スポーツにおける相対的エネルギー不足(RED-S)とボディーイメージに関するスコーピングレビュー
スポーツにおける相対的エネルギー不足(RED-S)とボディーイメージに関するスコーピングレビュー論文が報告された。著者らは、RED-Sと身体的因子との関連が比較的研究されるようになってきているのに対して、ボディーイメージを含む心理的因子との関連は知見が不足していると述べている。

ボディーイメージはRED-Sに、どのように関連しているのか?
RED-S(relative energy deficiency in sport)は、性別や年齢、競技レベルを問わず、アスリートに生じ得る多因子性の症候群で、病態の中心は利用可能エネルギー不足(low energy availability;LEA)であり、その影響は心血管代謝、免疫、生殖機能などさまざまな短期・長期的な健康アウトカムの悪化、および怪我のリスク上昇、パフォーマンス低下というアスリートとしての可能性の制限となって現れる。2023年に国際オリンピック委員会がRED-S臨床評価ツールを更新されたことも契機となり、おもに身体機能面とRED-Sの関連については多くの研究がなされるようになってきている。しかし、RED-Sとボディーイメージの関連はまだあまり研究されていない。
ボディーイメージとは、自分自身の身体や外見に対する主観的な認識・評価であり、この自己認識は感情や行動に影響を及ぼす。ボディーイメージのゆがみが過剰な食事制限、過剰なトレーニング、薬物の使用、摂食障害につながっていくと理解されている。アスリートの場合、理想とする体型に近づけようとする欲求が強いことが多く、また持久系・審美系競技では痩せているほうが有利との信念も加わり、ゆがんだボディーイメージを抱くことが多いと考えられている。
これらを背景としてこの論文の研究は、メタ解析などの詳細な検討をするほど十分な研究報告がない比較的新しいトピックについて、全体像を把握するための研究手法であるスコーピングレビューによって、RED-Sとボディーイメージの関連に関する現時点の知見の総括を試みている。
8件の文献データベースから7件の研究報告を抽出
PubMed、Web of Science、MEDLINE、SPORTDiscus、CINAHLなど8件の文献データベースに、2025年4月までに収載された論文を対象として、性別や年齢、、競技レベルを問わず、RED-SまたはLEAとボディーイメージの関連を検討している論文を検索した。検索キーワードには、RED-S、REDs、LEA、ボディーイメージなどを用いた。
一次検索で795報がヒットし、ハンドサーチで1報を加えたうえで重複を削除。591を2名の研究者が独立して、タイトルと要約に基づくスクリーニングを行い7報に絞り込み、全文精査によりそれら7報を適格と判断した。なお、これらの工程は、システマティックレビューとメタ解析の拡張版であるスコーピングレビューのための優先推奨報告項目(PRISMA-ScR)に準拠して行われた。
RED-Sリスクとボディーイメージのゆがみとの関連、その性差などが示されてきている
まず、各研究がアスリートのボディーイメージをどのような側面から検討しているかをみると、ボディーイメージの不満、理想のボディーイメージ、痩せていることへのこだわり、摂食障害のリスクという4点に関しては、7件の報告のすべテで検討されていた。そのほかに、ソーシャルメディアの影響という側面は5件の研究で取り上げ、運動依存症、筋肉醜形症、体型の評価方法という側面は各4件の研究が取り上げていた。
論文ではこの後、「ボディーイメージと身体認識」、「食行動とエネルギー可用性」、「性別特有の側面」という三つのトピックについて総括している。ここでは後二者について、一部を紹介する。
食行動とエネルギー可用性
これまでの知見に基づけば、ボディーイメージがRED-Sと食行動において中心的な役割を果たしていることは明らかである。7件の研究において、ボディーイメージの悪化と摂食行動の制限、そしてエネルギー摂取不足との間には密接な関連があることが示されている。
アスリートはエネルギー需要を満たすために十分な栄養知識を必要とする。しかし、スポーツ栄養に関する知識が豊富でも、必ずしも健康的な食習慣でLEAリスクの低い食行動をとっているとは限らない。エリートランナーでさえ、高い知識をもっていても最適とは言えない栄養戦略を採用することが多い。とくにボディーイメージに不満がある場合には、知識が習慣と直結しないことを強調しておく必要がある。
LEAが、エネルギーおよび栄養素欠乏の最も一般的な指標の一つであることは明らかだが、RED-Sリスクの評価に際してはLEAのみを重視すべきではない。栄養に関する知識の欠如、過剰なエネルギー消費(例えば、激しいトレーニングによる)、制限的な食習慣、そしてボディーイメージへの不満といった他のリスク要因も、RED-Sのリスクを押し上げる可能性がある。
性別特有の側面
抽出された7件の研究のうち4件は、性別特有の側面に焦点を当てていた。
RED-Sは、それ自体、女性アスリートの三主徴(female athlete triad;FAT)にルーツがあることもあり、主に女性アスリートを対象に研究されてきた。しかし最近では、男性アスリートのRED-Sが注目されてきている。ただし、特筆すべきは、過去5年間にRED-Sについて発表された170以上の原著論文のうち、研究対象に男性参加者を含めたのはわずか20%であったことである。とは言え最近の研究では、女性と男性のRED-Sは異なる症状を呈し、または原因も異なる可能性が示されるようになった。
そうした中、ボディーイメージのゆらぎは、女性と男性の双方にとって重要な要因であると捉えられてきている。アスリートは、理想的な体型を追求する中で、しばしば異なるプレッシャーを経験する。女性であれば、社会的な期待または競技特有の期待からのプレッシャーを受ける。一方、男性は、パフォーマンスや筋肉量という関連からボディーイメージの理想を掲げることが多い。つまり、ボディーイメージの不満においても、潜在的な性差が存在していると考えられる。
よって、RED-S予防のための個別化された栄養アドバイスを提供するため今後、性別特有のボディーイメージを考慮した研究の充実が求められる。
文献情報
原題のタイトルは、「The Athlete’s Body Image in the Context of Relative Energy Deficiency in Sport—A Scoping Review」。〔J Funct Morphol Kinesiol. 2025 Oct 21;10(4):413〕
原文はこちら(MDPI)







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