クレアチン補給効果は菜食主義アスリートでより大きい可能性 文献レビューより
クレアチンは、肉や魚、家禽などの動物組織に多く含まれている。アスリート、とくに無酸素運動系のアスリートは、それらを多く摂取する傾向があるが、さらに十分量を摂取するためにクレアチンの栄養補助食品を利用することも多い。
一方、菜食主義者の場合、日々の食事からのクレアチン摂取量は大幅に減少すると考えられる。肉類以外では卵や乳製品に少量のクレアチンが含まれているだけであり、ビーガン(完全菜食主義者)では、そのわずかなクレアチン源も摂取せず、外因性クレアチンはほぼないに等しい。また、菜食主義者にしばしばみられるビタミンB12欠乏状態ではメチオニン合成酵素の機能が低下し、それによってクレアチン生合成が減少することも考えられる。
菜食主義者のクレアチン補給の効果をシステマティックレビューで検討
このようなことから、菜食主義者ではクレアチン補給の効果が非菜食主義者(通常の食事を摂取している者)に比べ、より大きなメリットを得られる可能性がある。そこで本論文の著者らは、菜食主義者のクレアチン補給の効果を検討した報告のシステマティックレビューを行った。
PubMedおよびSPORTDiscusを用い、「クレアチン」「ベジタリアン」「ビーガン」などのキーワードで文献検索を実施。無作為化比較試験または前向き研究でクレアチン補給の効果を検討した論文を抽出した。最終的に条件にマッチする論文として、11件の報告(9件の研究)が残った。
主な結果と考察
菜食主義者ではクレアチンレベル上昇の効果がより高い
菜食主義者がクレアチンを補給した場合、非菜食主義者と比較し、補給後にクレアチンとホスホクレアチンのレベルの上昇幅がより大きいことが明らかになった。例えば、5〜7日のクレアチン補給(20〜25g/日)では、血漿クレアチン、外側広筋クレアチン、および腓腹筋ホスホクレアチンレベルのより大きな上昇が報告されている。
菜食主義者は非菜食主義種よりもベースラインのクレアチンレベルが低いにもかかわらず、補給後のクレアチンおよびホスホクレアチンレベルはより高くなる。この知見は、非菜食主義者で肉食を一時的に中止し、筋肉のクレアチンを枯渇させ、その後の補給によってクレアチンおよびホスホクレアチンレベルを大幅に上昇する潜在力を示唆するものだ。その可能性を検討した介入研究は1件報告されていた。
非菜食主義の男性を無作為に二分し26日間、通常食またはラクトオボベジタリアンダイエット(乳・乳製品・卵も摂食可)を行い、最後の5日間(22〜26日目)にクレアチン0.3g/kg/日のサプリメントまたはプラセボを無作為化して摂取させた。その結果、外側広筋の総クレアチンは、ベジタリアン食-クレアチン補給群で20%、通常食-クレアチン補給群で10%上昇していた。いずれもプラセボ補給よりも有意に大きな上昇がみられたが、被験者数が少ないため統計的検出力が不足し、有意には至らなかった。ホスホクレアチンも22%の差異が認められ、この差は短期間の高強度の運動パフォーマンスの相違をもたらすと考えられるが、この研究ではパフォーマンスの評価はされてなかった。
筋肉のクレアチンレベルを高めるために、一時的にクレアチンを枯渇させるべきか否かは今後、興味深い研究テーマの一つとなるであろう。
菜食主義者のクレアチン補給は、パフォーマンスをより向上させるか?
