「カロリーが気になってつらい」カロリー表示が摂食障害の人に苦痛を与えている可能性
レストランのメニューに添えてあるカロリー量の表示は、「ないよりはあったほうが良い」くらいに考えている人が多いかもしれない。しかし、摂食障害の人にとってはその表示が重荷になっているとする、システマティックレビューとメタ統合の結果が報告された。著者らは、「公衆衛生の政策立案者は、カロリー表示の負の側面も考慮すべきだ」と記している。
カロリー表示の負の側面への視点
肥満人口を抑制するための公衆衛生施策が世界的な優先事項となっている。その施策の一つとして、外食店のメニューにエネルギー量(カロリー)や栄養素量を併記することが推し進められている。例えば米国では、店舗が一定数以上ある外食チェーン店は表示を義務付けるという州がある。また英国では、従業員数が250人以上の場合にそれを義務化している。その一方、英国では、そのような義務付けを推進する動きに距離を置く主張もみられる。
相反する主張が展開される理由は、摂食障害をもつ人々への影響を考慮に入れた場合、期待される肥満人口の抑制という効果は、負の影響とのトレードオフに見合うほどのものではない可能性があるというものだ。ただし、外食店でのカロリー表示について、そのような負の側面から検討した研究はまだ多くなく、今回取り上げる論文の著者によると、システマティックレビューはまだ行われていないという。
現在の公衆衛生対策は、摂食障害患者への影響をほとんど考慮せずに推し進められている
この研究は、既報研究を対象とするシステマティックレビューとメタ分析として実施された。文献検索は、2023年6月29日に、MEDLINE、EMBASE、APA PsycINFO、Web of Science、CINAHLといった8件のデータベースを用いて行われた。一次検索で758報がヒットし、重複削除後の578報を2名の研究者がタイトルと要約に基づき独立してスクリーニングを実施。34報を全文精査の対象とし、最終的に16件の研究報告を抽出した。
16件のうち8件は米国、5件は英国で実施されており、他はサウジアラビアが2件、カナダが1件だった。研究デザインは実験的研究と横断研究が各5件で、6件は定性的研究または混合研究法での研究だった。論文ではこれらの研究デザイン別に、メタ統合(質的解析)を行っている。内容の一部を紹介する。
実験的研究
大学のカフェテリアでの栄養成分表示の試験的導入の前と後で学生の評価を比較した研究では、参加者の大半は表示導入を前向きに評価し、50%は継続を支持していた。しかし、摂食障害をもつ人々への懸念を表明した学生も少なくなかった。具体的には、16%が表示によって摂食障害発症リスクが高まるのではないかと回答し、47%は摂食障害を既に有する場合にそれが悪化するのではないかと回答。また35%が摂食障害からの回復が困難になることを懸念していた。
女子大学生を対象に行われた別の研究では、カロリー表示が高体重の人ではなく、むしろ低体重の人の摂取量を減らすように作用する可能性が示されていた。例えば、表示を目にすることで「高カロリーのメニューを避ける」と答えた割合は、高体重群が2.8%であるのに対して低体重群は6.5%だった。
摂食障害をもつ人々への影響を調べた研究は1件のみだった。その研究では、摂食障害のある人ではカロリー表示の有無によりメニューの選択が明らかに異なるものの、摂食障害のない人ではカロリー表示があってもなくてもメニューの選択肢に違いはみられなかった。
横断的研究
サウジアラビアの大学生を対象に、カロリー表示を開始後に行った調査では、74%がその変化を認識しており、45.7%は高カロリーの選択肢を避けるためにその情報を利用していた。そして、カロリー表示を認識していることと、それを利用していることは、いずれも体重への懸念と摂食障害の増加に関連していた。また米国の大規模なコミュニティーサンプル(n=1,830)での調査では、52.7%がひと月以内にレストランのカロリー表示がスタートしたことを認識し、そのうちの50.1%(全体の26.4%)が高カロリーメニューを避けるために利用していた。米国の大学生対象調査では、ほぼ全員が栄養表示に賛成だったが、29%は既存の摂食障害を悪化させる可能性があると感じ、34%はその表示によって回復が困難になると考えていた。
英国で行われた研究からは、摂食障害をもつ人は他の精神衛生上の懸念をもつ人に比べて、カロリー表示の方針に同意する割合が低いという結果が報告されていた。また、摂食障害をもつ参加者の半数以上が、カロリー表示によって症状が悪化する可能性があると回答していた。
定性的研究・混合研究
6件の研究報告の分析により、カロリー表示が摂食障害のリスクを高めたり、回復の妨げとなる可能性が示された。
研究対象者のコメントの一部を挙げると、「表示を見たあと、カロリーのことを過剰に意識してしまい、体が膨張し汚れたように感じる」、「集中的な治療を受けてきたのに、カロリー表示を見ると、『それは正しいことではない』と言われているような気がして困惑する」といったものが含まれていた。
また英国からの報告の中には、カロリー表示政策は、低カロリーの食品を選択することが、健康を維持する唯一の方法であることを暗示するものだとの主張や、摂食障害を持つ人々への配慮が欠けているとの不満の声もあることが記されていた。
著者らは、「この研究結果は、外食店のカロリー表示を推進していくうえで、摂食障害の精神病理に及ぼす潜在的な影響を調査することの重要性を強調するものであり、政策立案者はカロリー表示政策を決定する際に、肥満と摂食障害の双方への影響を考慮する必要がある」と総括している。
文献情報
原題のタイトルは、「Impact of out-of-home nutrition labelling on people with eating disorders: a systematic review and meta-synthesis」。〔BMJ Public Health. 2025 Jan 29;3:e000862〕
原文はこちら(BMJ Publishing)