運動後には経口補水液の塩味がおいしく感じる スポーツドリンクおよび水との二重盲検試験
脱水予防に最も適しているのは経口補水液だが、その塩味が苦手という人もいるかもしれない。しかし、運動などにより汗をかいた後は、経口補水液の塩味が欲しくなるという変化が生じることが明らかになった。著者らは、「長時間の運動時の水分補給における経口補水液の使用を支持する知見と言える」と述べている。
スポーツドリンクと経口補水液の相違について
運動や暑熱環境での作業などによる発汗のために体内の水分が失われ、循環血液量が減少し高浸透圧状態になると、口渇(喉の渇き)を生じる。このときに適切に水分を摂取しない場合、体温調節障害などが生じ健康障害を来すことがある。
スポーツドリンクは、運動前~後の水分に加えエネルギー補給も促進するように設計されており、炭水化物が含まれている。しかし炭水化物濃度が高いほど胃内容物の排出が遅延し、消化器症状が現れやすくなるという一面がある。また、スポーツドリンクに含まれているナトリウムは、運動量が多い持久系アスリートのナトリウム喪失を補うには十分でない。
これらの理由から、炭水化物濃度が低くナトリウム濃度がより高い経口補水液のほうが、脱水の予防や補正には適している。ただし、嗜好性という点では塩味が強くなるため、スポーツドリンクのほうが好まれることが多い。この点は、脱水リスクの高くない安静時にはより顕著になり、嗜好性は消費者の選択にとって重要な決定因子と言える。一方、運動後には体内の水分喪失に伴い、安静時には受け入れられない食べ物や飲み物が心地よいと知覚される可能性がある。
27名のレクリエーションアスリート対象の無作為化二重盲検試験
以上を背景として行われた本検討は、27名(年齢25±8.0歳で、男性13名、女性14名、身長172.2±8.5cm、体重69.8±8.9kg)のレクリエーションアスリートを対象とする無作為化二重盲検試験として実施された。27名全員に、スポーツドリンク、経口補水液、およびフレーバーで香りづけした水をプラセボとして、3条件で運動を負荷。
35.3±1.4℃、相対湿度41±6%という暑熱環境の実験室内でスウェットスーツを着用し、中強度(最大心拍数の70~80%)で自転車エルゴメーターを20分継続するという運動を負荷。運動を行う前と後とで、20mLの試験飲料を摂取し、甘味、塩味、喉の渇きを癒す力、および全体的な好みについて、1点(極めてきらい)~9点(極めて好き)のリッカートスコアで判定してもらった。
スポーツドリンクは、ショ糖172.4mmol/L、ブドウ糖0mmol/L、マルトデキストリン31.7mmol/L、ナトリウム4.79mmol/Lなどを含み、経口補水液は同順に23.4mmol/L、72mmol/L、0mmol/L、52.25mmol/Lなどを含有。プラセボ水はすべて0mmol/L。
運動前と後では飲み物に対する知覚が異なる
計60分の運動負荷で、被験者の体重は0.94±0.30kg(1.36±0.39%)減少し、唾液の浸透圧は85(95%CI;78~92)mOsmol/kgから113(102~124)mOsmol/kgに増加(p<0.001)した。
塩味の好みの変化:経口補水液条件のみ運動負荷でスコアが上昇
塩味の好みは、運動負荷前、負荷20分後、40分後、60分後のすべての時点で、経口補水液が3条件の中で最も低く、他の2条件との間に有意差があった。ただし、スポーツドリンクとプラセボ水では、運動前から運動負荷後を通じて、好みの有意な変化は生じなかったのに対して、経口補水液のみは、運動後に有意に好みが増していた。
具体的なリッカートスコアは、スポーツドリンクは平均5.91±1.49点、プラセボ水が平均5.48±1.58点で、経口補水液は3.93±2.09点であり、運動前後でスポーツドリンクとプラセボ水条件での塩味に対する好みの変化量はともに0%であるのに対して、経口補水液条件では好みのスコアが20%上昇していた。
甘味の好みの変化:全条件で運動による変化なし
次に、甘味の好みについてみると、運動負荷前、負荷20分後、40分後、60分後のすべての時点で、経口補水液が3条件の中で最も低く、他の2条件との間に有意差があった。前述のように、塩味に対する好みに関しては、運動負荷により経口補水液条件でのみスコアが有意に上昇したが、甘味に対する好みはすべての条件で運動前後での有意な変化はなかった。
口渇を癒す力:経口補水液条件のみ運動負荷でスコアが上昇
喉の渇きを癒す力については、塩味に対する好みと同様の変化が認められた。即ち、運動負荷前、負荷20分後、40分後、60分後のすべての時点で、経口補水液が3条件の中で最も低く、他の2条件との間に有意差があった。ただし、スポーツドリンクとプラセボ水では、運動前から運動負荷後を通じて、スコアの有意な変化は生じなかったのに対して、経口補水液のみは、運動後に有意に好みが増していた。
具体的なリッカートスコアは、スポーツドリンクは平均5.7±1.9点、プラセボ水が平均6.2±1.7点で、経口補水液は4.4±1.9点であり、運動前後でスポーツドリンクとプラセボ水条件での塩味に対する好みの変化量はともに0%であるのに対して、経口補水液条件では好みのスコアが50%上昇していた。
総合的な好みの予測因子:運動負荷後には塩味と喉の渇きを癒す能力が重要
飲み物に対する総合的な好みを予測する因子として、運動負荷前の好みに関しては、甘味、塩味、および口渇を癒す能力という、評価したすべての好みが有意な予測因子として抽出された。しかし、運動負荷後の好みに関しては、塩味のみが有意な予測因子だった。
また、経口補水液に対する総合的な好みは、運動負荷前の状態では、甘味と塩味によって規定されていたが、運動負荷後には塩味と喉の渇きを癒す能力が有意な規定因子だった。
アスリートの生理学的要件と知覚的要件の両方を満たす飲料が理想
著者らは、「既存のスポーツドリンクの電解質含有量は、暑さの中で長時間の運動を行うアスリートにとって多くの場合に不十分であり、運動中に発生する生理学的変化の補正には適していない可能性がある。本研究において、経口補水液は安静時には最も好まれない飲料として特定されたが、運動負荷後に多くの被験者が塩味と喉の渇きを癒す能力に対する好みを増加させた。『スポーツドリンク』は、暑さの中で長時間の運動を行うアスリートの生理学的要件と知覚的要件の両方を満たす飲料であるべき」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Sensory Perception of an Oral Rehydration Solution during Exercise in the Heat」。〔Nutrients. 2021 Sep 23;13(10):3313〕
原文はこちら(MDPI)
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