第9回「クレアチンの様々な『かたち』」
クレアチンには様々な「かたち」がありますが、第9回では、クレアチン研究の第一人者であるラルフ・イェーガー博士らに、様々な「クレアチン」を、エビデンスに基づき、評価、執筆をいただきました(著者プロフィール ▶)。
はじめに
「クレアチン」といえば、「クレアチンモノハイドレート」が一般的に知られていますが、これだけが唯一の「かたち」ではありません文献1-3)。
ここでは「クレアチンモノハイドレート」以外のクレアチンを含め、科学文献の分析に基づき、「①強いエビデンスがあるもの」「②エビデンスが限られているもの」「③全くエビデンスがないもの」に分類してみました。
①強力なエビデンスがあるもの
- クレアチンモノハイドレート
もっとも一般的に知られている「クレアチン」。エビデンスでは他製品の追随を許さない、いわば「クレアチン」の代表格。
例えば、薬物動態、バイオアベイラビリティ※の研究、多数のランダム化比較臨床試験で評価されてきた長い歴史により、有効性、安全性が証明されている文献4-22)。
②エビデンスが限られているもの
前述の「クレアチンモノハイドレート」以外にも様々な「かたち」が存在します文献2, 4)。
- クレアチンクエン酸塩
- クレアチンピルピン酸塩
- クレアチンマグネシウムキレート
- クレアチンエチルエステル塩酸塩
- クレアチン塩酸塩
- クレアチン硝酸塩
また、これらに加え、「アルカリ性クレアチン」(pH調整型クレアチン)と呼ばれるものもあります。この「アルカリ性クレアチン」は「クレアチンモノハイドレート」にアルカリ性粉末(炭酸ナトリウム、リン酸グリセロールマグネシウム、重炭酸塩等)を加え、pHを上げる(調整する)文献23)ことで安定性とバイオアベイラビリティを高めたとされるものです。
しかし、厳格に管理された臨床試験で、アスリートを対象に「クレアチンモノハイドレート」と「アルカリ性クレアチン」を摂取してもらい、試験(測定・比較)してみました文献24)。
試験内容
対象者
直近でクレアチン摂取歴なしのウェイトトレーニングを行うアスリート36名
摂取
- (1)クレアチンモノハイドレート摂取群:4×5g/日を7日間+5g/日を21日間
- (2)アルカリ性クレアチン高用量摂取群:4×5g/日を7日間+5g/日を21日間
- (3)アルカリ性クレアチンメーカー推奨用量摂取群:1.5g/日を28日間
の3群に分け、摂取0、7、28日後にそれぞれ測定。
試験結果
筋肉中のクレアチン量が最も増えたのは、(1)クレアチンモノハイドレート摂取群だった。
図 筋肉中のクレアチン量の変化
この試験から考えられること
高用量の「アルカリ性クレアチン」は筋肉中のクレアチン量をある程度経時的に増加させる可能性はありますが、「アルカリ性クレアチン」が「クレアチンモノハイドレート」よりも沢山の量を全身に循環させるのかについていえば、「クレアチンモノハイドレート」の方に優位性があると考えられます※。
③全くエビデンスがないもの
- その他のクレアチン塩類
- クレアチンマレイン酸塩
- クレアチンフマル酸塩
- クレアチン酒石酸塩
- クレアチンリンゴ酸塩
- クレアチンセラム:(CS)
- クレアチル-L-ロイシン:(CLL)
- クレアチノール-O-リン酸
上記のクレアチンは、バイオアベイラビリティ、有効性、安全性を裏付けるエビデンスが全くありません文献2)。
まとめ
今回は様々なクレアチンの「かたち」を紹介し、それらを3つに分類しました。
あらためてわかることは、クレアチンの中では「クレアチンモノハイドレート」が最も多くエビデンスを有しています。すなわち、安全性やバイオアベイラビリティの裏付けも豊富です。それ以外にも様々な「かたち」のクレアチンが存在しますが、それらで「クレアチンモノハイドレート」を上回る効果は示されていません文献2, 3)。
参考文献
著 者
特集「クレアチン」
- 第1回「クレアチンの基礎 その効果と作用機序、歴史」
- 第2回「クレアチンの摂取方法・安全性」
- 第3回「クレアチンの主な効果、相性の良いサプリメント」
- 第4回「中高齢者のクレアチン摂取効果」
- 第5回「クレアチン摂取によるメンタルパフォーマンスの向上」
- 第6回「クレアチン摂取による脳損傷、持久パフォーマンスへの効果」
- 第7回「クレアチン摂取による骨と脳への効果」
- 第8回「サッカーにおけるクレアチン摂取の有用性」
クレアチンに関する記事
- クレアチンは消防士の消化・救助などのパフォーマンスを向上する 無作為化二重盲検試験
- 第8回「サッカーにおけるクレアチン摂取の有用性」
- クレアチンによる疲労感の軽減、筋肉の張りや硬さの解消・回復促進をヒト対象試験で確認
- クレアチンの医学領域での可能性、リハビリテーション医学に関する考察を中心に
- クレアチンを含むさまざまなサプリメントで、安全性や有効性のエビデンスが豊富なのは?
- クレアチン摂取の影響は朝と夜で異なるのか エリート女性ハンドボール選手で検討
- 高齢者のクレアチン不足が狭心症や肝機能異常と関連 米国版・国民健康栄養調査を解析
- 第7回「クレアチン摂取による骨と脳への効果」
- 第6回「クレアチン摂取による脳損傷、持久パフォーマンスへの効果」
- 第5回「クレアチン摂取によるメンタルパフォーマンスの向上」
- 第4回「中高齢者のクレアチン摂取効果」
- クレアチンサプリに関する一般的な質問と誤解 国際スポーツ栄養学会がQ&Aを発表
- クレアチンを筋力トレーニング中にのみ摂取した場合の影響 身体活動の多い若年者で検討
- 第3回「クレアチンの主な効果、相性の良いサプリメント」
- クレアチン補給効果は菜食主義アスリートでより大きい可能性 文献レビューより
- 第2回「クレアチンの摂取方法・安全性」
- ボディビルダーの栄養摂取に関する推奨事項
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- クレアチン一水和物(CrM)とHMBの併用に相加的効果
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- クレアチン水和物+HMBでパフォーマンス、体組成に相加効果か 体系的レビューの結果