スポーツ時の疲れを防ぐシスチン・グルタミン ミックスとは? その機序と根拠を解説
アスリートにとって‘疲れ’は大敵。トレーニングの妨げとなり、ときには精神的なストレスにつながり、明日への活力が削がれてしまう。
トレーニングすると、なぜ疲れるのだろうか? 筋肉を使うのだから当然と思われるかもしれない。しかし、筋肉を使ったことによる‘疲れ’は、「筋肉疲労」である。恐らく多くの人が、「筋肉疲労」という言葉では表現しきれないような、別の‘疲れ’を感じているのではないだろうか。
実は‘疲れ’、つまり「疲労」には学術的な定義があって、「過度の肉体的および精神的活動、または疾病によって生じた独特の不快感と休養の願望を伴う身体の活動能力の減退状態」とされている1)。これをお読みになると、トレーニングの後に感じる疲労感も、この定義によく当てはまることに気づかれるだろう。
要は、疲れは単純な筋肉疲労とイコールではないということである。筋肉疲労ならアイシングなど筋肉を冷やすことで 効果が期待できる。しかし、筋肉疲労とは別のメカニズムで生じる疲れに対しては、別の対応を考える必要がある。
疲労を起こす炎症は筋肉だけでなく、全身にも生じている
トレーニング後の筋肉のハリ、筋肉痛は、炎症と関連して生じる。炎症とは、組織を修復するための正常な反応だが、その反応が過剰に起こった場合、炎症自体が健康状態を悪化させてしまうことがある。しかし、筋肉だけでなく、全身に炎症反応の影響が及ぶ可能性がある。そのことは、筋肉疲労とは異なる機序でパフォーマンス低下が起きる可能性がある。
アスリートの場合、筋肉以外でとくに重要な炎症を起こす原因の一つとして、「腸管の傷害」が挙げられる。
腸管の傷害により、異物が体内に取り込まれ 、コンディションが低下する
腸管は、消化された食物から栄養素や水分を、腸管の粘膜を介して血液の中へ取り込むための臓器であり、必要なものだけを取り込むために腸管の粘膜が重要な働きをしている。しかし、その粘膜に傷害が起きると、本来なら体内に取り込むべきではない細菌などの異物が体内に入り込んでしまう。
異物が体内を駆け巡ることで体調は悪化し、コンディションが低下する。そして、これが‘疲れ’として実感される。このような状態では、本来もっているパフォーマンスを発揮できない。
シスチン・グルタミン ミックスが腸管の傷害を抑制
では、トレーニングの負荷による腸管の傷害を抑制するにはどうすれば良いだろうか。そこで今回紹介するのが「シスチン」と「グルタミン」である。
シスチンは、アミノ酸の一つであるシステインが二つ結合したもの。食べ物では、鶏肉などに多く含まれているアミノ酸で、酸化ストレスによって生じる腸管の傷害を抑制する作用が知られている2)。一方のグルタミンは、免疫力を高めたり消化管の粘膜を守る働きが報告されているアミノ酸だ3)。
シスチンとグルタミンを一緒にとる、つまり「シスチン・グルタミン ミックス」が、ハードなトレーニングから、腸管を守ってくれるように働く。もちろんこれは理論にとどまらず、人を対象とした比較試験のデータも存在する4)。 詳しくは、「アミノ酸スポーツ栄養科学ラボ」を参照してほしい。
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- ピリオダイゼーションに合わせた食事と栄養②<試合期>
- ピリオダイゼーションに合わせた食事と栄養③<移行期(オフシーズン)>
引用文献
- 1)日本疲労学会.2010(PDF)
- 2)第75回日本体力医学会大会.2020
- 3)J Appl Physiol. 2014 Jan 15;116(2):183-91
- 4)第30回日本臨床スポーツ医学会学術集会.2019