第8回「サッカーにおけるクレアチン摂取の有用性」
サプリメントを安全かつ効果的に活用するには、サプリメントに関する正しい知識が不可欠です。本シリーズでは、スポーツサプリメントの代表格であるクレアチンについて、エビデンスに基づいた情報を取りまとめ、テーマ別にご紹介いたします。第8回は世界で最も愛されるスポーツである「サッカー」のパフォーマンスへのクレアチンの効果をご紹介致します。
はじめに
国際スポーツ栄養学会はクレアチンを筋肉形成・パフォーマンス向上に強いエビデンスと安全性を持つ成分であるとしており1) 、国内外において、多くのアスリートがクレアチンを使用している。
サッカーにおいても、たとえばプレミアリーグを含むイギリスのプロサッカー選手を対象にした調査では回答者の37%がクレアチンの摂取を報告している2)。FIFA ワールドカップの選手を対象にした調査では、ビタミン・ミネラル・アミノ酸全般に次ぐサプリメントとしてクレアチンの摂取が報告されている3)。
サッカーとクレアチン
クレアチンは「(断続的な)短時間高強度の無酸素運動」に密接に関わるエネルギー源であるが、スプリント、ジャンプ、タックル、キック、方向転換といった、サッカーの試合結果を左右し得る運動では、この無酸素性エネルギーが重要な役割を果たしている4)。たとえば6秒以内のスプリントはほぼ無酸素性エネルギーに依存すると言われている5)。一試合を通してスプリントやジャンプを高いパフォーマンスで発揮・維持し続けるのに、クレアチンの摂取が有益である可能性が試験で示されている。
サッカーにおけるクレアチンの摂取効果
クレアチンの摂取効果は様々な層、国籍のサッカー選手で確認されている。
試験:スプリントパフォーマンスの向上5)
被験者
スペイン人男性サッカー選手17名(平均20.3歳)
試験方法
- 摂取期間:6日間。被験者を2群(クレアチン摂取群とプラセボ群)に分け、クレアチン摂取群はクレアチンモノハイドレートを5g × 4回/日摂取。
- 反復スプリントテストを実施(30秒の回復期を挟み、最大15mのスプリントを6回実施)。その後、ジャンプパフォーマンスのテストも実施。
試験結果
- クレアチン摂取群の5mおよび15mのスプリントパフォーマンス(合計タイム/平均タイム)が、摂取後向上した。特に5mのスコア(合計タイム/平均タイム)は有意に向上した(p<0.05)。
- 対照群では観察されたジャンプパフォーマンスの低下が、クレアチン摂取群では抑制された。
試験:サッカー関連スキル・パフォーマンスの向上6)
被験者
ヨーロッパ圏の男子ユースサッカー選手20名
試験方法
10g×3回/日を7日間摂取。摂取前後にサッカー特有スキルのテストを受けた。
試験結果
ドリブルタイム、スプリントタイム、垂直跳びのパフォーマンスが試験前後で有意に向上した。プラセボ群と比較しても有意に向上した。
試験:プレシーズン期間の下肢筋力・パフォーマンス低下抑制7)
被験者
ブラジル人男性エリートサッカー選手14名(所属:レッドブル ブラジル フットボール)
試験方法
- 5g×4回/日を7日間摂取。その後5g/日を6週間摂取。
- プレシーズン期間中(7週間)、フィジカルトレーニングとサッカートレーニングを実施。下肢の筋力をジャンプパフォーマンス(CMJ)で測定。
試験結果
クレアチン摂取群はジャンプパフォーマンスの低下(下肢筋力の低下)が抑制された。
この他にも、サッカー選手を対象に、下記の試験が実施されている。
スプリント持久力の向上4)
ドリブルと反復スプリントのパフォーマンス向上8)
敏捷性および反復スプリントのパフォーマンス向上9)
プライオメトリック・トレーニング(瞬発力のパフォーマンスを高めるためトレーニング)の効果向上10)
まとめ(サッカー選手におけるクレアチンの効果)
- 様々な層・国籍のサッカー選手を対象に、クレアチン摂取による有益な効果が試験で示されている。
- クレアチンの摂取により、サッカー選手のスプリントやジャンプのパフォーマンス、ドリブルなどのサッカー特有のスキル、パワー・敏捷性、トレーニング効果が向上したことが試験で示されている。
参考文献
- 1) Kerksick et al. ISSN exercise & sports nutrition review update: research & recommendations. Journal of the International Society of Sports Nutrition (2018) 15:38
- 2) Waddington et al. Drug use in English professional football. Br J Sports Med 2005;39:e18
- 3) Tscholl et al. The use of medication and nutritional supplements during FIFA World Cups 2002 and 2006. Br J Sports Med. 2008 Sep; 42(9): 725–730.
- 4) Yáñez-Silva et al. Effect of low dose, short-term creatine supplementation on muscle power output in elite youth soccer players. J Int Soc Sports Nutr. 2017, 14:5.
- 5) Mujika et al. Creatine supplementation and sprint performance in soccer players. Med Sci Sports Exerc. 2000, 32(2):518-25.( https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10694141/)
- 6) Ostojic et al. Creatine supplementation in young soccer players. Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2004, 14(1):95-103.
- 7) Claudino et al. Creatine monohydrate supplementation on lower-limb muscle power in Brazilian elite soccer players. J Int Soc Sports Nutr. 2014, 11:32.v
- 8) Mohebbi et al. Effect of Creatine Supplementation on Sprint and Skill Performance in Young Soccer Players. Middle East J Sci Res. 2012, 12(3):397-401.
- 9) Cox et al. Acute creatine supplementation and performance during a field test simulating match play in elite female soccer players. Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2002, 12(1):33-46.v
- 10) Ramírez-Campillo et al. Effects of plyometric training and creatine supplementation on maximal-intensity exercise and endurance in female soccer players. J Sci Med Sport. 2016, 19(8):682-7.
特集「クレアチン」
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- 第2回「クレアチンの摂取方法・安全性」
- 第3回「クレアチンの主な効果、相性の良いサプリメント」
- 第4回「中高齢者のクレアチン摂取効果」
- 第5回「クレアチン摂取によるメンタルパフォーマンスの向上」
- 第6回「クレアチン摂取による脳損傷、持久パフォーマンスへの効果」
- 第7回「クレアチン摂取による骨と脳への効果」
- 第8回「サッカーにおけるクレアチン摂取の有用性」
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