女性アスリートの運動後の筋タンパク質合成刺激には、ロイシンなら0.6gで十分な可能性
レクリエーションレベルの運動を行っている女性が、運動後に必須アミノ酸1.5g、ホエイプロテイン15g、同20gのいずれかを摂取し比較した結果、筋原線維タンパク質合成(MyoPS)速度に有意差はみられないという研究結果が報告された。著者らは、女性の場合、MyoPS刺激は、主として男性を対象とする研究から確立された従来の推奨よりも、少量のアミノ酸で十分なのではないかと述べている。米国、英国、オランダの研究者らの報告で、米国生理学会のジャーナル「American journal of physiology. Endocrinology and metabolism」に論文が掲載された。
女性のMPS刺激に必要なタンパク質はどのくらい?
骨格筋量は、筋タンパク質合成(muscle protein synthesis;MPS)とその分解(muscle protein breakdown;MPB)のバランスによって調節され、食事によるタンパク質摂取はMPSを一時的に刺激してMPBを阻害し、レジスタンス運動はMPSを刺激してMPBも軽度刺激する。
アミノ酸の安定同位体を標識して静脈内投与する手法による研究から、食直後(4時間以内)のMPSの上昇はタンパク質20gの摂取で頭打ちになることが示唆されており、これが現在の若年成人の運動後タンパク質摂取推奨量の指針となっている。しかし、これらの研究の大部分は男性を対象に実施されたものであり、1件存在する女性対象研究は、食直後ではなく24時間後までのMPSを標識物質の静注ではなく経口による投与で評価するなど、男性での推奨の根拠とされている研究とは異なる手法で実施されている。
よって、女性に対する推奨量はまだ確立されていないと言える。また、必要量以上のタンパク質を摂取することは、とくに女性の場合、体重管理上の懸念がより大きくなる。
一方、MPS刺激のための栄養素摂取という研究領域では、タンパク質食品よりもそれに含まれている必須アミノ酸、とくにロイシンの重要性が注目されており、現在、約2gのロイシン摂取で運動後の筋タンパク質同化反応が最適化するとされている。ただし最近行われたシステマティックレビューでは、より少量の約1gでも十分な可能性が報告された。
これらを背景として、本論文の著者らは、運動後の女性のMPSを最適化する戦略を探る研究を行った。
用量の異なる3条件でMPSの速度などを比較
この研究の参加者は、レクリエーションレベルの運動を行っている18~40歳の女性28人(アジア人2人のほかは白人)。レクリエーションレベルとは、週に2時間以上の運動を行っているものの、週3回以上のレジスタンストレーニングは行っていないことで定義した。喫煙者、なんらかの疾患有病者、タンパク質代謝に影響を及ぼし得る薬剤の服用者は除外されている。
試験デザインは無作為化二重盲検並行群間比較試験。後述のように摂取用量別の3群に分け、男性対象の先行研究と同様に、アミノ酸の安定同位体を標識して静脈内投与する手法により、食後4時間までの筋原線維タンパク質合成(MyoPS)速度や、血漿アミノ酸濃度などを比較検討した。負荷は片側(きき足)のレジスタンストレーニングとして、70%1RMによる伸展と屈曲を疲労のため自発的に終了するまで行った。なお、1RM(repetition maximum)は1回だけ施行可能な負荷強度で、本試験の5日前に計測した。
無作為化割付けされた3群
低用量群
ロイシン0.6gを含む1.5gの必須アミノ酸ドリンク。なお、ロイシン0.6gは、高齢女性対象の先行研究で有意なMPS刺激作用が報告されている。
中用量群
ロイシン1.5gを含む15gのホエイプロテイン。なお、この値は、男性対象研究から得られた現在の推奨であるホエイプロテイン20gを、平均的な男女の体重比を基に設定した。
高用量群
ロイシン2.0gを含む20gのホエイプロテイン。この値は、女性に対する用量としては現在の推奨よりも高い可能性のある条件として設定した。
女性は現行の推奨より少ないタンパク質やロイシンで、筋肥大が最適化される可能性
血漿アミノ酸濃度は、中・高用量群が低用量群よりも高値
まず、血漿アミノ酸レベルを比較すると、低用量群、中用量群、高用量群の3群いずれも、摂取後に、総アミノ酸、必須アミノ酸、分岐鎖アミノ酸、非必須アミノ酸のすべてが有意に上昇するという時間効果が認められた。
一方、4時間後までの血漿中濃度上昇曲線下面積(AUC)として比較すると、総アミノ酸、必須アミノ酸、分岐鎖アミノ酸、非必須アミノ酸のすべてについて、中用量群と高用量群は低用量群より有意に高値であり、中用量群と高用量群は有意差がなかった。
筋原線維タンパク質合成(MyoPS)速度は3群間で有意差なし
既報研究の計算式に基づき、筋原線維タンパク質合成(MyoPS)の速度(fractional synthetic rates;FSR)を算出。するとFSRは、摂取2時間後まで、摂取後2~4時間、および摂取4時間後までのFSRは、3群すべてベースラインより有意に上昇していた。かつ、FSRの3群間の比較では、摂取2時間後まで、摂取後2~4時間、および摂取4時間後までのいずれにおいても、有意差がなかった。
以上より論文の結論は以下のようにまとめられている。
「若年女性において、トレーニング後のタンパク質またはロイシン摂取により、血漿アミノ酸濃度が上昇し、その上昇の程度は摂取量により異なっていたにもかかわらず、MyoPSに差はなかった。我々の研究は、現在広く考えられている至適用量であるタンパク質20gまたは約2gのロイシンよりも低用量であっても、女性の筋肥大の最適化に十分である可能性があることを、初めて実証した」。
文献情報
原題のタイトルは、「Postexercise myofibrillar protein synthesis rates do not differ following 1.5 g essential amino acids compared with 15 and 20 g of whey protein in young females」。〔Am J Physiol Endocrinol Metab. 2025 Mar 1;328(3):E420-E434〕
原文はこちら(American Physiological Society)