炭酸水素ナトリウム(重曹)が疲労困ぱいまでの時間を有意に延長する
炭酸水素ナトリウム(重曹)の摂取によるスポーツパフォーマンスへの影響を検討した研究論文のシステマティックレビューとメタ解析の結果が報告された。結果は、タイムトライアルへの有意な効果は認められないものの、疲労困ぱいに至るまでの時間は有意な延長が認められたというものだ。ブラジルの研究者の報告で、韓国運動栄養学会発行の「Physical activity and nutrition」に論文発表された。
ポルトガル語、英語、スペイン語、ドイツ語の論文を含めて検索
重曹のスポーツパフォーマンスへの影響を検討した研究は少なくない。重曹による酸塩基平衡の緩衝作用は、高強度運動に伴う代謝性アシドーシスを抑制すると考えられており、実際にその効果を示した研究結果が複数報告されている。今回紹介する論文は、それらの研究報告を対象とするシステマティックレビューとメタ解析により、重曹摂取の影響を評価した結果である。
文献検索には、PubMed、Scopusなどのデータベースを用い、「重曹」「パフォーマンス」などのキーワードで、2020年までに公開されたポルトガル語、英語、スペイン語、ドイツ語で執筆された論文を検索した。2名の独立した研究者が文献検索を行い、重複する論文を削除のうえ、まず、タイトルに基づいた適格基準に従いスクリーニングのうえ、続いて要約と全文が検討された。なお、この手順は、システマティックレビューとメタ解析に関する優先報告項目(Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-analyses;PRISMA)に準拠した。
最初にヒットした記事は172件で、レビューの結果、11件の論文がメタ解析の対象として抽出された。それらの論文では17件の研究が取り上げられており、研究参加者は18~35歳で合計393人であり、最新の研究は2020年1月に公開されていた。
メタ解析では、重曹の摂取によるタイムトライアルへの影響、および、疲労困ぱいに至るまでの時間への影響という2点を検討した。
タイムトライアルには有意な効果がないが、疲労は抑制される可能性
結果について、まずタイムトライアルパフォーマンスへの影響をみると、5件の研究報告がなされていた。研究参加者は計70人で、サイクリング(2件)、水泳、ボート、スプリントによる評価が行われていた。
これらの研究では5件とも重曹摂取群(または重曹摂取条件)とプラセボ群(プラセボ摂取条件)とで、有意な差は報告されていなかった。5件のメタ解析の結果も、平均差(mean difference;MD)-0.75〈95%CI;-2.04~0.55〉であり、統計的に意味のある差はなかった。
疲労困ぱいまでの時間は6件中3件で有意差があり、メタ解析でも有意差
次に、疲労困ぱいに至るまでの時間への影響をみると、その関連の研究報告は6件存在した。研究参加者は計85人で、サイクリング(4件)、長距離、空手の打撃(徐々に打撃間隔を短くするというプロトコル)による評価が行われていた。
これら6件の研究中、サイクリングでテストした2件と、空手の打撃でテストした1件、計3件の研究は、重曹摂取により疲労困ぱいに至る時間が有意に長くなるという効果を報告していた。他の3件はプラセボ群(またはプラセボ摂取条件)と有意差なしと報告していた。
変量効果モデルによる6件の報告のメタ解析の結果、標準化平均差 (standardized mean difference;SMD)1.48〈95%CI;0.49~2.48〉であり、重曹摂取群(摂取条件)のほうが疲労困ぱいまでの時間が有意に長いことが明らかになった。
女性での検討や慢性効果の検討が不足している
このシステマティックレビューとメタ解析について著者らは、女性を対象とした研究が少ないこと、重曹以外に摂取された食品の情報が十分でないこと、および急性効果のみでなく慢性効果について検討された研究がないことなどの限界点が存在することを挙げている。
そのうえで結論として、「重曹サプリメントはこれまでにも、スポーツコーチ、フィジカルトレーナー、栄養士によって使用されてきているが、今回の研究結果により、重曹の摂取がアスリートやスポーツに参加している人たちのスポーツパフォーマンスを改善する可能性があることが示された。タイムトライアルのパフォーマンスは重曹摂取の影響を受けないようだが、疲労困ぱいまでの時間を延長することによって、パフォーマンスが向上すると考えられる」とまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「Effect of sodium bicarbonate supplementation on two different performance indicators in sports: a systematic review with meta-analysis」。〔Phys Act Nutr. 2021 Mar;25(1):7-15〕
原文はこちら(Korean Society for Exercise Nutrition)