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極寒の野外訓練演習中、身体エネルギー収支は大幅なマイナス

北極圏という過酷な環境での消費エネルギー量を二重標識水法で正確に評価したデータが報告された。カナダ軍の冬季訓練中の研究であり、約5,000kcal/日の消費に対し摂取エネルギー量はその半分にも至らず、体重は大きく減少し、拒食症の症状が認められたという。

極寒の野外訓練演習中、身体エネルギー収支は大幅なマイナス

平均気温-11℃の中の5日間の訓練

軍隊での訓練中は、激しい身体活動と睡眠の制限、厳しい環境要因などにより消費エネルギー量はときに1万kcal/日に至ることもあるそうだ。とくに北極圏での訓練では、雪や氷に覆われた地形による行動時の負荷、寒冷による身体の熱産生の亢進、体温保持のために必要となる通常よりさらに重い装具の着用などの負担が加わる。

このような条件で活動する軍関係者は、支給される食料が十分確保されているにもかかわらず、消費エネルギー量にみあう量を摂取しなくなることが、しばしば報告され、拒食症の発症にも関与することもあるとされる。

研究対象および気温条件や食事など

この研究は、カナダ軍の予備部隊から募集した志願者20名を対象とした。2名は医学的な理由で脱落し、二重標識水法による消費エネルギー量を完全に測定し得たのは10名だった。

訓練期間は2015年1月26~30日の5日間で、気温は最低-22℃、最高-2℃、平均-11℃だった。

訓練期間中の食事は、食事パック(4,560kcal/日)と戦闘時軽食(1,125kcal/日)が支給され、1日あたりの摂取可能エネルギー量は5,685kcal/日だった。このうち食事パックは6種類の中から自由に選択可能だった。水以外の飲料物は、栄養素組成が正確に把握されているスポーツドリンク、コーヒー、茶、バニラカプチーノなど支給されるもののみ摂取するように指示された。

支給された食事の半分以下の摂取量

二重標識水法による消費エネルギー量を完全に測定し得た10名は、男性6名、女性4名、年齢31±7歳だった。

5日間で体重や体組成に有意な変化

体重は訓練参加前が81.8±9.3kg、5日間の訓練参加後は79.7±8.8kgで、BMIは同順に26.6±3.9、25.8±3.8、体脂肪率は30.1±7.0%、26.0±8.0%で、いずれも訓練参加により5日間で有意に減少していた(すべてp<0.05)。一方、除脂肪体重は訓練参加前が59.1±7.5kg、参加後は60.3±6.3kgで有意に増加していた(p<0.05)。これらの変化の有意性は性別による違いはなかった。

摂取エネルギー量

前述のように、訓練期間中は毎日4,560kcalの食事パックと1,125kcalの戦闘時軽食を摂取可能な状況だった。しかし実際に摂取されたのは、食事パックの42%、戦闘時軽食の52%に過ぎず、合計2,377±1,144kcal/日(1,212~4,690kcal/日に分布)と、支給量の半分程度にとどまった。

栄養素別にみると、炭水化物から総エネルギー量の52%、脂質から32%、蛋白質から15%で、ナトリウムは3,542±1,722mg/日、砂糖は174±79g/日だった。

消費エネルギー量

二重標識水法により計測した消費エネルギー量は4,917±693kcal/日(3,761~5,985kcal/日に分布)だった。これにより、1人当たり平均2,539±1,396kcal/日のエネルギー不足状態だったことがわかった。

体重な大幅な減少と食欲不振

この結果から、わずか5日間の訓練で体重(-2.7%)と体脂肪率(-4ポイント)が大きく有意に減少した。支給された食事は消費エネルギー量をほぼ満たすものであったが、実際に摂取されたのは消費エネルギー量の半分以下であり、「検討対象者が食欲不振を示したことが証明された」と著者らは述べている。

この結果は、本研究における調査期間よりも長期にわたるトレーニングによる、パフォーマンスと健康障害の研究に重要な視座を加えると考えられ、結論として「最適なパフォーマンスを維持するために、極寒の訓練または作戦任務中に軍人の食事と栄養素の摂取量を増やすための戦略を開発し、それを推進する必要性が示された」とまとめている。

文献情報

原題のタイトルは、「Energy Balance of Canadian Armed Forces Personnel during an Arctic-Like Field Training Exercise」。〔Nutrients. 2020 Jun 2;12(6):E1638〕
原文はこちら(MDPI)

SNDJ特集「相対的エネルギー不足 REDs」

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