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健康成人の窒素必要量は104.2mgN/kg/日 システマティックレビューとメタ解析によるアップデート

窒素出納法に基づき窒素必要量を検討した報告を対象とするシステマティックレビューとメタ解析の結果、健康成人でのその値は104.2mgN/kg/日であるとする論文が発表された。順天堂大学スポーツ健康科学部の鈴木良雄氏ら7大学の研究者の研究によるもので、「Nutrients」に掲載された。著者らは、「窒素出納法による検討は今後ますます困難になると考えられ、本研究のために作成されたデータセットは、今後のタンパク摂取量に関する研究の基盤となる」としている。

健康成人の窒素必要量は104.2mgN/kg/日 システマティックレビューとメタ解析によるアップデート

古くからタンパク質の必要量の設定に使われてきている窒素出納法

タンパク質の必要量は、古くから窒素出納法に基づき設定されている。近年では、指標アミノ酸酸化法なども注目されているが、いまだエビデンスが十分でなく、「日本人の食事摂取基準(2025年版)」でも窒素出納法の研究報告に基づき、推奨量などを設定している。

しかし、窒素出納法による研究では、尿や便などの排泄物をすべて収集する必要があること、摂取量を高く見積もり排泄量を低く見積もるため、出納がプラスに傾いた結果を導きやすいこと、さらに、研究参加者のタンパク質摂取量を少なくとも5日間にわたって操作しなければならないという倫理的な課題があることから、今後の研究の実施は極めて困難になってきている。

この状況に対応し、これまでに実施された窒素出納法の研究報告のデータから、できるだけ信頼性の高い窒素必要量を求めるメタ解析の試みがなされるようになった。その代表的なものとして2003年、および2014年の報告がある。ただし、それらのメタ解析ではいずれも解析対象としたデータセットが公開されていない。

これを背景として鈴木氏らは上記2報のメタ解析等の対象論文を基に個人レベルのデータを取得し、さらに、それら2報以降に新たに報告された窒素出納法の研究の有無を検索して追加し、現時点で最新のデータセットを作成した。つまり本研究は、新たな知見を得るというよりも、これまでの窒素出納法による研究の総括としての意義が大きい。

2件のメタ解析と1件のタンパク質摂取量基準値の報告に加え、新たな報告を追加し解析

この研究で参照した窒素出納法のメタ解析の2報の論文とは、2003年の米国の研究者らによる報告(DOI: 10.1093/ajcn/77.1.109)、2014年の中国の研究者らによる報告(DOI: 10.3967/bes2014.093)。この2報に、欧州3カ国(ドイツ、オーストリア、スイス)の栄養学会が2017年に改訂した、タンパク質摂取量の基準値に関する報告(DOI: 10.1159/000499374)を加え、計3報の論文が参照している原著論文を統合し重複を除外したところ、28件の研究報告が特定された。

また、2014年の報告に記載されている手法に準拠して新たにシステマティックレビューを実施(同一のキーワード、包括条件、除外条件を用いてPubMedで検索)。その結果、3報の研究報告が見いだされた。この3件と前記の28件とをあわせて計31件の研究を基に、個別データを抽出してデータセットを作成するとともにメタ解析を行った。

なお、包括基準は、1. 健康な成人を対象として、2. 窒素(タンパク質)の摂取量を3種類以上設定し出納を評価し、その中に出納がゼロバランス(摂取量と排泄量が等しい)条件が含まれていて、3. 摂取量と排泄量の双方、または回帰式のいずれかが明記されており、4. 糞便および尿中以外への窒素損失について言及されていること。

除外条件は、1. 小児、疾患有病者、およびアスリート対象の研究、2. 窒素出納量測定前の適応期間が5日未満の研究。

395人のデータセットが完成

これらの報告から、合計405人のデータを取得できた。そのうち窒素需要が極端なケース(50mgN/kg/日または200mgN/kg/日以上)を除外して、395人のデータを解析対象とした。

この対象の平均年齢は29.9±15.6歳だった。ただし、多くの研究は30歳以下または60歳以上の集団で行われており、中年成人のデータが少なかった。性別の内訳は男性285、女性96、不明14だった。

