第7回「クレアチン摂取による骨と脳への効果」
サプリメントを安全かつ効果的に活用するには、サプリメントに関する正しい知識が不可欠です。本シリーズでは、スポーツサプリメントの代表格であるクレアチンについて、エビデンスに基づいた情報を取りまとめ、テーマ別にご紹介いたします。
第7回目は前回(クレアチン摂取による脳損傷、持久パフォーマンスへの効果)に引き続き、クレアチン研究の第一人者であるラルフ・イェーガー博士らに、近年研究が進みつつある、クレアチン摂取による骨や脳への効果をテーマに執筆いただきました。
はじめに
クレアチンは体内に自然に存在しており、肝臓と腎臓で3つのアミノ酸(アルギニン、グリシン、メチオニン)から合成されている。また肉や魚にも含まれ、サプリメントとしても食されている1,2)。クレアチンは筋肉やそのパフォーマンスに影響を与えることが知られており、アスリートやボディビルダーに活用されてきた。しかし研究が進み、クレアチンは一般の健常者の体内でも重要な役割を果たすこと、筋肉だけでなく骨や脳の健康にも寄与することが分かってきた。
骨への効果
骨は「破骨細胞」による「骨の吸収」と、「骨芽細胞」による「骨の形成」により恒常性が保たれている3)。クレアチンはこの骨のリモデリング(再形成)のプロセスに影響を与える可能性がある。
直接的な影響
骨細胞はATPの再合成をクレアチンキナーゼ反応に依存しているが、クレアチンは骨の形成に関わる「骨芽細胞」の活性・分化を促し、「オステオプロテゲリン」の生成を高める可能性がある。「オステオプロテゲリン」は骨の吸収に関わる「破骨細胞」の活性を抑制するタンパク質である。また、クレアチンは「1型コラーゲン架橋N-テロペプチド(骨吸収のマーカー)」の尿からの排泄を減らす。
間接的な影響
クレアチン摂取とウェイトトレーニングを併用し筋肉量が増えると、筋肉の牽引による骨への負荷が高まり、骨の形成を促進する4,5)。
クレアチンと骨に関する試験として、動物試験(ラット)では、クレアチン摂取群がプラセボ群と比べて腰椎の骨密度を増やし、大腿骨の強度を12%増やした6)ことや、腰椎の骨リン酸量を有意に増やした7)ことが報告されている。一方、有酸素運動の有無にかかわらず、骨密度、骨強度、骨組織形態への影響は示されなかったという報告もある8)。
ヒト試験では現在のところ、クレアチンが健常者の骨に影響を与えるとする試験は限られているが、結論として運動を併用しない場合には、クレアチン摂取が骨の健康を増進させることはないようである(※)。
- 高齢の女性がクレアチンを摂取(20 g/日を5日間、その後 5 g/日を23週間)。骨量や血清中の骨マーカーへの影響はみられなかった9)。
- 閉経後の女性がクレアチンを摂取(1g/日を52週間、3 g/日を104週間)。骨密度、骨の構成、骨形成や吸収の血清マーカーへの効果は示されなかった。
しかし、クレアチン摂取をウェイトトレーニングと併用した場合には、複数の肯定的な結果が得られている。健常者がクレアチン摂取とウェイトトレーニングを併用した試験は7報あり、クレアチンが骨の健康に対して効果を示した試験は以下の2報である。
試験①
- 内容:クレアチン(0.1 g/kg体重/日)を10週間、ウェイトトレーニング(3日/週)と併用して摂取。
- 結果:クレアチン摂取群の骨吸収のマーカーが27%減少した(一方、プラセボ群では13%の増加)。
試験②
- 内容:閉経後の女性がクレアチン(0.1 g/kg体重/日)を12カ月、ウェイトトレーニング(3回/週)と併用して摂取。
- 結果:クレアチン摂取群はプラセボ群に比べて大腿骨頸部の骨密度の低下が有意に抑えられた10)。加えて、クレアチン摂取群は大腿骨骨幹部骨膜下の厚さが改善して、骨の強度にプラスの影響を与えた。
骨のターンオーバー(生まれ変わり)と成長には時間がかかるため、骨の健康増進を示すためには、長期の介入(9カ月以上)と充分なトレーニング(3回以上/週)が必要となる4)。
そのため、今後はさらに進化した画像技術を使用して骨の指標を評価することも必要であると思われる。
脳への効果
クレアチンと脳機能の関係についても近年研究が進みつつある11,12)。クレアチン摂取により脳内のクレアチン量13)とクレアチンリン酸/ATP比14)は一般的に増加する。またクレアチン摂取は動物試験では認識機能に肯定的な影響を与えること、若い健康な人でも特にストレス下(低酸素症、精神的疲労、睡眠不足等)での認識機能を改善することが示されている。
高齢者向け試験では結果が分かれている。総合的な認識機能、実行機能、記憶力に効果を示さなかったという報告(20g/日を5日間、その後5 g/日で計24週間)15)もあれば、記憶力(数字の順列記憶、順列逆列交互記憶、長期記憶)においてプラセボ群に比べて改善を示したという報告(20g/日を計7日)16)や、繊維筋痛症の中高齢者の付随的記憶に好ましい効果が見られたという報告(20g/日を5日間、その後5g/日を15週間)17)もある。
試験数はまだ限られているものの、クレアチンは特にストレス下の脳の機能に対して効果を発揮するように思われる。
まとめ
既存のエビデンスによると、クレアチンは充分な頻度で一定期間(9カ月以上)のウェイトトレーニングと併用した場合、骨の強度を高めることが示されている。
また、クレアチンを摂取することで脳内のクレアチン量が増え、特にストレス下での脳の認識機能に影響を与える可能性がある。骨と脳の健康に寄与するために必要な摂取量や摂取方法については、今後更なる研究が求められる。
著 者
参考文献
- 1) Forbes, S. C.; Candow, D. G.; Ferreira, L. H. B.; Souza-Junior, T. P. Effects of Creatine Supplementation on Properties of Muscle, Bone, and Brain Function in Older Adults: A Narrative Review. J. Diet. Suppl. 2021, 1-18.
- 2) Wyss, M.; Kaddurah-Daouk, R. Creatine and creatinine metabolism. Physiol. Rev. 2000, 80, 1107-1213.
- 3) Yasuda, H.; Shima, N.; Nakagawa, N.; Mochizuki, S. I.; Yano, K.; Fujise, N.; Sato, Y.; Goto, M.; Yamaguchi, K.; Kuriyama, M.; Kanno, T.; Murakami, A.; Tsuda, E.; Morinaga, T.; Higashio, K. Identity of osteoclastogenesis inhibitory factor (OCIF) and osteoprotegerin (OPG): a mechanism by which OPG/OCIF inhibits osteoclastogenesis in vitro. Endocrinology 1998, 139, 1329-1337.
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特集「クレアチン」
- 第1回「クレアチンの基礎 その効果と作用機序、歴史」
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- 第3回「クレアチンの主な効果、相性の良いサプリメント」
- 第4回「中高齢者のクレアチン摂取効果」
- 第5回「クレアチン摂取によるメンタルパフォーマンスの向上」
- 第6回「クレアチン摂取による脳損傷、持久パフォーマンスへの効果」
- 第7回「クレアチン摂取による骨と脳への効果」
- 第8回「サッカーにおけるクレアチン摂取の有用性」
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