GLP-1受容体作動薬による肥満治療は持続可能か? リバウンド・コスト・格差など社会的課題を研究者が提言
グルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1受容体作動薬)を用いた肥満治療の社会的な影響を考察した、欧米の研究者によるレビュー論文の要旨を紹介する。GLP-1受容体作動薬使用中止後のリバウンドに対するサポート体制が不備であること、コストの点で治療を受けられる人とそうでない人の格差が生じており、持続可能性に課題があることなどが述べられている。
イントロダクション
世界では約7人に1人が肥満であり、この割合は2035年までに4人に1人へと増加すると予測されている。肥満は2型糖尿病や心血管疾患などのリスク因子であり、医療経済へ多大な負のインパクトを与え、また個人のQOL低下を招く。
この肥満に対して、グルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1受容体作動薬)は、初めての極めて有効かつ安全な薬物治療の選択肢として登場した。治験段階では最大15~25%の減量効果が報告され、臨床においても高い減量効果が示されている。しかし、治療適応のあるすべての人が同薬にアクセスできるわけではなく、また補助的な行動療法の最適化に関する知見が限られており、さらに使用中止後のリバウンドへのサポート体制はほとんど確立されていない。
GLP-1受容体作動薬から最良の結果を得るために、GLP-1受容体作動薬がもたらし得る社会的な影響の総括が必要とされている。
GLP-1受容体作動薬は減量に非常に効果的である
GLP-1受容体作動薬による肥満治療により、体重の有意な減少とともに心血管イベントリスクの低下も報告されている。安全性プロファイルは一般に良好であり、高頻度に現れる消化器症状も多は時間の経過とともに軽減する。ただし場合によっては治療中止につながる。この点に関しては、GLP-1受容体作動薬とともに、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)の分泌刺激作用をもつGLP-1受容体作動薬/GIPデュアルアゴニストでは、消化器症状の頻度が低く、GIPの制吐作用が影響している可能性がある。
GLP1-RA使用に関連する別の懸念は、減量後の除脂肪体重、特に骨格筋の減少である。除脂肪体重の相対的減少は脂肪量の相対的減少よりも小さいため、身体機能の改善につながる可能性があるものの、この考え方はまだ推測の域を出ない。十分なタンパク質摂取とレジスタンス運動を併用することで、フレイルが懸念される場合の有用な緩和戦略となる可能性がある。
GLP-1受容体作動薬による肥満治療を提供する医療従事者の課題
これらの新薬は、今後数年間で体重管理の基盤となる可能性が非常に高い。米国では、2030年までに全人口の9%がGLP-1受容体作動薬を使用するとする推計もある。しかし、医療システムがそのような急速な普及を妨げる律速因子となるかもしれない。プライマリケア医が患者の体重管理にあてる時間は限られていて、補助的な行動支援をなし得る環境が整っていないことが多い。
今後のGLP-1受容体作動薬治療の成功は、治療提供者である一般開業医、看護師、栄養士、臨床心理士などのサポートが鍵となる。GLP-1受容体作動薬治療の有効性が社会的に認知されるようになり、その治療を求めて受診する患者が増加しているが、その需要に対応できる体制が整っていない医療機関も存在している。また、患者が高い期待を抱く一方で、当然ながら臨床医は処方と継続的なモニタリングの責任を負うことになり、一部の医療者が慎重になる傾向もみられる。
リバウンド
GLP1-RA治療では、その中止後にしばしば比較的大きなリバウンドがみられる。リバウンドの速度は、行動療法による介入で減量を達成後し介入を中止した場合に比べ、より速い傾向が報告されている。例えば、行動療法による介入後のリバウンドは年間0.12~0.32kgというデータがある一方、セマグルチドと補助的な行動支援ではその中止から1年後に、減少した体重の3分の2(約11.5kg)が戻ったという報告がある。
この課題に対する容易な解決策は、GLP-1受容体作動薬を使い続けることである。しかし米国での初期のデータによると、自己負担で治療を継続する患者は稀であり、肥満治療では約半数が1年以内に使用を中止している。将来的にGLP-1受容体作動薬の特許が切れ、より安価な薬剤が利用可能になれば変化することも考えられるものの、現状では減量とリバウンドを繰り返す「ヨーヨーダイエット」の懸念がある。
体重管理における不平等を拡大させるリスク
米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、および欧州の一部など、GLP1-RA療法が最も普及している国では、社会経済的格差がこの治療へのアクセスの差となって表れている。現在、GLP1-RAはわずかなメーカーの寡占状態であり、これが他の医薬品の場合と同様に高コストにつながっている可能性が高い。
特許が切れ始めると価格が下がる可能性があるが、すべての肥満患者がGLP-1受容体作動薬療法を受けられるようになるのは、たとえ高所得国であっても遠い先のことと思われる。低栄養と過栄養という二重不可に直面している国では、肥満治療のためにコストをかけることは困難であることが多いと考えられ、アクセスの不平等が拡大するのではないか。
肥満によるスティグマ
肥満の状態にある人は、体重に関連するスティグマを経験することが多い。GLP-1受容体作動薬治療の普及によって、このようなスティグマが緩和されるのではないかという考え方もある。しかし、減量・代謝改善手術を受けた人を対象とする研究からは、そうはならない可能性が示唆されている。定性的な研究によると、手術によって大幅に減量が達成された後も依然としてスティグマを抱えているという。
さらに、減量・代謝改善手術を受けた人は、「安易な選択肢を選んだ」と批判されていると感じていると報告されている。今後の研究では、GLP-1受容体作動薬による減量が肥満関連のスティグマにどのような変化を及ぼすのか調査する必要がある。
治療に効果的な反面、予防の妨げになる可能性
GLP-1受容体作動薬という極めて効果的な減量手段が、肥満治療の改善につながるという確かな見通しがある。しかしながらこの治療法が普遍的に利用可能な手段でないことは既に明らかであり、長期的なコストなどから、大半の個人および医療制度にとって持続可能な選択肢にはなり得ず、体重増加の予防は依然として重要である。
肥満の予防と治療は、互いに排他的ではない。これらの新薬を使用している人はより健康的な食習慣を身につける傾向があるという複数のエビデンスが存在し、米国ではGLP-1受容体作動薬の使用が増えるにつれて、食品の売上が減少していると報告されている。ポジティブに捉えれば、このような変化は、保護者がGLP-1受容体作動薬を使用している世帯の子どもを含む他の世帯員の肥満予防につながるかもしれない。しかし一方で、食品業界の行動に一定の規制をかけることで社会全体の肥満リスクを下げようとする公衆衛生戦略を、人々が軽視するような変化を生じさせてしまいかねない。
ここに挙げた課題は、どれも容易に解決できることではない。これらの課題の複雑さは、肥満予防への取り組みをより一層推進する必要性を改めて示している。
文献情報
原題のタイトルは、「The societal implications of using glucagon-like peptide-1 receptor agonists for the treatment of obesity」。〔Med. 2025 Aug 14:100805〕
原文はこちら(Elsevier)