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クレアチンは消防士の消化・救助などのパフォーマンスを向上する 無作為化二重盲検試験

アスリートのパフォーマンス向上に関しては確立したエビデンスの存在するクレアチンが、消防士の消化・救助活動のパフォーマンスも有意に向上させ得ることを示す研究結果が発表された。米国で行われた、無作為化二重盲検試験の報告。

クレアチンは消防士の消化・救助などのパフォーマンスを向上する 無作為化二重盲検試験

消防士はアスリートという側面があり、栄養戦略が必要

消防士は高温で危険な状況下で人命救助と消火活動にあたる、肉体的・精神的に厳しい職業であり、アスリートとみなすことも可能。これまでの研究で、消防士は日常的に最大心拍数の90%、70~73%VO2maxの強度の任務を遂行していることが報告されている。このパフォーマンスの維持・向上のために、日々の専門的な身体トレーニングとともに、栄養戦略が重要となる。

消防士の栄養要件は一般人口よりも高く、とくに高タンパク質とすることが除脂肪体重のサポートに役立つ。また、タンパク質に炭水化物を加えることでアミノ酸の摂り込みが増加し、筋損傷の軽減や回復の促進、およびグリコーゲンの可用性が高まることも知られている。

一方、アスリートにおいては、クレアチンのパフォーマンス上の有用性について確固たるエビデンスが存在し、広く利用されている。また、クレアチンは、高温多湿の環境下でのパフォーマンス低下を抑制する可能性があることも報告されており、この点は消火活動に従事する消防士を強力にサポートする作用といえる。

ただし、これらの諸点はアスリート対象の研究で得られた知見であり、タンパク質に炭水化物を加えたり、クレアチンを摂取したりすることが、消防士にもプラスに働くのかは明らかになっていない。また消防士の平均年齢は40歳代であり、アスリートで言えばマスターに相当し、パフォーマンスのピークを過ぎた時期にあたる。そのような年齢の消防士の活動をサポートする手段として、それらの栄養戦略の有効性が示されたとしたら、意義は小さくない。

これらを背景として、今回紹介する論文の著者らは、現役の消防士を対象とした以下の無作為化二重盲検試験によって、消防士対象の栄養戦略の有用性を探った。

30人の男性現役消防士に約24日間介入して影響を比較

研究の対象は30人の男性現役消防士。年齢が18~55歳で筋骨格系疾患などのパフォーマンスに影響を及ぼし得る疾患に罹患していないことを適格条件とした。また、プロテインやクレアチンなどのサプリメントを利用している場合は、研究参加の4週間以上前に摂取を中断してもらった。

全体を無作為に15人ずつの2群に分類。対象者全体のおもな特徴は、年齢34.4±8.4歳、身長1.82±0.07m、体重88.6±12.5kg、体脂肪率17.2±5.8%であり、群間に有意差はなかった。

栄養介入:タンパク質+炭水化物±クレアチン

2群のうち1群には25gのホエイプロテインと25gの炭水化物からなるサプリ、他の1群にはそれらに加えて5gのクレアチン一水和物を含むサプリを支給し、約24日間(平均23±2日、範囲21~26日)摂取してもらった。それらのサプリは粉末の形で提供され、外観、食感、苦み、甘味は区別ができないように調整されていた。

摂取タイミングは、トレーニング日は運動後1時間以内、トレーニングを行わない日は起床直後とした。なお、介入期間に幅がある理由は、個々の参加者の勤務ローテーションを優先したため。

評価項目:3.5kmタイムトライアルと消火・救助特異的パフォーマンス

栄養介入の効果は、介入前後での自転車エルゴメーターでの3.5kmのタイムトライアル、および以下に示す職業特異的なパフォーマンステストにより評価した。

職業特異的なパフォーマンステストの項目とは、消火活動(口径4.45cmで30mの消火用ホースを30m前進させて2秒間放水)、人命救助(体重50kg、身長180cmのマネキンを抱えて30m後方に退避させる)、階段昇降(4階までの上り下り)、強制侵入(ハンマーや切断機を用いて模擬現場に侵入する)。これらを30秒の休息を挟みながら連続して行い、各作業に要した時間、および合計のタイムを計測した。

ベースラインにおいては、これらのパフォーマンス指標に、群間の有意差が認められなかった。

両群でパフォーマンスが向上し、クレアチン+群でより向上

介入期間中にプロトコル逸脱が各群1人ずつみられ、解析は各群14人で行われた。

解析の結果、3.5kmタイムトライアルに関しては、両群ともに介入後の記録のほうが良好だったが有意な変化ではなく、また群間差も認められなかった。

一方、職業特異的パフォーマンスについては、人命救助と強制侵入に時間×割付の有意な影響が認められた。また、人命救助、階段昇降、および合計タイムには、有意な時間効果が認められた。消火活動には有意な影響がみられなかった。以下に、職業特異的パフォーマンスで有意な影響が認められた項目の結果を示す(単位はすべて秒)。

人命救助
介入前(秒)介入後(秒)
クレアチン-群12.5±4.012.5±4.7
クレアチン+群14.7±2.512.9±2.4
介入前後の比較:p=0.006
介入前後×割付での比較:p=0.004
階段昇降
介入前(秒)介入後(秒)
クレアチン-群30.9±6.728.2±5.6
クレアチン+群30.3±5.030.1±3.6
介入前後の比較:p=0.044
介入前後×割付での比較は非有意(p=0.064)
強制侵入
介入前(秒)介入後(秒)
クレアチン-群15.8±4.416.7±5.1
クレアチン+群18.1±6.317.7±6.1
介入前後の比較は非有意(p=0.960)
介入前後×割付での比較:p=0.010
合計タイム
介入前(秒)介入後(秒)
クレアチン-群68.4±12.067.2±14.1
クレアチン+群72.6±12.469.9±10.8
介入前後の比較:p=0.042
介入前後×割付での比較は非有意(p=0.452)

交絡因子を調整した追試での検証を

以上の結果に基づき論文は、「消防士の食事にタンパク質と炭水化物を付加し3週間介入すると、職業パフォーマンスが向上する。さらにクレアチンを追加した場合は、より大きな向上を期待できる」と結論づけられている。

一方で著者らは本研究の限界点として、非介入の対照群を設けなかったために、介入前後の変化が栄養戦略の影響とは断定できないこと、消防士の勤務スケジュールを優先したため、交絡因子が存在することなどを挙げ、より厳格なデザインでの追試の必要があるとしている。

なお、介入期間中にクレアチン+群の2人、クレアチン-群の1人が消化器症状を訴えたが、これはサプリメントの盲検化のための加工に用いられた人工香料の影響と考えられ、摂取を継続しているうちに自然に解消されたという。

文献情報

原題のタイトルは、「The Effects of Protein and Carbohydrate Supplementation, with and without Creatine, on Occupational Performance in Firefighters」。〔Nutrients. 2023 Dec 18;15(24):5134〕
原文はこちら(MDPI)

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