SNS利用が小学生の身体イメージに影響か? 女児は自分が実際より太っていると認識しやすい傾向
国内の小学生のSNS利用状況と身体イメージとの関連性を調査した研究結果が報告された。SNSを使っている女児は、自分が実際よりも太っていると考える傾向があることや、性別にかかわらず、SNSを使っている子どもは、身近にいる友達やクラスメートよりもメディア上の人の体型を理想と考えていることが明らかにされている。筑波大学大学院人間総合科学研究科の馬場朝美氏、麻見直美氏らの研究によるもので、論文が「European Journal of Investigation in Health, Psychology and Education」に掲載された。
研究の背景:SNS利用は小学生の身体イメージにも影響を及ぼしている?
SNS利用の拡大と低年齢化
テレビや雑誌などに登場する人の体型が、若者の身体イメージに影響を及ぼし、痩身願望を強めたり、過度の食事制限、メンタルヘルスの不調、摂食障害などのリスクを高めたりする可能性が指摘されている。さらに今世紀に入って以降、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が台頭し、従来型メディアよりも強い影響力を持ちうることが指摘されるようになった。
ただし、これまでのところ、このトピックに関する研究は若年成人や思春期以降の青年を対象に行われている。その一方でSNSの利用は低年齢化していて、2023年の調査では、日本の小学校高学年の58%がLINEやTikTok、Instagram、XなどのSNSを利用していると報告されている。
若年男子の痩せ問題
他方、従来、メディアによる身体イメージへの影響は、性別で比較した場合、男子よりも女子により強く現れると考えられている。その理由として、女子は男子よりも外見を重視すること、対人関係によって考え方が影響されやすいこと、男子よりも思春期が早く発来し体格が変化してくることなどの関与が想定されている。それらの結果として、若年女性の痩せすぎが、しばしば公衆衛生上の課題として指摘されている。
しかし近年、日本の思春期前の男児の間で痩せが増加していることが報告されるようになってきた。女児と同様に男児にも、過剰な痩身願望が広がっている可能性が考えられる。
これらを背景として馬場氏らは、国内の小学生男児・女児を対象として、SNSの利用状況と身体イメージの調査を実施し、両者の関連性を検討した。
研究の方法:小学校2校の3~6年生を対象として横断的に解析
この研究は、公立小学校2校の3~6年生を対象とする横断研究として行われた。1,525人が参加し、回答内容の不備を除外し1,261人(82.7%)を解析対象とした。解析対象者は平均年齢が9.64±1.15歳、女児52%だった。
SNS利用状況の把握
「自宅で勉強以外の目的で頻繁に利用するメディアを選択してください」という質問と、その選択肢として、通話、テキストメッセージ/チャット(LINE、カカオトークなど)、テレビ視聴、ゲーム、動画視聴(YouTubeなど)、アプリ利用(Instagram、X、Snapchat、Facebookなど)、情報検索、漫画鑑賞、読書などを挙げた。これらのうち、LINE、カカオトーク、Instagram、X、Snapchat、Facebookを選択した子どもを「SNS利用群」とし、それらを選択しなかった子どもを「SNS非利用群」とした。
このほかに、スクリーンタイム(自宅での勉強以外の目的でのテレビ、スマートフォン、タブレット、ゲーム機などの利用時間)を質問した。
身体イメージの把握
身体イメージは7段階のシルエットチャート(1:非常に痩せている~7:非常に太っている)から、自分自身があてはまるものと、理想と考えるものを選択してもらい、両者の差を計算。差がない(スコア0)は、自分の体型が理想と一致していることを意味し、スコアがプラスの場合は痩せていることを望んでいる、スコアがマイナスの場合は太っていることを望んでいると判定した。
また、自分自身の体型を5段階スケール(痩せすぎ、やや痩せている、標準、やや太っている、太りすぎ)の中から選択してもらい、これを実際の体型(学校保健統計の身長・体重の標準値からの乖離の程度で分類)との差を計算。差がない(スコア0)は、自分の体型を適切に認識していることを意味し、スコアがプラスの場合は実際よりも太っていると考えている、スコアがマイナスの場合は実際よりも痩せていると考えていると判定した。
このほかに、理想的な身体イメージ像を、家族、親しい友人、クラスメート、メディアに登場する人(有名人、モデル、アイドル、アスリート、インフルエンサー、SNS上の人など)、および「該当する人はいない」の中から選択してもらった。
解析結果:SNS利用がメディア中の人の体型賞賛や、女児の体型誤認識に関連
