI18.5未満、極端なウエスト周囲長(0.1パーセンタイル以下)、データ欠落者などを除外した、31万5,457人(56.1±8.2歳、女性48.1%)を解析対象とした。
身体活動量は国際標準化身体活動質問票(International Physical Activity Questionnaire;IPAQ)で評価し、10MET-時/週以上を「身体活動量が多い」と定義した。腹部肥満については世界保健機関(WHO)の欧米でのカットオフ値(女性88cm超、男性102cm超)を用いて判定した。
身体活動量の多寡と腹部肥満の有無により4群に分類した場合、各群の該当者数と割合は以下のとおり。
- (1)腹部肥満でなく身体活動量が多い(腹部肥満-/身体活動+)群14万7,502人(46.8%)
- (2)腹部肥満でなく身体活動量が少ない(腹部肥満-/身体活動-)群7万8,310人(24.8%)
- (3)腹部肥満で身体活動量が多い(腹部肥満+/身体活動+)群4万6,580人(14.8%)
- (4)腹部肥満で身体活動量が少ない(腹部肥満+/身体活動-)群4万3,065人(13.7%)
「腹部肥満-/身体活動+」群に比較し、他の3群は交絡因子調整後も有意にハイリスク
10.9年(3,321万1,486人年)の追跡で、2万9,710人が何らかの原発性悪性腫瘍を発症していた。
(1)の「腹部肥満-/身体活動+」群を基準として、交絡因子(年齢、性別、民族、身長、喫煙・飲酒習慣、座位行動、握力、教育歴、心血管代謝疾患、健康的食事スコア、貧困〈タウンゼント指数〉、がん健診受診〈大腸がん、乳がん、前立腺がん〉、がん家族歴、医療機関、女性のホルモン補充療法および経口避妊薬の服用、初経年齢、閉経前・後、出産回数、子宮摘出年齢)を調整後に発がんリスクを比較。その結果、3群すべて以下のように、がんリスクが有意に高いことが明らかになった。
(2)の「腹部肥満-/身体活動-」群はHR1.04(95%信頼区間1.01~1.07)、(3)の「腹部肥満+/身体活動+」群はHR1.11(同1.08~1.15)、(4)の「腹部肥満+/身体活動-」群はHR1.15(1.11~1.19)。
運動不足や腹部肥満に関連するがんについてはより強固な関係
上記はすべてのがんのリスクの解析だが、続いて、運動不足や腹部肥満がリスクに影響するとのエビデンスのあるがん種(食道腺がん、大腸がん、肝臓がん、閉経後乳がん、子宮内膜がんなど)で解析が行われた。その結果、以下のように、上記の解析結果よりもさらに強固な関係が明らかになった。
(2)の「腹部肥満-/身体活動-」群はHR1.08(1.01~1.14)、(3)の「腹部肥満+/身体活動+」群はHR1.38(同1.30~1.47)、(4)の「腹部肥満+/身体活動-」群はHR1.48(1.39~1.58)。
健康的な食事と身体活動へのアクセスを増やす政策立案が求められる
感度分析として、逆因果関係(例えば未診断のがんがありその影響で身体活動量が減ることなど)が結果に影響を及ぼしている可能性を回避するため、追跡開始2年以内または5年以内に診断された患者を除外した解析、および、非喫煙者のみでの解析、飲酒量を考慮した解析、性別の解析を実施。それらの結果も主解析とかわらなかった。
また、すべてのがんの2.0%(1.5~2.5)は、身体活動が少なく腹部肥満であることに起因するがんと推計され、6.1%(5.0~7.3)はそれらのいずれかが関与したがんと推計された。
これらの結果に基づき著者らは、「腹部肥満のために上昇するがんリスクを、身体活動では相殺できないことが明らかになった。同様に、腹部肥満のない人でも、運動不足であれば、がんリスクは高いことも示された」と総括。また、「腹部肥満や運動不足を誘発しやすい社会環境をターゲットとする政策介入と、健康的なライフスタイルに関する一般生活者の意識向上への働きかけが必要とされる」と付言している。
文献情報
原題のタイトルは、「WHO guidelines on waist circumference and physical activity and their joint association with cancer risk」。〔Br J Sports Med. 2025 Jan 22:bjsports-2024-108708〕
原文はこちら(BMJ Publishing Group Ltd & British Association of Sport and Exercise Medicine)