我が国における小児生活習慣病等のスクリーニングの現状と今後 全国統一基準での実施の提言
我が国における小児生活習慣病等のスクリーニングの現状を総括し、今後に向けた課題を整理したレビュー論文が、「Journal of Atherosclerosis and Thrombosis」に掲載された。産業医科大学医学部の山本幸代氏によるもので、現状では自治体によってスクリーニングの実施状況が大きく異なること、肥満以外の慢性疾患や遺伝性疾患を検出するためには十分でないことなどが述べられている。要旨を紹介する。
1987年に28都道府県でスタートした「小児成人病予防検診」
日本における小児期の慢性疾患のスクリーニングは、1987年に28都道府県で導入された「小児成人病予防検診」に始まる。その後、生活習慣病の増加とともにスクリーニングの重要性はより高まっているが、未だ学校保健安全法による義務化はされておらず、全国レベルで統一された検診はなされていない。2019年の各地医師会対象の全国調査によると、小児を対象とするスクリーニングが実施されている地域は約25%であり、主に各地の教育委員会または市町村が主導している。
このような実施状況の地域格差の存在とともに、現状ではスクリーニングの目的が肥満に該当する子どもの検出に偏っていて、非肥満の2型糖尿病や家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia;FH)の検出の役割は果たせていない。
こうしたなか、福岡市、新潟市、熊本市、北九州市などのいくつかの地域では、スクリーニング項目の拡大、成長曲線の活用、学校と医療機関の連携といった工夫を採り入れ、有用性を示してきている。
例えば東京都杉並区は、2019年に従来の肥満に焦点を当てた方法を改め、より広範な生活習慣関連リスクに対処する包括的なスクリーニングシステムを導入した。具体的には、ウエスト周囲長、HDL-C、HbA1c、ALTなどを新たな項目として組み込み、糖・脂質代謝異常、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)のリスク評価が可能になった。この変更後に、生徒(小学4年生)の9.7%が医師の診察、16.6%が保健指導を要すると判定されるなど、早期スクリーニング戦略の実現可能性と有効性が示されている。
小児生活習慣病予防検診の全国的な状況
前述のように2019年に、全国の814の地区医師会を対象として、小児生活習慣病予防検診の実施状況に関する調査が行われた。それによると、492の医師会から回答があり(回答率60.4%)、そのうちスクリーニングを実施しているのは25.8%(127医師会)と4分の1にすぎなかった。実施している地域の大半(85.4%)は自治体と教育委員会が主導していた。
実施対象については、62.6%が小学生と中学生の両方を対象としており、多くは小学校4年生と中学校1年生を対象に実施。また、約半数(50.4%)が対象集団の70%以上をカバーするユニバーサルスクリーニングを採用していたものの、17.1%は参加率が70%を下回る部分的な任意スクリーニングを採用していた。さらに、22.8%は対象の選択に肥満度を採用していて、肥満に該当する子どもに限定し実施していた。
小児生活習慣病予防検診における課題と展望
このように、我が国における小児生活習慣病予防検診は、スクリーニングの対象が限定的なものにとどまり、対象や項目にも大きなばらつきがある。また、現状では主に肥満に該当する子どもに焦点を当てたスクリーニングが行われているにもかかわらず、小児肥満の健康課題に関する保護者の理解やフォローアップ率は依然として低い。さらに、スクリーニング対象が肥満に該当する子ども限定されている場合は、家族性高コレステロール血症(FH)や非肥満2型糖尿病など、診断の遅延によって深刻な健康障害を来し得る疾患の早期発見の機会を逸することになる。
一方、これに対してユニバーサルスクリーニングは、種々の疾患を早期発見する重要な機会となる。しかしその導入には、多くの資源とスタッフおよび関連機関の調整が必要とされ、実施しようとする地域の学校や自治体に負担の増大を招く可能性がある。
これらのことから、全国的に標準化されたスクリーニング基準の確立が、喫緊の課題と言える。最近、子どもの年齢に応じたメタボリックシンドローム構成因子のカットオフ値が提案されており、そのような知見の採用も、小児生活習慣病スクリーニングの有用性の向上に資する可能性がある。また、生活習慣病リスクとともにFHの早期検出を目指した香川県、成長曲線を利用してハイリスクの子どもをより高精度に検出している北九州市のような、先進的なスクリーニング体制を開始した地域も存在する。
香川県:生活習慣病に加えFHも検出し、さらに家族のFHの診断につなげる
香川県は2012年に小児生活習慣病予防検診を開始し、2018年にはFHのスクリーニングも開始した。これらは県全体で標準化されたプロトコルで実施されている。
生活習慣病予防検診は小学4年生全員を対象としており、受診率は90~95%と高い水準を維持している。異常値が認められた子どもに対しては、香川県小児科学会が作成したガイドラインに基づき、かかりつけ医と連携した介入がなされる。
FHスクリーニングには、一次健診でLDL-C140mg/dL以上の子どもを拾い上げ、かかりつけ医の受診を経て、診断確定のため中核病院での遺伝子検査を行うという3段階のプロトコルが採用されている。2018~19年にスクリーニングを受けた子ども1万5,665人のうち約580人がLDL-C140mg/dL以上であり、67人が遺伝子検査を受け、41人がFH関連遺伝子変異を有すると診断されている。
さらに、FHと診断された子どもの家族から未診断のFHを検出するという、逆カスケードスクリーニングも導入され、その結果、成人FH診断率は約10%に達し、全国平均の約10倍となっている。このような取り組みは全国展開のモデルとなると言えよう。
北九州市:成長曲線モニタリングによる早期発見
北九州市は市全体で、学校検診において成長曲線と肥満曲線を活用する取り組みを2016年度にスタートした。それ以降、高度肥満(肥満指数50%以上)だけでなく、肥満が急速に進行している子ども(最低記録値から20%以上増加)も二次検査の対象となり、指定医療機関に紹介されている。
山本氏が所属する産業医科大学病院小児科には、2016~18年に206人の子どもが紹介受診した。そのデータ解析の結果、高度肥満は全学年で認められた一方で、急速な肥満の進行は小学3~5年生で多いという傾向が明らかになった。これは、この年齢層での早期スクリーニングおよび介入が、高度肥満の予防に重要であることを示唆している。
また、介入1年後の追跡調査では、約3分の2の子どもに肥満の改善が認められ、とくに10歳未満では改善率が高いことが明らかになった。肥満の改善に伴い、各種臨床検査値も改善していた。しかしながら約35%の子どもはフォローアップの自己中断となっていた。北九州市では現在、この問題に対処するため、関係機関が継続的なサポート体制の確立を模索している。
結論と今後の方向性
小児生活習慣病予防検診は、日本の子どもの健康管理に大きく貢献してきた。しかし依然として課題が残っている。
保護者の意識向上、プライマリケアとの連携の強化、専門医療へのアクセスの拡大などと並び、肥満、脂質異常症、2型糖尿病といった小児生活習慣病、およびFHなどに関する国レベルのスクリーニング基準の策定が、次の重要なステップと言える。全国の子どもたちの健やかな成長と長期的な健康を促進するためには、地域に根ざした協調的なアプローチが不可欠である。
文献情報
原題のタイトルは、「The Role of Pediatric Screening in Preventing Lifestyle-related Diseases in Japan: Current Practices and Future Directions」。〔J Atheroscler Thromb. 2025 Aug 13〕
原文はこちら(J-STAGE)