全体として、460人(36.5%)がSNS利用群に該当した。性別で比較すると、男児は29.6%であるのに対して女児は42.9%と、SNSを利用している子どもが有意に多かった(p<0.001)。一方、1日のスクリーンタイムは男児が98.31分、女児は88.02分で、男児のほうが有意に長かった(p<0.001)。
自分自身の身体イメージのスコアは、男児が3.89、女児は3.83で有意差はなかった。一方、理想とする身体イメージは同順に3.77、3.45で、女児のほうがより痩せている体型を理想としていた(p<0.001)。その結果、自分自身の身体イメージと理想とする身体イメージとの乖離は、男児の0.12に対して女児は0.38と大きく、有意差があった(p<0.001)。
自分自身の体型(肥満または痩せの程度)の認識と実際の体型との乖離は、男児は-0.31、女児は-0.18であり、男児のほうが誤って認識していることが多い(実際より痩せていると考えがち)という差が認められた(p=0.007)。
理想的な身体イメージ像については、「該当する人はいない」が男児は69.7%、女児は60.5%を占めともに最多だったが、具体的に選択された人としては、「メディアに登場する人」が最多であり、男児では19.6%、女児では20.3%を占め、家族や友人、クラスメートを凌駕していた。
SNSを利用している女児は、自分自身の体型の認識と実際の体型の乖離が大きい
SNS利用群とSNS非利用群を性別ごとに比較すると、男児ではスクリーンタイムに有意差が認められた(SNS利用群106.95分 vs 非利用群94.73分、p=0.002)。女児では、スクリーンタイム(同順に106.95 vs 94.73分、p=0.025)のほかに、自分自身の体型の認識の誤りの大きさや(-0.20 vs -0.36、p=0.014〈SNS非利用群のほうが実際より痩せていると考えている〉)、理想的な身体イメージの存在の有無(SNS利用群では「該当する人はいない」が少なく「メディアに登場する人」を理想とする割合が多い)にも有意差があった(p=0.004)。
次に、自分自身の身体イメージと理想とする身体イメージとの乖離、および、自分自身の体型の認識と実際の体型との乖離を目的変数、SNSの利用を説明変数とする多変量解析を実施。その結果、男児については調整変数にかかわらず、SNSの利用は身体イメージや体型の認識の乖離の有意な説明変数として抽出されなかった。
一方、女児についてはスクリーンタイムと肥満度で調整した場合に、自分自身の体型の認識と実際の体型との乖離の独立した説明変数として、SNSの利用が抽出された(β=0.08〈95%CI;0.00~0.26〉)。β値がプラスのため、SNSの利用が両者の乖離の拡大と関連している(SNSを利用していると自分が実際より太っていると認識しがちである)ことを意味している。なお、自分自身の身体イメージと理想とする身体イメージとの乖離に関しては、女児においてもSNSの利用との関連は認められなかった。
性別にかかわらず、SNSの利用は「メディアに登場する人」を理想とすることと関連
続いて、理想的な身体イメージの存在を目的変数とする解析を実施。すると、男児・女児ともに、「メディアに登場する人」を理想の身体イメージとすることの独立した説明変数として、SNSの利用が抽出された(スクリーンタイムと肥満度を調整変数とするモデルでのオッズ比が、男児は1.71〈95%CI;1.11~2.65〉、女児は1.87〈1.25~2.78〉)。
思春期前から、SNS利用による誤った身体イメージの形成に注意が求められる
まとめると、日本人小学生のSNS利用は、女児において、自分自身の体型を実際よりも太っているとの誤認と、独立した関連が認められた。また、性別を問わず、身近な友人やクラスメートではなくメディアに登場する人を、理想的な身体イメージとすることと関連していた。
著者らは、「思春期前の子どもたちのSNSの利用は、身体イメージの認識や体型の好みに悪影響を及ぼす可能性がある。思春期前からSNSを使い過ぎないように働きかけることが、思春期以降の子どもたちの健全な身体イメージの形成を促すのではないか」と述べている。また、「SNSの利用が身体イメージにどのように影響するかを理解することが重要であり、その関係の根底にあるメカニズムを明らかにするための研究が、日本ではまだ少ない」と指摘し、今後の研究の発展に期待を表している。
文献情報
原題のタイトルは、「Association Between Social Networking Service Use and Body Image Among Elementary School Children in Japan」。〔Eur J Investig Health Psychol Educ. 2025 Jul 7;15(7):125〕
原文はこちら(MDPI)