研究に用いられたタンパク質は動物性が116、植物性が130、両者混合が149だった。また、276人のデータは温暖な環境、119人は熱帯環境で取得されており、便中・尿中以外への損失量が直接測定されていない場合、前者は4.8mgN/kg/日、後者は11mgN/kg/日が基本とされていた。

平均窒素必要量は104.2mgN/kg/日。性別、年齢、タンパク質源による差は認められない

解析の結果、平均窒素必要量は104.2mgN/kg/日と計算された。

性別で比較したところ、有意差は認められなかった(p=0.058)。ただし、性別が不明の14人を男性として解析すると、男性のほうが高値となった(p=0.035)。

気候環境での比較では有意差はなかった(p=0.176)。また、タンパク質源別での比較でも有意差はなかった(p=0.259)。年齢60未満/以上で比較しても非有意だった(p=0.275)。つまり、窒素必要量に影響を及ぼす明らかな因子は特定されなかった。

サブグループ解析からも性別、年齢、タンパク質源の影響は認められず

続いて、性別が不明の研究、および研究参加者が1人のみの研究を除外し、380人(男性285人、女性95人)のデータを用いて、性別にメタ解析を実施した。

性別×タンパク質源での検討

男性の窒素必要量は109.1mgN/kg/日と計算された。

タンパク質源によるサブグループ解析を行うと、動物性タンパク質では103.3mgN/kg/日、、植物性タンパク質では108.9mgN/kg/日であり、後者の方が高値だったが有意差はなかった。なお、両者混合では116.0mgN/kg/日だった。

一方、女性の窒素必要量は102.4mgN/kg/日と計算された。

タンパク質源別のサブグループ解析では、動物性タンパク質では105.8mgN/kg/日、植物性タンパク質では109.0mgN/kg/日であり、男性同様に後者の方が高値だったが有意差はなかった。両者混合では93.7mgN/kg/日だった。

性別×気候環境での検討

次に、気候環境の影響を性別に検討した。

その結果、男性は温暖な環境では107.7mgN/kg/日、熱帯環境では112.5mgN/kg/日と後者が高値であったが、女性では同順に106.0、98.2mgN/kg/日と前者のほうが高値だった。ただし、男性・女性ともに有意差は認められなかった。なお、女性の熱帯環境での研究はI2=99%と異質性が極めて高かった。

性別×年齢での検討

続いて、年齢層の違いの影響を性別に検討した。この検討には、窒素必要量の実測値とともに、年齢の分布が幅広いため対数変換した値でも検討した。その結果、男性・女性ともに対数変換の有無にかかわらず、年齢は窒素必要量に有意な影響を及ぼしていなかった。

また、各研究の参加者の年齢中央値に基づきフォレストプロットを作成した検討も行ったが、やはり窒素必要量への年齢への影響は認められなかった。なお、タンパク質源や気候環境に関しても同様にフォレストプロットを作成して検討し、いずれも有意な影響は観察されなかった。

窒素出納法のデータが今後報告されないとしても、将来の研究の基盤となる研究成果

本研究では、メタ解析対象全体のI2統計量は90%以上であり、研究間に高い異質性が認められた。著者らはその一因として、窒素出納に影響を及ぼし得るエネルギー摂取量を未調整であるためではないかと考察している。また、体重換算の窒素必要量は、体脂肪率の低い男性のほうが高いと考えられるにもかかわらず、本研究では有意差がなかったことも、研究間の異質性に起因する可能性があるという。ただし、本研究の主目的は、これまでの窒素出納法に関する研究参加者のデータセットを作成するということであり、「作成されたデータセットを用いて今後の解析が可能」と述べられている。なお、データセットは論文の補足情報として公開されている(ダウンロードはこちら)。

結論は、「本研究の成果は、個人レベルの窒素出納データをこれまでで最も広範に集積したことにある。平均窒素必要量は過去の推定値と一致していたが、高い異質性のため、明確な結論を出すことは困難。とはいえ作成されたこのデータセットは、今後、新たに窒素出納法を用いた研究が実施されないとしても、タンパク質摂取量の推奨値の改訂等、将来の研究のための貴重な基盤となるだろう」と総括されている。

文献情報

原題のタイトルは、「Nitrogen Requirements in Healthy Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis of Nitrogen Balance Studies」。〔Nutrients. 2025 Aug 12;17(16):2615〕
原文はこちら(MDPI)

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