菜食主義者は非菜食主義者よりもクレアチン補給に強く反応することがわかった。そこで、菜食主義者ではクレアチン補給により運動パフォーマンスが大幅に向上するのではないかとの期待が湧く。
しかしながら、この点に関する研究の結果は一致していなかった。ベジタリアン食、通常食、ベジタリアン食+クレアチン1g/日に群分けし6カ月間介入、サイクルエルゴメーターテストでパフォーマンスを評価した検討では、血漿と筋肉のクレアチンレベルは群間差が生じたがパフォーマンスには群間差が観察されなかった。ただしこの検討で用いられたパフォーマンステストは、無酸素性エネルギー供給システムをみるというよりも有酸素能力のテストに近いものであった。
7名の菜食主義者と非菜食主義者の男性を対象に、クレアチン0.4g/kg/日またはプラセボを5日間摂取させクロスオーバーし、30秒間のウィンゲートテストを施行した検討では、菜食主義者と非菜食主義者の双方でクレアチン補給の効果を認めた。
一方で、非菜食主義者のほうがクレアチン補給効果による無酸素性パフォーマンスの向上効果が高いことを示した報告もみられた。7人の菜食主義者と9人の非菜食主義者に対し6日間のクレアチン補給後、ウィンゲートテストを施行したところ、平均出力は両群で約5%増加したが、ピーク出力の上昇は非菜食主義者のみで認められたという。
菜食主義者のクレアチン補給研究のリミテーションと今後の展開
エリートベジタリアンアスリートを対象とする研究
菜食主義者のクレアチンサプリメントの効果を検討した研究の限界として、多くの検討が非アスリート集団を対象に実施されている点が挙げられる。アスリートを対象に行われたものとして唯一該当した研究では、菜食主義者はクレアチン補給とトレーニングによる介入期間中の外側広筋の総クレアチンとホスホクレアチンの増加が、非菜食主義者よりも大きく、除脂肪組織量のより大きな増加と、筋持久力の向上も認められた。
この研究が他の研究と異なる点は、対象がスポーツ実践者であったことのほかに、介入期間が56日間と比較的長期間であったこと、およびレジスタンストレーニングプログラムと組み合わせた介入が行われたことが挙げられる。ただしこの研究でも対象者は「レクリエーション」であると報告されている。今後のクレアチンに関する研究は、よりエリートなベジタリアンアスリートを対象に介入し効果を評価することが一つの方向性となるであろう。
クレアチンの脳機能への働きの解明
体内のクレアチンのほとんどは筋肉に蓄えられている。しかし脳もそのエネルギー源として一部をホスホクレアチンに依存しているため、クレアチン補給が脳機能に及ぼす影響にも関心が向けられる。筋線維の収縮には脳-脊髄との連携が不可欠であることからも、脳機能はアスリートにとって重要だ。
70人の女性菜食主義者と51人の非菜食主義者をクレアチン20g/日またはプラセボを5日間摂取させたところ、クレアチンを与えられていた菜食主義者でのみ記憶力が強化されたとの報告がある。また、45人の菜食主義者にクレアチン5g/日またはプラセボを6週間補摂取させるクロスオーバー試験では、プラセボ投与期間に比べクレアチン投与期間で作業記憶と知的能力が向上したという。
これらの研究は、クレアチン補給が菜食主義者の記憶力等を高めることができることを示唆するものであり、スポーツパフォーマンス向上につながる可能性を秘めている。例えば、クレアチンを摂取する菜食主義者は過去の競技中の対戦相手の戦略をよりよく覚えていられる可能性がある。もちろん、何らかの方法で効果を実証する必要はあるが、興味深いテーマと言える。
菜食主義者はクレアチン補給効果がより大きい
以上のまとめとして著者らは、「クレアチン補給は菜食主義者や非菜食主義者のスポーツパフォーマンスを向上させる力があるが、この有効性は総貯蔵クレアチン量や対象者のベジタリアン維持期間など、いくつかの要因によって異なると考えられる。菜食主義者はクレアチン補給のメリットが大きく、さらにビーガンなどのより厳格な菜食主義者はクレアチンの総貯蔵量が少ないために、結果としてクレアチン補給の効果がより大きいと考えられる」と結論している。
文献情報
原題のタイトルは、「Benefits of Creatine Supplementation for Vegetarians Compared to Omnivorous Athletes: A Systematic Review」。〔Int J Environ Res Public Health. 2020 Apr 27;17(9)〕
原文はこちら(MDPI)
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