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特集「クレアチン」
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第6回「クレアチン摂取による脳損傷、持久パフォーマンスへの効果」

サプリメントを安全かつ効果的に活用するには、サプリメントに関する正しい知識が不可欠です。本シリーズでは、スポーツサプリメントの代表格であるクレアチンについて、エビデンスに基づいた情報を取りまとめ、テーマ別にご紹介いたします。

第6回目は前回に引き続き、クレアチン研究の第一人者であるラルフ・イェーガー博士らに、近年研究が進みつつある、クレアチン摂取による脳損傷や持久パフォーマンスへの効果をテーマに執筆いただきました。

特集「クレアチン」第6回「クレアチン摂取による脳損傷、持久パフォーマンスへの効果」

外傷性脳損傷とクレアチン

スポーツと脳震とう

コンタクトスポーツやチームスポーツ選手の頭部は、日々の練習や試合時に繰り返し衝撃を受けている。アメリカではスポーツや余暇活動の中で1年に380万件もの脳震とうが起こっていると推計されている(それらの50%は報告されていない)1)。 頭部のケガは様々なスポーツで起こりうるが、脳震とうが起こる上位6種目は馬術(47%)、ボクシング(35%)、ラグビー(26%)、サッカー(13%)、アメリカンフットボール(11%)、アイスホッケー(9%)である。アメリカンフットボールでは若い選手が1シーズン競技すると脳に変化がもたらされ、サッカーでは選手が10回ヘディングをすると脳に損傷を示すと言われている。

外傷性脳損傷とクレアチン

最近、スポーツにおける軽度の震とう性頭部外傷が、明らかな機能性障害や臨床的診断がなくても、脳内で定量性構造2)と機能変化3)をもたらすことが示された。脳内のクレアチン量も、軽度の外傷性脳損傷や頭部への継続的な衝撃によって減少する。

この軽度の外傷性脳損傷の神経病理とクレアチンの細胞における役割の間には重要な関係がある4)。たとえば子供と若者を対象にした過去の研究では、外傷性脳損傷を負った後にクレアチンを摂取することで、その後の記憶障害の期間や集中治療室の滞在期間が短くなり、また頭痛(93.8%対11.1%)や目まい(56.3%対11.1%)や疲労(88.9%対17.6%)を減らすことが示された(5)。 しかしながら、アスリートもクレアチンを摂取することで同様の効果を得られるかについての研究はまだ不足している。

:カッコ内の%は、プラセボ群とクレアチン摂取群における同症状を訴えた人数の割合を示す。

持久パフォーマンスとクレアチン

クレアチン摂取が持久パフォーマンスに与える影響についての研究はまだ限られている6)が、以下のメカニズムによって持久パフォーマンスに変化をもたらす可能性がある。

  • 1)高エネルギーのリン酸代謝を高める。
  • 2)水素イオンを減らす。
  • 3)サイトゾルとミトコンドリア間で高エネルギーリン酸代謝物(ATP)の輸送を増やし、酸化リカバリーを高める。
  • 4)カルシウムの筋小胞体への再取り込みを増やし、力の生成を高める。
  • 5)炭水化物と一緒に消化することで筋肉のグリコーゲンを増やす7)

さらにクレアチンは持久的な運動をした後の炎症応答や筋肉損傷を減らす可能性がある。

クレアチンの短期摂取と持久パフォーマンス

クレアチンの短期摂取(5~7日)が持久パフォーマンスに及ぼす効果は研究によって異なり、これは運動の種目にも関係していると考えられる。具体的には、クレアチンを摂取すると多くの場合に体重が増えるため、ランニングのような体重負荷が関係する持久運動には向かないかも知れない8)一方、水泳・自転車・スケートといった競技には良い影響があると考えられる9, 10)

クレアチンの長期摂取と持久パフォーマンス

クレアチンの長期摂取(4週間以上)と持久パフォーマンスについては現在のところ3報報告されている。若い男性を対象に高強度インターバルトレーニングを併用した4週間の試験では、プラセボ群に比べ換気閾値を高め11)、パワーを高めた12)。一方で、全身の酸素取り込みや疲労までの時間、また全体運動量については効果が見られなかった11,12)。また、女性を対象にインターバルトレーニングを併用した4週間の試験では、心肺系の健康、換気閾値、トライアルタイムパフォーマンスは改善しなかった13)

クレアチンは持久運動の最後のひとふんばりで効果を発揮

クレアチンはスプリントのような高強度パワーの発揮が求められる局面のある持久運動には特に効果があると思われる。

試験例1

クレアチン摂取(6g/日を5日間)により、トライアスロン選手の持久力テストにおけるインターバルパワーパフォーマンスが有意に18%高まった14)

試験例2

クレアチン摂取(10g/日を7日間)により、400m水泳の最後の50mにおけるパフォーマンスが高まった15)

試験例3

試験内容:
  • トレーニングを行っている自転車選手が120kmのタイムを競い、10kmごとに1kmと4kmのスプリントタイムを交互に測定。全ての対象者は期間中、炭水化物を適量摂取(6g・体重㎏/日)もしくはローディング(12g・体重㎏/日)した。
  • クレアチン摂取群はクレアチン20g/日を5日間、その後3g/日を9日間摂取した。
試験結果
  • 全体のトライアルタイムに有意な影響はなかったが、クレアチン摂取群は120kmトライアルのラスト4kmにおけるスプリントパフォーマンスが高まった16)

