関連4学会、新型コロナ禍を踏まえたエビデンスに基づく熱中症予防・治療の手引書を発行
日本救急医学会、日本臨床救急医学会、日本感染症学会、日本呼吸器学会の4学会はこのほど、「新型コロナウイルス感染症流行下における熱中症対応の手引き」の第2版を発行した。「マスクを着用すると体温が上がるか?」「マスクを着用すると熱中症の発症が多くなるか?」など、計7つのクリニカルクエスチョンに対するアンサーが示されている。
2020年6月の初版発行以来の改訂
同手引きの初版は2020年6月に発行された。当時はCOVID-19と熱中症との関連に関する研究報告が存在せず、エビデンスが乏しいなかでエキスパートオピニオンとしてまとめられた。それから2年が経過し、その間にこのテーマに関する論文が多く発表されてきた。それらのエビデンス蓄積を背景として、第2版が編集された。
第2版の編集にあたり設定されたクリニカルクエスチョンは初版と同様6項目。「熱中症」と「COVID-19」を含む検索式で、MEDLINEから60件、Cochraneから1件、医中誌から13件の論文を収集したほか、必要な文献の補足のため適宜、学会発表や総説も検索の対象とされた。
内容の詳細は、文末に示したリンク先から「手引き」を参照していただくとして、ここでは「予防」に関するクリニカルクエスチョンを中心にその一部を紹介する。
マスク着用の注意点で2つのQ&A
まず、「熱中症を予防する上でのマスク着用の注意点は何か?」という予防に関する項目の中に、2つのQ&Aが設けられている。1つ目は「マスクを着用すると体温が上がるか?」であり、そのアンサーは、「暑熱環境における1時間程度の軽度の運動、あるいは20分のランニング程度の運動強度では、マスクの着用が体温に及ぼす影響はない」とされている。
2つ目は「マスクを着用すると熱中症の発症が多くなるか?」で、「健常成人においてマスクの着用が熱中症の危険因子となる根拠はない」とされている。ただし、「解説」の中には、「マスク着用にかかわらず暑熱環境における運動が深部体温に及ぼす影響は大きい。マスクを着用しなかったからといっても、暑熱環境においては熱中症のリスクが十分に軽減されるわけではないと解釈して、特に暑熱環境において運動をする場合や高齢者や小児、肺疾患がある傷病者は、エアコンや水分補給などの熱中症対策は継続するべき」との記載があり、熱中症リスクに注意が喚起されている。
熱中症とCOVID-19は鑑別できるか?
診断関連では、「熱中症とCOVID-19は臨床症状から区別できるか?」とのクリニカルクエスチョンがあり、アンサーは「熱中症とCOVID-19はいずれも多彩な全身症状を呈するため、臨床症状のみから鑑別は困難である」とされている。また、「解説」の中で、「屋外での労働・スポーツ、エアコンのない屋内などの暑熱環境の暴露という病歴があれば、熱中症の可能性が上がる。しかし、暑熱環境の暴露があるからといって、COVID-19を否定できるわけではない」とも記されている。
なお、文献を基にまとめられた「熱中症とCOVID-19の特徴的な臨床症状の発生頻度」という表が「解説」の中に示されている。その表の中にある、熱中症では「通常はない」とされているCOVID-19の症状をピックアップすると、鼻汁、咽頭痛、咳嗽、くしゃみ、嗄声、味覚障害が該当する。一方、COVID-19では「ほとんどなし」とされる熱中症の症状としては、筋痙攣が該当する。
上記以外のクリニカルクエスチョンは、予防の項目には「COVID-19の予防で『密閉』空間にしないようにしながら、熱中症を予防するためには、どのようにエアコンを用いるべきか?」、診断の項目には「血液検査は熱中症とCOVID-19の鑑別に有用か?」、「高体温、意識障害で熱中症を疑う患者の胸部CT検査はCOVID-19の鑑別診断に有用か?」、治療の項目には「COVID-19の可能性がある熱中症患者の場合、蒸散冷却法を用いて、患者を冷却するべきか?」が掲げられている。
手引書のダウンロードはこちら
「新型コロナウイルス感染症流行下における熱中症対応の手引き(第2版)」について(日本救急医学会)
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