硝酸塩が運動パフォーマンスを改善 疲労耐性、走行距離、筋持久力、ピークパワーなどに有意な影響
ほうれん草やビート根などに豊富に含まれている硝酸塩の摂取が運動パフォーマンスに与える影響に関する、アンブレラレビューの結果が報告された。疲労困憊に至る時間、走行距離、筋持久力、ピークパワーなどに対する有意な影響が認められるという。
食事性硝酸塩の運動パフォーマンスに対する影響をアンブレラレビューで検証
一酸化窒素(nitric oxide;NO)は、体内では血管を拡張したり、筋肉でのグルコース取り込みを促進するように作用する。体内のNOは、NO合成酵素(nitric oxide synthase;NOS)により産生されるほか硝酸塩からも産生され、後者の経路は摂取した食品に由来する。
硝酸塩を豊富に含む食品として、ビート根、ほうれん草、ケール、ニンジンなどがあり、これらの食品そのもの、またはジュースを摂取することで、血管拡張作用等を介してスポーツパフォーマンスが向上することのエビデンスが蓄積されてきている。
例えば2018年に国際オリンピック委員会が発表したアスリートのサプリメント摂取に関するコンセンサスは、「12~40分の高強度運動のパフォーマンスが3~5%向上することが示唆されている」としている(DOI: 10.1136/bjsports-2018-099027)。ただ、このコンセンサスレポートは当然ながら2018年より前の研究報告をレビューしまとめられており、この時点では「12分未満の運動タスクに何らかの利点があるというエビデンスは明確でない」としている。もちろん、このコンセンサス発表後にも、硝酸塩に関する多くの研究結果が報告されてきている。
一方、自然科学では、無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)の結果を統合して行われるシステマティックレビューとメタ解析を最も強固なエビデンスと評価されることが多い。しかし今回取り上げる論文の著者らは、「スポーツ栄養学の場合、臨床研究と比較して研究に用いられる評価指標が数多くあり、個々の研究はそれらの指標の一部しか評価していないことが少なくないため、システマティックレビューでは摂取の影響の全体像を把握できない可能性がある」としている。それに対して、メタ解析の結果を統合して解析するアンブレラレビューは網羅性が向上すると考えられる。また、硝酸塩のパフォーマンスに対する効果のアンブレラレビューはまだ行われていなかった。
PRIORに準拠してアンブレラレビューを実施
アンブレラレビューの報告に関するガイドライン(Preferred Reporting Items for Overviews of Reviews;PRIOR)に準拠して、MEDLINE、EMBASE、Cochrane Database、CINAHL、Scopus、SPORTDiscus、Web of Scienceという7種類の文献データベースに2024年7月1日までに収載された英語論文を対象として、「システマティックレビュー」、「メタ解析」、「食事性硝酸塩」、「運動パフォーマンス」などのキーワードで検索を実施。研究対象者の年齢や性別は制限しなかったが、疾患有病者のみを対象としたメタ解析の報告は除外した。
一次検索で834報がヒットし、重複削除後の420報を2人の研究者が独立して、タイトルと要約に基づきスクリーニングを行い、82報を全文精査の対象とし最終的に20件のメタ解析の報告を適格と判断した。なお、採否の意見の不一致は3人目の研究者との討議により解決した。
解析対象メタ解析の特徴
解析対象とした20件のメタ解析には合計180件のRCT(対象者数2,670人)が含まれ、個々のRCTの対象者数は43~1,705人の範囲だった。メタ解析の対象とされているRCTの重複の程度の指標であるCCA(corrected covered area)は14.4%で、重複が多いと判断された。なお、CCAは一般的に、0~5%は重複が少ない、6~10%は中程度の重複、11~15%は重複が多い、15%超は重複が非常に多いと判断される。
持久力だけでなく筋力パフォーマンスにも有意な影響
有酸素持久力パフォーマンスへの影響
13件のメタ解析では、有酸素持久力パフォーマンスに関連する指標が検討されていた。
そのうち8件では疲労困憊に至るまでの時間(time-to-exhaustion;TTE)への影響が解析されており、7件では食事性硝酸塩のTTEに対するエルゴジェニック効果が報告されていた。走行距離を評価していた4件のメタ解析は、すべて有意な改善を報告していた。
漸増運動負荷試験(graded exercise tests;GXT)についても4件のメタ解析が行われていた。ただしそのうち3件は信頼区間の幅が広く、下限が負となり非有意だった。さらに、タイムトライアルへの影響を評価していた8件のメタ解析のうち7件は非有意という結果だった。
また、VO2maxへの影響を検討していた研究は1件であり、それも有意な効果は認めないと結論づけていた。総運動量(total work don;TWD)への影響を検討していた研究も1件であり、それも有意な効果は認めないと結論づけていた。
筋力・筋持久力パフォーマンスへの影響
5件のメタ解析では、筋力または筋持久力などのパフォーマンスに関連する指標が検討されていた。
筋力を評価していた4件のメタ解析のうち、有意な効果を報告していたのは2件だった。一方、筋持久力を評価していた3件のメタ解析は、すべて有意な効果を報告していた。
ピークパワーを検討していたメタ解析は5件で、うち3件が有意な効果を報告し、平均パワーについては4件中3件が有意な効果を報告。さらに2件の研究はピークパワーに到達するまでの時間を評価しており、双方ともに有意な効果を報告していた。
論文の結論は、「硝酸塩の摂取により、疲労困憊までの時間、走行距離、筋持久力、ピークパワー、ピークパワーに到達するまでの時間が改善されるが、その他のパフォーマンスに対するエルゴジェニック効果は示されていない」とまとめられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Dietary Nitrate Supplementation and Exercise Performance: An Umbrella Review of 20 Published Systematic Reviews with Meta-analyses」。〔Sports Med. 2025 Mar 14〕
原文はこちら(Springer Nature)