ラスト4kmにおけるスプリントパフォーマンス

このことからクレアチンには持久運動における最後のひとふんばりへの効果があると考えられる。

まとめ

  • 脳内のクレアチン量は軽度の外傷性脳損傷や頭部への衝撃が蓄積すると減少する。子供と若者を対象にした研究では、外傷性脳損傷を負った後にクレアチンを摂取すると、頭痛、目まい、疲労が減少した(しかし、クレアチン摂取に予防効果があるかを示す研究はまだ不足している)。
  • 総合的に見ると、クレアチン摂取が持久パフォーマンスや持久適応力を安定的に改善することは示されていないが、持久競技の最後のスプリントパフォーマンスを高めることが示されている。

著 者

ラルフ・イェーガー博士(Dr. Ralf JAEGER, FISSN, CISSN, MBA)
ラルフ・イェーガー博士(Dr. Ralf JAEGER, FISSN, CISSN, MBA)
アメリカIncrenovo社取締役。ドイツ ボン大学にて有機化学博士号取得。認定スポーツニュートリショニスト(CISSN)、国際スポーツニュートリション学会特別会員(FISSN)
マーティン・プープラ博士(Dr. Martin PURPURA)
マーティン・プープラ博士(Dr. Martin PURPURA)
アメリカIncrenovo社取締役。ドイツ ボン大学にて有機化学博士号取得。
スコット・フォーブス博士(Dr. Scott FORBES)
スコット・フォーブス博士(Dr. Scott FORBES)
カナダ ブランドン大学体育学科准教授、カナダ レジーナ大学 運動生理学科非常勤教授。認定スポーツニュートリショニスト(CISSN)、臨床運動生理学者(CSEP)、ハイパフォーマンススペシャリスト(CSEP)。
井上 俊忠(Toshitada INOUE)
株式会社ヘルシーナビ 代表取締役

第7回「クレアチン摂取による骨と脳への効果」

参考文献

  • 1) K.G Harmon, et al. American Medical Society for Sports Medicine Position Statement: Concussion in Sport. Clin J Sport Med 2013, 23(1): 1–18.
  • 2) J.J. Bazarian, et al. Persistent, long-term cerebral white matter changes after sports-related repetitive head impacts. PLoS One. 2014:9.
  • 3) K. Abbas, et al. Alteration of default mode network in high school football athletes due to repetitive subconcussive mild traumatic brain injury: a resting-state functional magnetic resonance imaging study. Brain Connect. 2015, 5:91–101.
  • 4) P.J.A. Dean et al.: Potential for use of creatine supplementation following mild traumatic brain injury. Concussion 2017, 2(2):CNC34.
  • 5) G. Sakellaris, et al. Prevention of traumatic headache, dizziness and fatigue with creatine administration. A pilot study. Acta Paediatr 2008, 97(1):31-4.
  • 6) R.B. Kreider, et al. International Society of Sports Nutrition position stand: safety and efficacy of creatine supplementation in exercise, sport, and medicine. J Int Soc Sports Nutr 2017, 14:18.
  • 7) T.M. Robinson, et al. Role of submaximal exercise in promoting creatine and glycogen accumulation in human skeletal muscle. J Appl Physiol (1985) 1999, 87(2):598-604.
  • 8) P.D. Balsom, et al. Creatine supplementation per se does not enhance endurance exercise performance. Acta Physiol Scand 1993, 149(4):521-523.
  • 9) S.M. Cornish, et al. The effect of creatine monohydrate supplementation on sprint skating in ice-hockey players. J Sports Med Phys Fitness. 2006, 46(1):90-98.
  • 10) S.C. Forbes, et al. Supplements and Nutritional Interventions to Augment High-Intensity Interval Training Physiological and Performance Adaptations-A Narrative Review. Nutrients 2020, 12(2):390.
  • 11) J.L. Graef, et al. The effects of four weeks of creatine supplementation and high-intensity interval training on cardiorespiratory fitness: a randomized controlled trial. J Int Soc Sports Nutr. 2009, 12:18.
  • 12) K.L. Kendall, et al. Effects of four weeks of high-intensity interval training and creatine supplementation on critical power and anaerobic working capacity in college-aged men. J Strength Cond Res 2009, 23(6):1663-1669.
  • 13) S.C. Forbes, et al. Creatine Monohydrate Supplementation Does Not Augment Fitness, Performance, or Body Composition Adaptations in Response to Four Weeks of High-Intensity Interval Training in Young Females. Int J Sport Nutr Exerc Metab 2017, 27(3):285-292.
  • 14) M. Engelhardt, et al. Creatine supplementation in endurance sports. Med Sci Sports Exerc 1998, 30(7):1123-1129.
  • 15) W. Anomasiri, et al. Low dose creatine supplementation enhances sprint phase of 400 meters swimming performance. J Med Assoc Thai 2004, 87(Suppl 2):S228-232.
  • 16) K.A. Tomcik, et al. Effects of Creatine and Carbohydrate Loading on Cycling Time Trial Performance. Med Sci Sports Exerc. 2018, 50(1):141-150.
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