クレアチン水和物+HMBでパフォーマンス、体組成に相加効果か 体系的レビューの結果
クレアチン水和物はアスリートに最も人気のあるサプリメントの一つであり、運動中の筋肉クレアチンの蓄積を増やしアデノシン三リン酸(ATP)の再生にかかわる。また筋グリコーゲン合成を刺激することでグリコーゲンプールを増加させる作用が報告されている。一方、β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(HMB)は、タンパク質の合成促進、分解抑制、炎症抑制等の作用を有し、好気性運動能力のパフォーマンス向上につながることが期待できる。
これらの2つのサプリメントは、異なる生理学的機序を有していることから、併用によって相加的、または相乗的効果を生じると考えられるが、十分な検討がなされていないことから、本論文の著者らは系統的レビューを行いエビデンスを整理した。
2019年7月までに発表された論文を、PubMed/MEDLINE、Web of Science、Scopusから検索。バイアスのリスクなどをクリアし選択基準にマッチする17件の論文を抽出。その後、調査対象の重複等を除外し、最終的に6件の論文を解析対象とした。6件中5件はチームスポーツに関する研究で、ラグビーが3件、バスケットボールとサッカーが各1件、残り1件は一般男性を対象とした研究だった。被験者はすべて男性で計201名、うち161名がハイレベルのスポーツリーグアスリートであり、残り40名が適度なトレーニングを受けている一般男性。介入期間は最短が6日、最長が42日間。6件中4件は、クレアチン水和物を3~10g/日、HMBを3g/日摂取するというプロトコルだった。他の2件は、最初の7日間は20g/日を摂取しその後は減らすなど、イレギュラーな方法をとっていた。
スポーツパフォーマンスへの影響
サッカー選手24名を対象にクレアチン水和物を3g/日+HMB3g/日で6日間介入した研究では、対プラセボでピークパワーと平均パワーの向上が確認された。その他の研究では有意な効果は認められなかった。
バスケットボール選手52名を対象とした30日間の介入研究では、対プラセボで嫌気性パワーの増強が認められた。一般男性40名を対象とした研究では、対プラセボで最大挙上重量の上昇が確認された。その他、有酸素能力等は有意な変化がみられなかった。
体組成への影響
バスケットボール選手を対象とした対プラセボ研究で、体重および除脂肪体重の増加、脂肪量の減少が認められた。一方、ラグビー選手や健常男性を対象とした研究では、有意な変化はみられなかった。
筋損傷マーカー、同化/異化ホルモンへの影響
クレアチンキナーゼや乳酸値への影響はみられなかった。また、同化ホルモン(テストステロン)、異化ホルモン(コルチゾール)分泌に変化は確認されなかった。
これらの結果から著者らがまとめた結論は以下のとおり。
この系統的レビューの主な結果は、1~6週間のクレアチン水和物3~10g/日と3g/日のHMBの組み合わせが、筋力パフォーマンス、嫌気性パフォーマンスの向上をもたらすことを示しているようだ。体組成の改善(除脂肪体重の増加と脂肪量の減少)は、それらを単独で摂取する場合の効果を超える場合がある。しかし、両方のサプリメントを組み合わせた場合において、運動誘発性の筋損傷マーカー、および同化/異化ホルモン状態に有意な影響は認められなかった。
文献情報
論文のタイトルは「Effect of the Combination of Creatine Monohydrate Plus HMB Supplementation on Sports Performance, Body Composition, Markers of Muscle Damage and Hormone Status: A Systematic Review」。〔Nutrients. 2019 Oct 20;11(10). pii: E2528〕
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