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暑熱順化は、生理的順化+人工環境下でのトレーニングでパフォーマンスが向上する可能性

世界で活躍するアスリートのうち、温暖または寒冷地域に居住するアスリートは、夏季に開催される国際大会への参加にあたり、暑熱順化の対策をとる。その手段として一般的には暑熱地域での転地トレーニングがとられるが、それに加えてさらに人工的環境下での暑熱順化を行った場合、パフォーマンスがより向上する可能性を示すデータが報告された。

暑熱順化は、生理的順化+人工環境下でのトレーニングでパフォーマンスが向上する可能性

米国北東部で春~夏にかけて、地域アスリート対象に研究

この研究は、米国北東部のコネチカット州で実施された。地域のランニングおよびサイクリングのコミュニティーから計25名の男性持久系アスリートを募集(36±12歳、身長178.81±6.39cm、体重73.03±8.97kg、VO2peak57.48±7.03mL/kg/分)。

研究参加登録は5月に実施され、研究室内(周辺温度35.11±0.62°C、相対湿度47.61%)で60分間の定常運動(59±2%vVO2peak)を課して、深部体温、心拍数、発汗量を計測。これをベースライン値とした。なお、同地は寒冷地域に該当するため、ベースライン時点で熱順化はされていないと判断された。

自主的なトレーニングで生理的暑熱順化

研究参加者はその後、夏季の間、生理的暑熱順化に相当するトレーニングを自主的に継続。この間、研究者からのトレーニング指導は行わなかった。生理的暑熱順化として、屋外でのランニングが1,692回、屋外サイクリングが364回実施され、その他、マルチスポーツが18回、ハイキングが19回記録されていた。

これらのうち、屋外ランニングは気温29.89±2.42°C、湿球黒球温度(wet bulb globe temperature;WBGT)22.31±4.23°C、時刻12:14±4:42に行われ、走行距離10.28±8.43km、走行時間56.38±72.66分で、走行中の心拍数は140±15bpmだった。また、屋外サイクリングは気温30.17±2.41°C、WBGT23.68±3.96、時刻13:12±3:52に行われ、走行距離32.74±26.21km、走行時間125±6分、心拍数 128±16bpmだった。

続いて5日間の人工環境下での暑熱順化

生理的暑熱順化に続いて研究参加者は、人工環境実験室での5日間の暑熱順化を受けた。実験室の環境は、周辺温度38.67±1.03°C、湿度51.34±2.42%、WBGT33.82±1.20°C。この暑熱順化プログラムには、38.50~39.75°Cの深部体温を誘発する、70%vVO2peakでの60分間の運動が含まれていた。

この条件下でのトレーニングは、1日あたり83±5分実施され、平均心拍数132±11bpm、最大心拍数163±11bpm、平均深部体温38.83±0.25°C、最高深部体温39.55±0.15°C、発汗量2.62±0.52Lだった。

研究結果

では、ベースライン時、生理的暑熱順化終了時、人工環境下暑熱順化終了時の心拍数、深部体温、皮膚温、発汗率(量)などを比較した結果をみてみよう。

心拍数:人工環境下での暑熱順化の上乗せ効果あり

ベースラインと生理的暑熱順化終了時の平均心拍数の差は、-5±1bpmで効果量(ES)0.36、p=0.002で有意に低下し、最大心拍数の差も-8±2bpm、ES0.47、p=0.002であり、ともに有意差が認められた。

次に、生理的暑熱順化終了時と人工環境下暑熱順化終了時を比較すると、平均心拍数の差は-4±3bpm、ES0.29、p=0.013で、さらに心拍数の低下が認めせれた。ただし最大心拍数の差は-6±2bpm、ES0.36、p=0.06であり、わずかに統計的有意水準に達しなかった。

深部体温:人工環境下での暑熱順化で有意に低下

ベースラインと生理的暑熱順化終了時の平均深部体温の差は、-0.04±0.01°C、ES0.08、p=0.479、最高深部体温の差も-0.15±0.07°C、ES0.27、p=0.059であり、ともに有意差がなかった。

一方、生理的暑熱順化終了時と人工環境下暑熱順化終了時を比較すると、平均深部体温の差は、-0.22±0.08°C、ES0.54、p=0.009、最高深部体温の差も-0.27±0.10°C、ES0.52、p=0.009であり、ともに有意差が存在した。

皮膚温度:人工環境下での暑熱順化の上乗せ効果あり

ベースラインと生理的暑熱順化終了時の平均皮膚温の差は、-0.45±0.11°C、ES0.87、p=0.001と有意に低下し、理的暑熱順化終了時と人工環境下暑熱順化終了時の比較でも、-0.37±0.11 °、ES0.63、p=0.005と、さらに有意な低下が認められた。

発汗率(量):人工環境下での暑熱順化で有意に低下

ベースラインと生理的暑熱順化終了時の発汗率の差は、-0.03±0.05L/時、ES0.08、p=0.533で非有意であり、一方、生理的暑熱順化終了時と人工環境下暑熱順化終了時の差は、0.16±0.07L/時、ES0.36、p=0.027と有意に増加していた。

このほか、自覚的運動強度、喉の渇き、倦怠感などの自己報告に基づく評価指標に関しても、人工環境下での暑熱順化の上乗せ効果、または、生理的暑熱順化では認められない変化が暑熱順化後には認められた。

著者は、「生理的暑熱順化、および人工環境下暑熱順化、双方のメリットを得られるこの方法は、熱中症のリスクがある人や、暑熱環境でのスポーツで最高のパフォーマンスを目指すアスリート、軍人などにとって有効と思われる」とまとめている。

文献情報

原題のタイトルは、「Heat Acclimation Following Heat Acclimatization Elicits Additional Physiological Improvements in Male Endurance Athletes」。〔Int J Environ Res Public Health. 2021 Apr 20;18(8):4366〕
原文はこちら(MDPI)

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